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記念講演会「本物? 偽物? ファン・ゴッホ作品の真贋鑑定史」

2013年05月15日号

会期:2013/04/07

京都市美術館講演室[京都府]

ゴッホ研究の第一人者、圀府寺司氏の講演会。展覧会の取材だけでなく、ゴッホ作品の真贋を巡るこの講演を聴くのも京都に来た理由のひとつ。なぜなら圀府寺氏はかつて倉敷の大原美術館で僕とまったく同じ経験をしているからだ。それは18歳のとき(70年代)大原美術館を訪れ、ナマのゴッホ作品《アルピーユの道》に初対面して感動し、隣の喫茶店エル・グレコで余韻に浸ったものの、後にそれが贋作であることを知り、あの「感動」はなんだったんだろうと考えてしまったことだ。違うのは、訪れたのがおそらく3年違いの春か夏かということと、エル・グレコで飲んだのがコーヒーかアイスティーかということくらいで、恐ろしく似た経験をしていたのだ(しかしもっとも異なるのは思慮深さで、それが約40年後に講演する側と拝聴する側にわかれることになる)。もちろんそれだけでなく、贋作そのものにも興味があっての聴講だ。話はおもにゴッホの贋作を売りさばいたオットー・ヴァッカーの手口と、美術史家ラ・ファイユらの鑑定の曖昧さを巡るものだった。考えてみれば贋作というのはニセモノと判明した作品のことだから、バレないかぎり贋作ではなく「真作」として扱われ、いまでも多くの美術館に飾られているかもしれないのだ。たとえばコローは約700点の絵を残したといわれるが、アメリカはかつて10万点を超えるコロー作品を輸入したというジョークもある。圀府寺氏いわく「すべての作品は灰色」と見るべきだと。そんな真贋鑑定の難しさを体験すべく、プロジェクターで2、3点のゴッホ作品を見せ、受講者にどれがホンモノかを当てさせる実験もした。ぼくは5問中4問正解したが、さすがゴッホ好き、贋作好き(?)が集まったせいか、4問正解は珍しくなく、全問正解もひとりいたらしい。たぶんこのなかにはぼくと同じように、かつて《アルピーユの道》に感動して裏切られた人も何人かいるに違いない。

2013/04/07(日)(村田真)

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