artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
マンガ・ミーツ・ルーヴル
会期:2010/12/06~2010/12/17
BankART Studio NYK[神奈川県]
ルーヴル美術館をテーマにしたマンガ(フランスでは「バンド・デシネ」と呼ぶらしい)の原画展。出品は5人で、日本でも『氷河期』として訳本が出ているニコラ・ド・クレシーや荒木飛呂彦も含まれている。驚くのは、ルーヴル美術館みずからが出版社とともにこれを企画したこと。それだけフランスではマンガの地位が高いのだ。日本ではこうはいくまい。というか、逆に日本の美術館は動員数を稼ぐためにマンガの力を借りているくらいだ。美術館がマンガを力づけるフランスと、美術館がマンガに助けられる日本という構図。この展覧会も2週間たらずの会期なのにBankART始まって以来の記録的な動員だったという。
2010/12/11(土)(村田真)
リコンストラクション ラ・アルヘンチーナ頌
会期:2010/12/05
BankART Studio NYK[神奈川県]
大野一雄の代表作《ラ・アルヘンチーナ頌》を、及川廣信や森村泰昌ら4人のダンサーとアーティストがそれぞれ再構築する試み。注目はもちろん森村だ。大野らしい衣装とメイクで舞台に出てピアノを弾き、映像を流す。なんて器用なアーティストだろう。だけど一番感動したのは最後に出たKENTARO!!のダンス。大野とは対照的にすばやく踊りまくるトリッキーな動きに、目は釘づけ。
2010/12/05(日)(村田真)
山口蓬春と安田靫彦
会期:2010/10/16~2010/12/23
山口蓬春記念館[神奈川県]
神奈川県立近代美術館から歩いて5分の地にあるのにこれまで行ったことがなかったが、今日はステキなおねえさまたちとご一緒させていただいているので、ちょっとのぞいてみることに。小高い山の中腹に建つ建物は、蓬春が晩年をすごした住居を改装したもの。手入れの行き届いた広い庭に、ただ公開しておくだけではもったいない画室(若手作家に貸して公開制作してもらうとか)、窓から相模湾を一望にする眺め……。おっと葉山のご用邸が見えるではないか。やっぱ皇居新宮殿をその絵で飾っただけのことはあるわい。
2010/12/05(日)(村田真)
プライマリー・フィールドII
会期:2010/12/04~2011/01/23
神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]
BankARTスクールの「美術館ツアー」番外編で、元受講生のステキなおねえさまたちと訪れる葉山の旅。3年前の「プライマリー・フィールド」展に続く第2弾で、前回が80年代に登場した作家が中心だったのに対し、今回は少し若返って、高橋信行、小西真奈、保坂毅、三輪美津子、東島毅、伊藤存、児玉靖枝と90年代以降に活躍する作家たちが中心。また、前回は立体が圧倒的に多かったが、今回は逆にほとんどが(レリーフや刺繍も含めればすべて)絵画で、しかも具象イメージを用いる作家が多いのが特徴だ。興味を惹かれたのは、最初の部屋のなかば抽象化されたフラットな高橋信行の絵から、筆跡を残しつつ風景写真に基づいて描く小西真奈の部屋に移動したときに、ある種の安心感を覚えたこと。これはなんだろう。抽象化されているとはいえ高橋の絵にはまだ具象イメージが残っているから、具象と抽象の違いではないし、また、フラットとはいえ筆跡も認められるので手の痕跡の有無でもない。たぶんこれは絵の持つ情報量の違いではないかしら。高橋の絵は色彩も形態も整理されているため、見る者は深く考えずに次に進んでしまうが、小西の絵は具体的に細かく描かれているためつい見入ってしまい、滞在時間も長めになるのだ。もちろんそれは高橋の絵の欠点ではなく、次から次へと作品を見ていかなければならないグループ展のトップバッターの宿命ともいえるもの。ちなみに、小西の次には抽象レリーフの保坂が続き、その次が写真的リアリズムを中心とした三輪で、その次が抽象の大作を出した東島……と続いている。試みに、最後にもういちど高橋の部屋に戻ったら、さきほどよりずっと興味深く見ることができた。キュレーションの妙味であり、グループ展の魔力である。
2010/12/05(日)(村田真)
泉太郎「こねる」
会期:2010/11/02~2010/11/27
神奈川県民ホールギャラリー[神奈川県]
昨年暮れ、同じ場所でのグループ展「日常/場違い」でぶっちぎりの作品を見せてくれたと思ったら、もう一本釣りされて個展だ。少し早すぎるんじゃない? だって彼の作品は階段の踊り場とかギャラリーの備品室とか隅っこのほうでイジケて見せるほうが本領を発揮するのであって、こんなでかいギャラリーを丸ごと与えてしまうのは不粋ではないか、と思ったからだが、大間違いでしたね。空間の大きさは関係なく、その場所を読み切って作品をつくっている。たとえば大ギャラリーの円柱に沿って螺旋状の道をつくり、カメラをつけた車を走らせて映像を撮った作品。この円柱はかねがね「邪魔物あつかい」されてきたが、それをこれほど有効活用した例を知らない。あるいは、細長いギャラリーに小屋を組み立て、なかにペンキや日用品とともに本人が入り、小屋ごと回転させて撮影した映像インスタレーション。ギャラリーの床には小屋が回転した跡が残っているのだが、これはひょっとして昨年の「日常/場違い」に出された久保田弘成の廃車を回転させる映像や、電柱を洗車機に通すインスタレーションと共鳴しているようにも見える。空間と時間をこねまわした見事な個展。
2010/11/27(土)(村田真)