artscapeレビュー

村田真のレビュー/プレビュー

はじまりは国芳──江戸スピリットのゆくえ

会期:2012/11/03~2013/01/14

横浜美術館[神奈川県]

幕末を生きた浮世絵師、歌川国芳の展覧会。だと思って見ていくとそれだけでなく、国芳の門下生や月岡芳年、河鍋暁斎といった維新後の浮世絵まで紹介されている。と思ったらそれだけでなく、大正時代の鏑木清方による肖像画まである。ずいぶん範囲が広いなあと思ったらそれだけでなく、五姓田芳柳・義松ら五姓田一派による洋風表現や油絵まであって、いったいどこまで風呂敷を広げるのかと思ったら、最後は伊東深水、川瀬巴水、ポール・ジャクレーらによる昭和初期までのモダンな人物画や風景画まで並んでいるのだった。たしかにタイトルどおり国芳に始まる「江戸スピリットのゆくえ」を追ったのかもしれないが、裾野の広がりを眺望できてお得感がある反面、ちょっと広げすぎて焦点がボケてしまった感もある。

2012/12/18(火)(村田真)

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コラボレーションプロジェクト:島田真悠子×ショーン・ブレヒト「Tokyo─Texas」

会期:2012/12/05~2012/12/25

ライズギャラリー[東京都]

建築写真のように端正なブレヒトの写真から島田が4点選び、それをもとに絵を描いている。島田はわりと忠実にブレヒトの写真を絵に起こしているが、大きく変えたのは写真には映っていなかった人間を入れたこと。たとえば無人のラグビー場には数人のプレイヤーを、郊外の貯水池には泳ぐ人たちを、ひっそりとした路地裏には逃げる子どもをザックリと描き込み、どこか不条理なドラマを呼び起こしている。ただ、そのドラマ性と荒っぽいタッチとがうまく噛み合わず、チグハグな印象を受けるのも事実。でもそのチグハグさが絵のおもしろさを生み出しているのも事実で、そこにコラボレーションの妙味もあるのかもしれない。

2012/12/16(日)(村田真)

生誕100年 松本竣介 展

会期:2012/11/23~2013/01/14

世田谷美術館[東京都]

36歳で早逝したから、しかも第2次大戦と敗戦後の混乱に翻弄された画家だから、広大な世田谷美術館の企画展示室を埋めるだけの作品があるのか疑問だった。ところが驚いたことに、2階の常設展示室まで使っての大回顧展ではないか。総作品点数240点以上、書簡やスケッチ帖などの資料も含めれば計400点を超す。でも絵としてはおもしろみを感じなかったなあ。いわゆる竣介らしさに、黒く細い線で輪郭を縁どる技法があるが、これって藤田嗣治の技法と似てなくね? 描くモチーフも戦争に対する画家のスタンスも対照的だったけど、両者はどこかで通底していたかも。もちろん藤田のほうが器用で繊細で振れ幅も大きく、サービス精神も旺盛なお調子者だったけど。もうひとつ奇妙に感じたのは、遠近法を使っているのに画面の奥行きや空間的な広がりが感じられず、閉じた感じがすること。とくに後期は人物があまり描かれてないからかもしれないが、画面を静寂感が支配しているように感じられるのだ。これは耳が聞こえなかったせいかしら。

2012/12/16(日)(村田真)

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シェル美術賞展2012

会期:2012/12/12~2012/12/24

国立新美術館[東京都]

「リヒテンシュタイン展」を見た(もう3度目だ)後で訪れたら、「リヒ展」の半券があればタダで見られるという。やったー! 840人1,226点のなかから選ばれた52点の展示。かなりの高倍率にもかかわらず内容的には残念ながらレベルの低い戦いだったので省略。今回は会場をヒルサイドギャラリーからだだっ広い国立新美術館に移したせいか、余った空間で過去の受賞者から選抜した4人による「アーティスト・セレクション」も開催していた。パッと見、青木恵美子の圧勝。軟弱な具象画が大半を占めるなかで抽象(とはいいきれないが)は目立つし、なにより画面の大半を鮮やかな赤が占めているので映える。やはり差別化を図り、目立たなければならない。

2012/12/14(金)(村田真)

河地貢士 個展「則巻千兵衛のラインハート」

会期:2012/12/07~2012/12/22

ロウワーアキハバラ[東京都]

じゃりン子チエ、サザエさん、ナルト、トムとジェリーなどアニメの背景に描かれたものを、マーク・ロスコやアド・ラインハートやジャスパー・ジョーンズの絵のようにアレンジした作品。タイトルの「則巻千衛兵のラインハート」は、Dr.スランプの登場人物という則巻千兵衛(のりまき・せんべい)とラインハートの暗色の絵が重ね合わされていることがわかる。このようにこれらの作品はアニメにも現代美術にも通じていなければ理解しにくい。実際ぼくはアニメをほとんど見ないので、おもしろさが半分しか伝わらなかった。これでロスコもラインハートも知らなければ、その人にはまったく意味のない作品でしかないだろう。ま、高度なリテラシーを要する作品ともいえるが。

2012/12/14(金)(村田真)