artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ワンダーシード2013
会期:2013/02/02~2013/02/24
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
2003年から始まった小品の公募+展示+即売会。10号(53×45.5センチ)未満の作品が3万円以下で売られている。ザッと数えてみると、100点中79点が売約済みだから、開催2週間でおよそ8割の売れ行き。これはかなりの高確率だ。ぼくの記憶では、始めたころは半分以上売れ残っていたのに、2007~08年ころはプチバブルのせいか、開催直後に売り切れてちょっと話題になっていた。それがリーマンショック後は再び売れ残りが目立つようになったものの、最近はまた復活し始めている感じ。たった10年でこんなに浮き沈みがあったんだと再認識した。まあ今年はイラストっぽい絵が減ってレベルアップしたから売れ行きも伸びたのかな、とも思ったけど、必ずしも作品の質的レベルと売れ行きは関係あるとは限らないことがわかる。
2013/02/16(土)(村田真)
超然孤独の風流遊戯 小林猶治郎展/富田有紀子展
会期:2013/02/17~2013/04/07
練馬区立美術館[東京都]
小林猶治郎は偉大な芸術家というわけではないし、美術史にも出てこないが、ちょっとおもしろい絵を描く画家。若いころ肺を病み、25歳までしか生きられないと宣告されて慶応大学を中退し、好きな絵を描いてすごしてるうちに93歳まで長生きしてしまったという、ならば人生設計ちゃんとやってればぜんぜん違う人生を歩んだかもしれない人。画業は関東大震災後の1920年代から70年近くにおよぶが、出品は初期の20~30年代が大半を占めている。輪郭や陰影のはっきりした粘着質な描法は牧野虎雄に似ているなあと思ったら、牧野に師事したことがあるそうだ。小鳥を描いた絵の上に金網をかぶせて鳥小屋に見立てたり、ゴツゴツした木の幹を四角く組んで額縁にしたり、あれこれ工夫しているのがかわいい。戦後50年代の一時期には時流に乗ったのか抽象も試みている。晩年には簡潔な絵の余白にひとこと添える文人画のような作品にいたったが、考えてみれば絵を売らなかった彼の生き方は文人画に通じるのではないか。ひょっとしたらこういう生き方こそ画家としてもっとも幸せかもしれない。で、その孫が1階で個展を開いてる富田有紀子。富田は祖父と違っておもに花や果実を拡大描写しているが、執拗なまでの描画姿勢が少し似ているかも。
2013/02/16(土)(村田真)
第16回文化庁メディア芸術祭
会期:2013/02/13~2013/02/24
国立新美術館[東京都]
「アート」「エンターテインメント」「マンガ」「アニメーション」という首をひねりたくなるようなジャンル別(エンターテインメントってジャンルか?)の展示。時間がないのでもっぱら「アート」部門を見る。大賞はコッド・アクトというユニットによるパフォーマンスの記録映像。数人の男が足をジャッキに固定され、ジャッキの動きとともに体を傾けながらオペラを歌ってる。みんな真剣に見ているのがおかしく、思わず笑ってしまった。これはギャグだろ。ヤン・ウォンビンは、クシャクシャにした紙くずのなかに装置を仕込み、ロボットのように動かす映像作品で新人賞を獲得。その下の床では実際にスタバの紙コップがくるくる動いていた。これはいい。震災関連の作品もいくつか目についたが、佐野友紀による4.5×7.2メートルの巨大なガレキの絵が圧巻。と思ったら写真の上から絵具でなぞったもので、ガイドブックを見ると「グラフィックアート」になっている。このガイドブックによれば「アート」部門はパフォーマンス記録映像、ロボット、映像インスタレーション、インタラクティブ・インスタレーション、デジタルフォト、ウェブなどに占められ、絵画や彫刻はなし。グラフィックアートも佐野の1点しかない。いまさらですが「メディア芸術」ってなんなの?
2013/02/15(金)(村田真)
アートギャラリー×SUUMO住宅展示場
会期:2013/02/09~2013/02/17
武蔵小杉・SUUMO住宅展示場[神奈川県]
最近よくある住宅展示場でのアートフェア。「ご来場いただいた皆さまにもれなく!『石鍋シェフのこだわりチョコケーキ』をプレゼント」という案内状の惹句にひかれて訪れてみた。出展はアートラボ・トーキョーから菅間圭子、戸泉恵徳ら、メグミオギタギャラリーから杉田陽平、中村ケンゴら計16人で、ひとり1軒ずつ16軒のモデルハウスに作品を展示している。家に入ると担当者(もちろん不動産屋の)が「いらっしゃいませ」と笑顔で出迎えてくれる。「あ、絵を見に来ただけです」というと「どうぞごゆっくり」と慇懃無礼に引き下がってくれるところもあるが、ぴったり背後に張りついて「家のほうはいかがですか?」とセールスかけてくる担当者もいて閉口する。それを16軒クリアしなければならないのだから高度なカケヒキが必要だ。最後にチョコケーキをもらえたが、これは障害物競走を勝ち抜いたごほうびみたいなものかもしれない。あれ? よく見たら「ご来場いただいた皆さまにもれなく!」と書いてある下に「来場プレゼントは、なくなり次第終了となります」と小さく記されている。どっちやねん!? ま、とにかくもらえてよかった。って作品のこと書くの忘れてた。モデルハウスなのでクギを打てないのか、だいたい10号程度までの小品2、3点を壁や棚に立て掛けてるところが多く、展示環境としては劣悪といっていい。そんななかで光ったのは中村ケンゴ。彼はもともと不動産の見取り図に基づいた絵を描いているのでピッタリなのだが、それ以上によかったのが、手塚治虫のマンガのキャラをつなぎ合わせた幽霊画のような《Without Me》という作品。これ1点見られただけでもよしとしよう。石鍋シェフのチョコケーキももらえたし。しつこいか。
2013/02/10(日)(村田真)
JR展──世界はアートで変わっていく
会期:2013/02/10~2013/06/02
ワタリウム美術館[東京都]
一瞬、東京ステーションギャラリーの展覧会かと思った人もいるに違いない。いないか。JRは、街なかに人の巨大な顔写真を貼りつけていくフランスのストリートアーティストの名前。階段の垂直面に顔写真を少しずつ貼ったり、何軒もの家の壁に部分写真を貼りつけて、遠くから見るとひとつの大きな顔に見える大規模なプロジェクトを手がけている。また、線路の敷かれた土手に顔の下半分を貼り、そこに目の部分を貼りつけた列車がやってきて、通過する一瞬だけ顔写真が完成するパフォーマンスも試みているが、それこそ日本のJRとタイアップしてやってほしいところだ。もっとも新幹線じゃアッという間だけど。まあとにかく街をキャンバスにして(この場合は印画紙か)アートを蔓延させ、そのことで世界を変えていこうとするアクティヴィストといってもいい。ストリートアートなので今回は実作品が展示されるわけでなく、ドキュメント映像での紹介。展示室の一画には写真撮影ブースが設けられ、入場者が撮影するとポスターサイズの顔写真がプリントされ、お持ち帰りができるというサービスもある。この顔のポスターを好きな場所に貼り、それを写真に撮ってワタリウムに送ると美術館のサイトに発表されるという。ただし、撮影された顔写真は自動的にJRのウェブサイトに送られ、肖像権フリーの素材になるらしいからご注意を。
2013/02/09(土)(村田真)