artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

イキウメ「獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)」

会期:2013/05/10~2013/06/02

シアタートラム[東京都]

世田谷シアタートラムにて、イキウメの演劇『獣の柱』を観劇する。SF的な設定が抜群に面白い。謎の隕石の飛来、そして世界各地のテロが幕開けとなって、人が集まる都市に、空から降ってくる巨大な柱。高さ300m、直径30m。それを見るものは多幸感に囚われるが、あまりの過剰さゆえに、人々は思考と動作を停止し、第三者に止められない限り、硬直したまま死に至る。仮に止められても、見ているあいだの記憶を失う。長い年月を経て、人類に厄災をもたらす、圧倒的な光の柱は、普段は隠される宗教的な崇拝物になっていく。支配されながら、共存するか、あるいは都市とは異なる自給自足による別の生き方を選ぶか。いろいろな解読が可能だが、筆者には事故を起こした原子力発電所の寓意のように思えた。ちなみに、この柱は、2010年前後に出現したという設定になっている。

2013/05/30(木)(五十嵐太郎)

めめめのくらげ

村上隆の映画『めめめのくらげ』を見る。キャラたちのかわいさと見事な動きは狙ってもなかなかできないと思うし、アメリカ映画と違うオリジナリティを持った完成度の高い映像表現だ。完全アニメではなく、実写との融合で着実な成果をあげている。子役もいいし、ジュブナイルとの相性もとても素晴らしい。ただ、「あえて」の昔ながらのお約束設定なのだろうが、黒マントを着用した悪役・科学と宗教の見せ方にはのれなかった。

2013/05/30(木)(五十嵐太郎)

イシノマキにいた時間

会期:2013/05/29~2013/05/30

せんだい演劇工房 10-BOX[宮城県]

仙台の10-BOXにて、「イシノマキにいた時間」を観劇する。震災から8カ月後にあたる2011年11月初旬、人が減った時期のボランティアたちの物語。被災者ではなく、よそ者ながら現場にかかわりをもった登場人物ゆえに、ある意味でより多くの人に訴える。多くの人は被災地に住まない、非被災者だからである。前半はコミカルな進行だが、後半はボランティアをめぐる悩みと葛藤に展開していく。そして演劇の終了後、最新の状況なども紹介する。これは石巻の伝道師としての演劇と言えるだろう。以前、石巻のドキュメント映画を仙台でみたとき、東京や大阪で3.11作品を見るのとは全然違う雰囲気だった。自分たちの体験が映画/物語になっているという没入感と記憶の再現ゆえだろうか。今回の10-BOXには石巻の人も多く訪れ、たぶん被災地以外で見るのとは異なる空気が流れていた。

2013/05/29(水)(五十嵐太郎)

「小沢剛 高木正勝 アフリカを行く」展─日本とアフリカを繋ぐ2人のアーティスト─

会期:2013/05/25~2013/06/09

ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]

ヨコハマ創造都市センターの小沢剛/高木正勝「アフリカを行く」展へ。高木はアフリカの映像をもとに美しいイメージとリラックスできる場を提供し、小沢剛は福島生まれの野口英世がガーナで研究したことをもとに、フィクショナルなキャラクター、Dr. Nを捏造すると同時に、福島とアフリカにおいて制作したベジタブル・ウェポンのシリーズを展示する。前者は素直に美しいと思うが、個人的には後者のアートがもっている毒がいい。

2013/05/26(日)(五十嵐太郎)

藤本隆行×白井剛「Node/砂漠の老人」

会期:2013/05/26~2013/05/28

KATT神奈川芸術劇場 中スタジオ[神奈川県]

KAATにて、藤本隆行×白井剛 『Node/砂漠の老人』を観劇する。シュレッダーにかけた大量の紙の山=情報の混沌とした砂漠のオアシスに暮らし、そこから外には出ない老人のもとに、人(=情報?)が訪れてはまた去っていく。生の身体とデジタル制御された映像テクノロジーが重なり、そして構造のレベルで現代音楽が融合し、やがて再生を想起させるフィナーレへ。あいちトリエンナーレでは、この進化版を上演する予定という。

2013/05/26(日)(五十嵐太郎)