2020年11月15日号
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artscapeレビュー

試写「ブリューゲルの動く絵」

2011年12月15日号

会期:2011/11/01

六本木シネマート[東京都]

ブリューゲルの絵画《十字架を担うキリスト》に想を得た映画。1枚の絵から物語を紡ぎ出す手法は、フェルメールの名画をもとにした『真珠の耳飾りの少女』をはじめしばしば見られるが、これは絵に触発されたというより、画面のなかに入り込み、絵をそのまま動かしたような映画だ。そもそも《十字架を担うキリスト》という絵そのものが、さまざまなドラマを同時多発的に描き込んだ迷宮のような絵物語になっていて、見ていて飽きることがない。ゆるやかな丘陵を舞台に数百もの人物がこまごまと描かれ、それぞれ馬に乗ったりケンカしたり遊んだりしている。この絵はいったいなにを描いたんだろう?と考えてしまうが、題名を見ると宗教画。しかし肝腎のキリストが見当たらない。目を凝らしてよーく探すと、ようやく画面中央に小さく描かれているのが見つかる。最初これを見たとき、もっとも伝えたい主題をあえて隠すように描くこんな描き方もあるのかと感心しましたね。ブリューゲルの生きた16世紀ネーデルラントは、宗教改革を進める隠れプロテスタントとそれを弾圧するカトリックの支配者が争っていた時代。だから、どうやらプロテスタントに共感していたらしいブリューゲルは、わざと主題を隠したり、キリストの受難をプロテスタント迫害に重ねたり、多様な解釈が可能なアレゴリーを用いたりした。それゆえに彼の絵にはナゾが多く、またそれが彼の絵の魅力にもなっているのだ。だから彼の絵は極端にいえば、そのまま動かすだけで1本の映画やドラマになってしまうのだ。この映画はそんな映画だといえる。まあブリューゲルの絵やキリスト教の歴史に興味ない人には退屈な映画だろう。

2011/11/01(火)(村田真)

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