artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
青木恵美子「希望のささやき」
会期:2013/01/12~2013/02/03
ギャラリーフォゴットンドリームズ[東京都]
画面の大半を朱赤系の色彩で覆い、下部に円形の泡みたいなものを描く青木だが、今回は青緑系で覆われた作品も出している。もともと下部に形象が集中しているため風景を思わせるが、上方を青系で占められると画面が後退し、ますます風景画(水中風景も含めて)に近づいてしまう。画面が浮き立ってこないのだ。やっぱ赤だな、赤。ところで、下部の泡みたいなものがどれも中央よりやや右に寄っているのはなぜだろう。たんに右利きだからか、それとも視覚心理上の計算か?
2013/02/01(金)(村田真)
ここに、建築は、可能か(第13回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展日本館帰国展)
会期:2013/01/18~2013/03/23
TOTOギャラリー・間[東京都]
昨年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を獲得した日本館の展示を再構成したもの。国際建築展のコミッショナーは伊東豊雄、参加作家は乾久美子、藤本壮介、平田晃久、畠山直哉で、東日本大震災後に岩手県陸前高田市に建てられた「みんなの家」の模型、図面、写真、映像などのドキュメントが展示されている。圧巻は百数十個にもおよぶスタディ模型。だれのための、なんのための建築なのか、あれこれ考え試行錯誤した形跡がうかがえる。ひょっとしたら日本の建築家はようやく本気で建築に取り組まざるをえなくなったのかもしれない。
2013/01/22(火)(村田真)
アーティスト・ファイル2013──現代の作家たち
会期:2013/01/23~2013/04/01
国立新美術館[東京都]
「特定のテーマを設けず、国内外で注目すべき活動を展開する作家を個展形式で紹介する」という、押しつけがましさのない、ある意味愚直なアニュアル展。と思ったら毎年開催というわけでもなく、昨年は休んで今年にズレ込んだみたい。年度でいえばまだ2012年度だけどね。今回は海外3人を含む計8人の出品。なにげに海外作家が増えているような気がする。韓国のチョン・ヨンドゥは、子どもの描いた絵とそれを現実化して撮影した写真を併置した作品と、老人の語る話を動画化した映像の出品。これはおもしろいけどありがちだなあ。インドのナリニ・マラニは、円筒形の透明アクリルシートに社会問題をテーマにした物語画を描き、光を当てて壁に影絵のように映し出すインスタレーション。これは昨年の「ドクメンタ13」で見たが、土着的な祝祭性と批評性を併せもつ表現は洗練されてないものの、時流におもねらない姿勢に強度を感じた。洗練されず、時流にもおもねらない愚直さは國安孝昌にも通じる態度だ。形態に大きな動きが出てきたとはいえ、巨大空間に何千、何万個もの陶片と丸太をひたすら積み上げていくマゾ的作業は、初めて見た4半世紀前と変わらない。ここにはナリニ・マラニと違って批評性は感じられないが、何十年も同じ作業を繰り返していくこと自体に批評性がはらまれているともいえる。また、延々と正面向きの子どもの顔ばかりを描き続けている中澤英明の絵画にも似たようなことがいえる。一見いまどきありがちな絵にも映るが、一人ひとりの奇矯ともいえる個性を古典的な技法で表出させた作品は、とりもなおさずアートが社会に存在すること自体の批評性を物語っているようにも感じられるのだ。
2013/01/22(火)(村田真)
コレクション×フォーマートの画家 母袋俊也「世界の切り取り方」
会期:2012/12/01~2013/01/27
青梅市立美術館[東京都]
今日は午後から立川に用があるのでその前に青梅まで足を伸ばしたが、そんなことでもなければここまで来なかったかもしれない。結論からいうと、来てよかったー! 最初はなんで青梅くんだりでやるのか、もっと都心でやってくれよんと思ったけど、来てみてわかった。これは青梅市立美術館でなければ成立しない、青梅市美ならではのサイトスペシフィックな絵画なのだ。美術館に入ると1階の奥に、木々の隙間から多摩川や遠くの丘陵を見渡すことのできるガラス窓のホールがあり、母袋はここに6台の《絵画のための垂直箱窓》を設置している。この「箱窓」は暗箱になっていて、穴をのぞくと縦長か横長のスリット(窓)を通してガラス窓の向こうの景色がながめられる仕掛け。いいかえれば、世界を強制的に枠づけてしまうという「フレーミング装置」なのだ。これとは別にガラス窓には青いテープが矩形に貼られ、「世界の切り取り方」が例示されている。余計なお世話ともいえるが、啓蒙的に絵画の原理を説いてくれる母袋らしい展示だ。しかしここまでならこれまでにも見てきたし、予想もついたことだが、2階の展示は予想を超えていた。ふつう個展といえばその人の作品だけを並べるものだが、母袋は「世界の切り取り方」というテーマに沿って、青梅市美のコレクションから選んだ作品も並べているのだ。たとえば「縦長」のコーナーでは平福百穂や山本丘人らの掛軸を、「横長」では小島善太郎や速水御舟らの風景画を並べ、ちゃっかり自分の作品もまぎれ込ませている。また、同じ画家の同じモチーフを描いた同一サイズの、しかし縦長と横長の2種を対比的に並べたりもしている。同館には2,000点を超すコレクションがあるらしいけど、よくこれだけテーマにふさわしい作品が見つかったもんだと感心する。美術館のロケーションやコレクションを計算に入れ、自分の作品の一部に採り込んでしまった希有な個展といえる。今年のベスト1だ(ってまだ始まったばかりだけど)。
2013/01/19(土)(村田真)
澤田知子「SKIN」
会期:2013/01/12~2013/02/24
MEM[東京都]
12点のシリーズ。すべて同じブティック内で撮った下半身のみの写真だが、スカート、ストッキング、靴、そしてポーズはすべて異なっている。足は細めなので失礼ながらご本人ではないようだ。ということは、これまでのセルフポートレートから一歩踏み出す新たな展開ということになる。解説によると、これは偶然重なった2本の制作依頼のうちのひとつで、「産業、社会と領域」をテーマにしたもの(ちなみにもうひとつの制作依頼は「サイン」で、これは国立新美術館の「アーティスト・ファイル」で発表するらしい)。なぜスカートやストッキングが産業や社会に結びつくのかといえば、女性の社会進出に関係があるそうだ。ここからジェンダー問題を浮かび上がらせることもできるが、しかしはっきりいって澤田本人の顔が写ってないのが最大の弱点だろう。
2013/01/16(水)(村田真)