artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
国立デザイン美術館をつくる会 第2回パブリック・シンポジウム「こんなデザイン美術館をつくりたい!」
会期:2013/04/21
朝から夕方まで、7時間に及ぶ、国立デザイン美術館をつくる会の第2回パブリック・シンポジウム「こんなデザイン美術館をつくりたい!」に登壇した。五十嵐のパートでは、宮島達男と一緒に、一般から寄せられたアイデアを紹介する。建築的な視点から見ると、やはりネットワーク型の提案が多く、その対極にランドマーク型も少しだけあった。ただ、ミュージアムは企画展だけでまわっていると考えている人が相変わらず多いと思う。実はコレクションと常設の展示こそが本当の勝負であり、施設としての重要な責務なのだが。成功例としてしばしばあげられるルーブル美術館やMoMAにしても、国立かどうかに関係なく、いずれもおそるべきコレクションをもっており、それこそが普段は美術に興味がなさそうな観光客を引き寄せる最大の理由である。
2013/04/21(日)(五十嵐太郎)
マリオ・ジャコメッリ写真展 THE BLACK IS WHITING FOR THE WHITE
会期:2013/03/23~2013/05/12
東京都写真美術館 B1F展示室[東京都]
同館地下の「マリオ・ジャコメッリ」展は、印刷業を続けながら、日曜カメラマンとして活動した写真家を紹介する。白黒の対比が鮮明だ。初期は人物観察の深いドキュメンタリー的な作風だが、徐々に抽象度を上げ、現像時の操作などにより、超現実的な写真へと変わっていく後期が興味深い。志賀理江子に近いテイストの作品もある。壁や街など、一見偶発的に見える写真も、きちんと構図が計算されており、決まっている。
2013/04/20(土)(五十嵐太郎)
「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 北海道・東北編」展
会期:2013/03/05~2013/05/06
東京都写真美術館 3F展示室[東京都]
東京都写真美術館の「夜明けまえ」展を見る。シリーズでやっている日本近代の写真創成期の北海道・東北編だ。写真を通じて、すでに失われてしまった近代建築の姿をいろいろ見ることができる。動かない、新しい被写体として撮られたものだろうが、時間の経過はこれを歴史的なドキュメントに変えていく。また写真で記録された『明治三陸津波写真』や他の自然災害による被害状況も紹介されていた。このときは圧倒的に木造家屋の残骸であることがわかる。
2013/04/20(土)(五十嵐太郎)
村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
発行日:2013/04/12
村上春樹の小説『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読む。文体、比喩、形式、寓意と相変わらずの物語力である(これを謎解きのミステリーとして追いかけると、はぐらかされるだろうが)。今回は特に舞台となる名古屋ネタと主人公の駅設計業も楽しめた。ともあれ、本書では死ぬような思いをして生き残った主人公が、唐突に失われた共同体=美しい色のハーモニーをめぐって封印された過去/記憶と向きあい、未来に歩きだそうとする。はっきりと3.11には言及しないが、震災後文学でもある。
2013/04/20(土)(五十嵐太郎)
若沖が来てくれました─プライスコレクション江戸絵画の美と生命─
会期:2013/03/01~2013/05/06
仙台市博物館[宮城県]
仙台市博物館「若冲が来てくれました」展へ。前評判通り。見せ方というか、表題の付け方を変えるだけで、だいぶわかりやすく印象が変わる。例えば、有名な若冲の「鳥獣花木図屏風」は「花も木も動物もみんな生きている」に。絵そのものは変わっていないが、言葉のフィルターの大きさを感じる。
2013/04/17(水)(五十嵐太郎)