artscapeレビュー
村田真のレビュー/プレビュー
若冲ワンダーランド
会期:2009/09/01~2009/12/13
ミホ・ミュージアム[滋賀県]
日帰りで滋賀県の山奥のミホ・ミュージアムと神戸ビエンナーレを見てしまおうという無謀な旅。まず朝一の新幹線で京都に出て、琵琶湖線で石山まで戻り、バスに50分ほど揺られて信楽の里に到着。バスは1時間に1本しかないので、これを逃すと神戸に行けなくなるのだ。さすが宗教団体のやってる美術館だけあって、桃源郷をイメージしたというロケーションといい、トンネルをくぐって美術館に着くアプローチといい、I・M・ペイ設計のなかば地中に埋もれた建築といい、まるで別世界に来てしまったよう。若冲展は辻惟雄館長の肝煎りだけに、「皇室の名宝」展に出ていた《動植綵絵》を除く代表作の大半を集めましたって感じで恐れ入る。ただ、会期が長いだけに展示替えも多く、いっぺんに見られないのが残念だが。目玉は同展開催のきっかけとなった新発見の《象と鯨図屏風》。オバQみたいな白象と、潮を吹く黒い背中だけしか見えない鯨の対比図で、冗談で描いたとしか思えない。近年、商売や人づきあいが苦手だから絵に走ったとする「若冲=おたく」説が修正を迫られているが、しかしこの絵を見る限り若冲は、フツーの人から「どこ見てんだ?」「なに描いてんだ?」とツッコまれるボケ役として尊敬されていたに違いない。
2009/11/13(金)(村田真)
浅井裕介+狩野哲郎「ジカンノハナ」
会期:2009/11/06~2009/11/28
黄金町スタジオ[東京都]
「時間の花」はミヒャエル・エンデの『モモ』に出てくるモチーフ。浅井も狩野も増殖する植物がテーマなので重なるのだろう。浅井は相変わらず壁にマスキングテープを貼った上に植物ドローイングを延ばしていくほか、ガラス窓に泥絵を描いている。狩野はその隣の部屋に種を山積みして発芽させ、ニワトリを放し飼いしている。浅井のドローイングが狩野の部屋に侵入し、狩野のニワトリが浅井の部屋に闖入する。この「越境感」がふたりの持ち味。
2009/11/12(木)(村田真)
代官山インスタレーション2009
会期:2009/11/01~2009/11/23
旧山手通り+八幡通り+中目黒周辺[東京都]
佳作はあっても、グランプリ該当作品なしという印象だ。小さなビルの屋上にカツラをのせた高橋寛の《他知人》には思わず笑ってしまったが、だからどうだってことでもないし、仮囲いに鏡をはって壁に穴を開けたように見せる武田慎平らの《向こう側》は、一瞬オープンな気分にさせてくれるが、しょせんトリックアートだし、階段の垂直面に地層を現出させた小林祐+小林麻梨菜の《代官山ローム層》には準グランプリをあげたいが、根拠が希薄。で、ほんとの受賞作は、最優秀賞が高橋寛、審査員特別賞が小林祐+小林麻梨菜でした。当たらずも遠からず。
2009/11/12(木)(村田真)
シェル美術賞展2009
会期:2009/11/11~2009/11/15
ヒルサイドフォーラム[東京都]
その本江氏が審査員長を務めるシェル美術賞展。なんかどれもこれも似たり寄ったりで飛び抜けた作品がないなあと思ったら、審査員も同様の感想だったらしく、審査は難航したらしい。結果、グランプリはなしで準グランプリに吉田晋之介の《樹海にて》が選ばれた。が、この作品も一見だれかとだれかの作品を足して2か3で割ったような印象は否めない。このような作品の均質化は、描く側に強力なモチベーションが欠けているからではないか。もし描くモチベーションがこうしたコンペに入選することだけにあるとすれば、シェルも日展化していくだろう。
2009/11/12(木)(村田真)
第41回日展
会期:2009/10/30~2009/12/06
国立新美術館[東京都]
こちらは出血大サービスの入場無料。さすが日展、皇室とのつながりが強いんでしょうか。かつて帝展だったし。今年の陳列点数は日本画・洋画・彫刻・工芸・書も合わせて3,098点。それにしても100年前から続くこのジャンル分けと序列、そろそろどうにかならんもんかね。作品そのものはあいかわらずだが、驚いたのはガイド本の「洋画」の巻頭に本江邦夫氏が文章を寄せていること。さすがに「絵画」についての一般論を述べるにとどまり、「洋画」にも「日展」にもまったく触れていないが、その絵画論が日展の洋画批判として深読みできる仕掛け。今度はぜひ展示を見ての感想を書いていただきたい。
2009/11/12(木)(村田真)