artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

松尾多英 個展「砂」

会期:2012/12/03~2012/12/15

クリエイティブ/アートスペースコルソ[東京都]

100号大の縦長パネル17枚に顔料で「砂丘」を描いている。1枚1枚でも独立した絵として見られるが、17枚を円環状につなげると360度のパノラマ画面として完結する(ただしつなげると全長20メートルを超すため、今回は会場の都合で一部つながっていない)。これは壮観。でも端から端までずーっと見ていくと奇妙な感覚にとらわれる。それは、1枚1枚の縦長パネルにそれぞれ砂丘の特徴が描かれているため、全体を見渡すときわめて変化に富んだ(むしろ富みすぎる)砂丘が出現するからだ。いいかえれば、1枚1枚が比較的ワイド画面なのに、それが17枚も続くから、全体で360度どころか720度も優に超す一種幻想的な風景になっているのだ。もちろんそれは弱点ではなく、むしろ本来は無愛想きわまりないはずの砂丘に変化に富んだ表情を与えた作者の力量と見るべきだろう。ちなみに松尾さんはぼくの美大のセンセーで、当時は最年少のぱっつんぱっつんギャルだったが……あ、センセーお久しぶりです!

2012/12/04(火)(村田真)

大庭大介

会期:2012/11/27~2012/12/21

SCAIザ・バスハウス[東京都]

パールカラー(真珠色?)とでもいうんだろうか、見る角度によって乳白色が虹のように変化するアクリル絵具を使った絵画。描かれているのは花のパターン、マス目パターン、マス目のなかの渦巻きパターンなど多彩だ。素粒子の軌跡のようなランダムな曲線もあるが、これは画面上でベイブレード(コマ)を回した軌跡らしい。画材の新奇性ばかりに目を奪われがちだが、絵画の本源である塗ることや見ること(見えること)を問う試みといえる。

2012/12/04(火)(村田真)

尊厳の芸術 展

会期:2012/11/03~2012/12/09

東京藝術大学大学美術館[東京都]

第2次大戦中、アメリカ西部の強制収容所に隔離された日系人がつくった日用品や工芸品などの展示。椅子や棚といった実用品から人形、アクセサリー、玩具まで、少しでも収容所での生活を飾ろうと粗末な素材と道具でこしらえた品々だという。でも、そんなことを知らずに見たら貧乏くさい古道具か安っぽい土産物か、いずれにせよキッチュな工作物にしか見えないだろう。思い出すのは画学生たちの絵を集めた無言館の作品群で、それらが徴集され戦死した人たちによる遺作のような作品と知らなければ、単なる未熟な絵にしか映らないからだ。つまりここでは作品そのものの芸術性より、その背景に隠されているドラマにこそ伝えるべき意味と価値があるということだ。ところで同展は2年前、スミソニアンで開かれた展覧会を元に構成されているそうだが、アメリカ人ははたしてなにを思ってこれを企画したんだろう。乏しい材料からなんでもつくってしまう日本人の器用さに驚嘆したのか、それとも逆境にあってもめげずに生活を豊かにしようとする強さに感動したのか、あるいは強制収容所に隔離してしまったことに対する反省か。アメリカでの展覧会名は「The Art of Gaman(我慢の芸術)」というそうだから、おそらく2番目が正解だろう。その「我慢強さ」は3.11後の被災者の態度でも証明され、世界から賞賛されたものだが、でも逆境にあって我慢強さを発揮するってのは、言葉を換えれば「お人好し」ってことじゃね?

2012/12/04(火)(村田真)

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「ルーベンス──栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」展 記者発表会

会期:2012/12/03

ベルギー王国大使館[東京都]

最近、大がかりな海外美術展はその国の大使館で記者発表を行なう例が増えてきた。スペイン大使館での「ゴヤ展」や「エル・グレコ展」、フランス大使館での「ルーヴル美術館展」、イタリア大使館での「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」や「ラファエロ展」などだ。今回の「ルーベンス展」は初訪問となる麹町のベルギー大使館。と書いてきて、みんなカトリック国であることに気づいた。偶然か? しかしアメリカやオランダやロシアもずいぶん展覧会を開いてるのに、大使館で記者発表したなんて聞いたことないぞ。単にぼくが招かれてないだけかもしれないが。記者発表にはなぜか先日「ラファエロ展」の会見でホスト役を務めたばかりのイタリア大使も臨席していた。2013年がイタリア年ということもあるが、ドイツに生まれフランドルで育ったルーベンスは、イタリアで修業し画家としての一歩を踏み出したからね。その後も彼は、画家としてだけでなく外交官としてスペイン、フランス、イギリスなどヨーロッパ各国を飛びまわり、元祖「ひとりEU」を演じたのだ。そのせいでもないだろうが、2013年はルーヴル美術館でも「ルーベンス展」を計画中という。日本展は3月9日から渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて。

2012/12/03(月)(村田真)

勝田徳朗──タマゴから…生える

会期:2012/11/16~2012/12/05

ギャラリー睦[千葉県]

千葉市美からは少し離れているが、千葉駅からは徒歩10分ほど。住宅街に立つ民家の1階を改造したギャラリーだ。なんでそんなところまで行ったのかっていうと、勝田が美大の同窓生だったからだ。だから友達ネタです。勝田は学生時代は理論家で鳴らしたが、卒業後は高校の美術教師をやりながら時々画廊を借りて個展を開いてきた。以来35年、アーティストとして一線で活躍しているわけではないので、アートシーンに一石を投じるような作品を発表することはないが、一生活者として身近なモチーフ(タマゴ)を身近な素材(流木)を使って無理のない範囲で制作し続けている。作品形態は絵画、彫刻、インスタレーションとさまざまだが、モチーフはすべてタマゴ。いまさらアーティストとして自立しようなどとは考えてもいないだろうが、小品は何点か売れている。もっとも感心したのは、ぼくがいた20~30分ほどのあいだに、けっして便利な場所ではないのに何人もの客がひっきりなしに訪れていたこと。ぼくも含めて、彼らの多くは作品を見に来たというより本人に会いに来たんだろう。彼の人柄も大きいが、こういう美術の使い方もあるんだと再認識。というより、それが美術の使い道の大半であり、そっちのほうが健全なあり方なのかもしれない。

2012/12/02(日)(村田真)