artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
中ザワヒデキ 展「脳で視るアート」
会期:2012/12/08~2013/02/17
武蔵野市立吉祥寺美術館[東京都]
いつのまに吉祥寺に美術館なんてできたんだろう。商業ビルの7階にあるのでそんなに広くないうえ、浜口陽三と萩原英雄というふたりの版画家の常設展示室が約半分を占めているため、企画展示室はかなり狭い。だから中ザワの多岐にわたる活動をすべて紹介するにはとても足りないため、彼が医学部出身で眼科医局にも務めていた経験があることから、脳の視覚作用に基づく作品つまり「脳で視るアート」に絞ったという。まあ広くとらえればあらゆる視覚芸術は「脳で視るアート」なんだけどね。出品は、画面を三原色のマス目で埋めた《灰色絵画》(頭のなかで混ぜれば灰色になる)、画面を細胞(セル)のように次々と2分割して絵具を重ねていった《セル》、美術か医学か迷っていた眼科医時代(1988)に視力表を新表現主義的タッチで描いた《シリョクヒョウ》、手を介さずに脳の働きをそのまま紙に記した《脳波ドローイング》などのシリーズ。いずれも絵画を成り立たせている色彩、構成、視覚、手の動きといった要素を突きつめ、ときに絵画の枠すら超えてしまった概念性の強い作品といえる。このなかではもっとも概念性は低いものの、作者の葛藤がそのまま絵になったような《シリョクヒョウ》に惹かれるなあ。
2012/12/21(金)(村田真)
ここから見える景色は最高
会期:2012/12/13~2012/12/20
東京都美術館 ギャラリーA[東京都]
リニューアルオープンの2012年から始まった「都美セレクション」のひとつで、既成の美術団体ではなく「新しい表現に挑むグループ」の公募。都美も団体展の貸し会場というイメージを少しでも変えたいと思っているようだ。今回は多摩美の卒業生4人による絵画、彫刻、インスタレーションの展示だが、ぼくはどっちかというと作品を見にきたというより会場を視察に来たのだ。ギャラリーAは以前はたしか彫刻室と呼ばれていた巨大空間で、壁は表面が凹凸の石なので絵が掛けられず、天井高は10メートルくらいあり、しかもその上半分はオープンになっていて使い勝手が悪そうだ。多摩美の卒業生たちも大きなヤグラを建てたり仮設壁を設けたりして苦労している。ここではどんな作品を見せるかより、いかに展示を考えるかがテーマになりそうだ。
2012/12/19(水)(村田真)
東京藝術大学大学院美術研究科 博士審査展
会期:2012/12/16~2012/12/25
東京藝術大学大学美術館[東京都]
美術館で博士課程の展示をやっていたのでついでにのぞいてみた。エントランスロビーにあった海谷慶の巨大木彫が印象に残った。渦巻きや竜巻を彫るか? 時間がないので早足で見て回ったが、海谷の作品がいちばんインパクトがあったなあ。
2012/12/19(水)(村田真)
渡辺好明遺作展「光ではかられた時」
会期:2012/12/07~2012/12/24
東京藝術大学大学美術館陳列館[東京都]
渡辺さんはぼくと同世代だけど名前を知ったのはそんなに昔のことではなく、20年ほど前に野外で階段状に並べたロウソクに火を灯したインスタレーションの写真を見たときだ。そのとき思ったのは「いい作家だなあ、でもなんでいままで知らなかったんだろう」ということだった。なぜ彼を知らなかったかといえば、彼が藝大の院を出てからも助手を務め、ドイツに留学後も藝大一筋というアカデミシャンだったからだろう。アーティストより教育者、大学人としての立場を優先していたように思う。それは99年に取手に先端芸術表現科が立ち上がり、毎週顔を合わせるようになって強く感じたことだ。先端にはセンセーが何人もいたが、取手アートプロジェクトをはじめとする雑事を一身に背負っていた印象があり、作品制作の時間など満足にとれなかったはず。結局遺された作品は、燃え尽きたらなくなるロウソクの作品ばかり。それが渡辺さんらしいといえばらしいけど。
2012/12/19(水)(村田真)
「ヨコハマトリエンナーレ2014」第1回記者会見
会期:2012/12/18
横浜美術館円形フォーラム[神奈川県]
「ヨコハマトリエンナーレ2014」のアーティスティック・ディレクターに、アーティストの森村泰昌が就任した。同じく2014年開催予定の「札幌国際芸術祭」のゲストディレクターには坂本龍一が就任。「横浜トリエンナーレ2005」ディレクターの川俣正を嚆矢として、最近どうやら美術館学芸員やキュレーターに代わって、アーティストが国際展のディレクター職に就くのが流行になっているようだ。理由はおそらく、実力と知名度を兼ね備えたキュレーターが底をついたというのもあるだろうが、森村自身も語るようにアーティストは国際展についてあまり知らないので「真っ白な状態からスタートできる」からという理由も大きいだろう。つまり前例や常識にとらわれない斬新な発想による展覧会が可能であり、増え続ける国際展において差別化が図れるということだ。でもうまくいけばいいけど、前例や常識にとらわれない発想は現場に混乱を招きかねないからな。ともあれ成功を祈る。ほかに決まったことは、会場が横浜美術館と新港ピアの2カ所に落ち着いたこと、事業名は「横浜トリエンナーレ」、展覧会名が「ヨコハマトリエンナーレ」になったことなど。決まってないのは展覧会の方向性とテーマで、これが決まらなければ出品作家も選べない。
2012/12/18(火)(村田真)