artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
ドラマチック大陸──風景画でたどるアメリカ
会期:2013/01/12~2013/05/06
名古屋ボストン美術館[愛知県]
ワケあって桑名に行った帰りに寄る。ボストン美術館のコレクションから、19~20世紀のアメリカを描いた風景画と写真を選んだもの。展示は東海岸のニューイングランド地方に始まり、南部、中西部を経て想像の風景まで地域別の5部構成。こういう展覧会の場合、1点1点の絵画の内容(風景)を堪能するか、それとも作品相互の違いを見比べるかという二つ(またはそれ以上)の見方があると思う。いいかえれば、東部の農村風景からナイアガラの滝、熱帯フロリダ、グランド・キャニオン、ヨセミテ渓谷まで広大なアメリカの多様な風景を楽しむべきか、トマス・コールらハドソンリバー派によるロマン主義的絵画をはじめ、スチュワート・デイヴィスやプレンダーガストらのモダンな油彩画、吉田博による多色刷り木版画、ウェストンやアダムスの精緻な写真、ダブやオキーフらほとんど抽象化された風景まで、アメリカ絵画の変遷をたどってみるべきか、悩んでしまうのだ。もちろん風景を楽しみつつ絵画史をたどればいいのだが、風景を楽しもうとすれば絵画の様式が目障りになり、絵画様式に着目すれば風景を楽しむどころではなくなるというジレンマがある。いちばんの解決策は、まずざーっと風景を堪能してから、今度は逆流しつつ絵画史をおさらいしてみることだ。幸か不幸か作品は計62点と多くないから、時間が許せば2度3度と往復して見ることをオススメする。いつのまにか展覧会の鑑賞講座になっていた。
2013/01/12(土)(村田真)
2013年の初詣でる展
会期:2013/01/01~2013/01/07
CHAPチャプター2[神奈川県]
おもに黄金町界隈で活動する5人の若手アーティストが松の内ノリでやっちゃったみたいなグループ展。鏡開きのための木槌を長さ6メートルに拡大した杉山孝貴、木の壁に暗い色の絵を掛けたのでほとんど目立たない吉本伊織、会期中えんえんとインスタレーションを制作していた山田裕介ら、憎めないアーティストたちによる愛すべき作品。もう少し上を目指そうね。
2013/01/02(水)(村田真)
第7回展覧会企画公募
会期:2012/12/01~2013/01/14
トーキョーワンダーサイト本郷[東京都]
作品を審査するのではなく、展覧会のプランを募集し、入選案を実現させるというユニークな公募展。1階のミラク・ジャマール&ニーン・山本・マッソン企画の「upDate 2011111111111s」は、東日本大震災やアラブの春など大きな社会的変化が生じた「2011年」をテーマにしたもの。展示は福島原発事故についてのアンケートや、暗示的な動きをする手や指の映像などさまざまあるが、テーマに比して作品そのものがつまらない。というより個々の展示物は作品未満であり、テーマに追いついていない気がする。2階のエレナ・アコスタ企画の「ジャカからコゥエへ──刑務所からのフォトグラフィー」は、ベネズエラの写真家が同国の刑務所で実践してきた教育プログラムの成果を紹介するもの。タイトルの「ジャカからコゥエへ」は「ストリートから懲罰房へ」という意味で、これも同様にテーマは興味深いけれど、展示物(写真やデータ)を見ても退屈なだけ。また2階の小部屋では、奨励賞として高橋夏菜企画の「TOC」が開かれているが、一見どこがおもしろいのかわからないし、そもそも理解したいとも思わない展示だった。この三つに共通しているのは、実際の作品を見ずに企画段階で選出したため、いわば頭でっかちのプランが勝ち抜くという弊害が表われたのではないかということ。いくらコンセプトが優れていても展覧会は論文でもアジテーションでもないんだから、きっちり作品で(または作品同士の相乗効果で)語らせてほしかった。などと残念に思いながら3階に上がったら、最後で一気に逆転ホームラン! これはおもしろかった。展覧会企画は吉澤博之の「But Fresh」で、泉太郎、開発好明、眞島竜男ら6人のアーティストのデビュー作とその2012年版リメイクを並べて公開するもの。なぜおもしろいかというと、まずアーティストの選択に成功していること。いずれもパフォーマンス、インスタレーション、映像などの手法を用い、しかもサービス精神旺盛なアーティストが多いので、作品の一つひとつを楽しむことができる。展示全体としても、会場が狭いと感じるくらい作品を詰め込んでいるので目いっぱい見た気分に浸れ、お得感がある。これは気分的な問題だが、展覧会において重要なことだ。もちろんデビュー作と最新のリメイクを見比べられるというのもポイントが高い。これがあったから満足して帰れた。
2012/12/28(金)(村田真)
ゲントから横浜へ──アートは街に介入する
会期:2012/12/23
さくらWORKS<関内>[神奈川県]
関内の空きビルの1フロアにオープンした「さくらワークス」のオープニング記念として企画された、現代美術のドキュメンタリスト安斎重男によるレクチャー。前半は、1986年にベルギー・ゲント市内の民家を借りて作品を展示した伝説の展覧会「シャンブル・ダミ」展を紹介し、後半は観客からゲストを選んで横浜に話をつなげていく。安斎さんはデジタル対応してないので、久々にスライド映写機を用いてのレクチャーとなった。ぼくは4半世紀前(1987)にも安斎さんの「シャンブル・ダミ」とドクメンタ8とミュンスター彫刻プロジェクトを巡るスライドレクチャーを聞いたことがあるので、とてもなつかしい。2012年にはやはりゲント市の街を使って「トラック」展が開かれたが、これを企画したのが「シャンブル・ダミ」を高校生のときに体験し、アートに目覚めてゲントの美術館に就職したというキュレーターだ。時代が一巡したなあ。
2012/12/23(日)(村田真)
志村信裕 展「美しいブロー」
会期:2012/12/12~2012/12/23
アートセンター・オンゴーイング[東京都]
急な階段を昇ると2階は真っ暗。壁面にボケて円形になった色とりどりの光の粒が漂う。部屋の隅には紙袋が置かれ、なかをのぞくと底にリボンの映像が舞っている。かたわらのバケツには水が張られ、水面には花火が映し出される。1階のカフェで休むと、棚にエビスさまの映像が鎮座しているのが目に入る。だいたい見たことあるやつだけど、映像は絵画や彫刻と違い、映す場所によってまったく別の作品になりうる(つまり応用が利く)から便利というか、ズルイというか。そんなサイトスペシフィックな映像では志村の右に出るものはいない。
2012/12/21(金)(村田真)