artscapeレビュー
川俣正「Expand BankART」
2012年12月15日号
会期:2012/11/09~2013/01/13
BankARTスタジオNYK[神奈川県]
BankART全館を使った久々に大規模な川俣の個展。川俣と横浜といえば、2005年に総合ディレクターとして関わった横浜トリエンナーレが記憶に新しいが、それ以前から何度か制作を行なっていた。じつはBankARTの隣に神奈川県警ビルが建つ前は三菱倉庫があり、それが取り壊される直前の1988年にファイナルイベントとして「ヨコハマフラッシュ」が開かれ、崔在銀や田原桂一らとともに川俣も参加していた。もっとさかのぼって1980年には神奈川県民ホールギャラリーと横浜市民ギャラリーでグループ展に出品している。でも個展としては今回が初めてだ。そもそも日本でこれほど大がかりなインスタレーションが実現するのも初めてのことかもしれない。まず海岸通に面したアプローチに古い窓枠をつないで屋根をつくり、NYKの外階段から外壁をはうように屋上までパレットでおおっていく(この時点では未完成)。遠くから見ると、屋上から流動物が流れ出てくるイメージだ。館内に入ると、1階のホールではパレットを積み上げて壁面をおおい、洞窟のような空間を創出。2階は天井から無数の窓枠を平行に吊るし、3階には柱の上方にツリーハウスみたいな構築物を設置するといったプラン。どれも今回が初めてというわけではなく、たとえば天井を窓枠でおおうのはロンドンのサーペンタイン・ギャラリー(1997)などで、大量のパレットを流動的に配置するのはヴェルサイユのアートセンター(2008)などで、柱にツリーハウスを組み立てるのはパリのポンピドゥー・センター(2010)などで、すでに実現している。つまり今回の個展は、これまで世界各地で見せてきたさまざまなスタイルの集大成的インスタレーションといっていい。ちなみに、素材は木ならなんでもいいわけではなく、窓枠は近くにある解体前の公団住宅から提供され、パレットはここがもともと倉庫であることから使うことにしたという。この場所ならではの素材を選んでいるのだ。
2012/11/23(金)(村田真)