artscapeレビュー

五十嵐太郎のレビュー/プレビュー

ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

[アメリカ、ニューヨーク]

床が傾き、壁が湾曲しているために、ときどき美術系の人から最悪と言われる、フランク・ロイド・ライトのグッゲンハイム美術館へ。
とはいえ、やはりこの空間は圧倒的に素晴らしい。確かに、現代美術や大きな彫刻には不向きの特殊解だが、開催中だった白黒のピカソ展は内容もよく、絵画のサイズがほどほどなので、展示が空間をうまく使いこなし、相乗効果を上げている。ちなみに、
以前、グッゲンハイムで見たザハ・ハディド展は、床が傾いているなら、ドローイングも斜めにかけちゃえば、という度肝をぬく手法だった。今回、吹抜けの脇に付随する部屋はかなり天井が低いのに、カンディンスキーや1900年前後の絵画をうまく展示すると、むしろ親密さを演出し、空間のマジックを感じた。

2012/12/31(月)(五十嵐太郎)

SPIDER-MAN TURN OFF THE DARK

会期:2011/06/14

Foxwoods theatre[アメリカ、ニューヨーク]

『スパイダーマン』のミュージカルを観劇した。これは面白い。U2が楽曲に、石岡瑛子が衣装デザインに関わっているのはもちろんだが、出演者が文字どおりにスピード感のある空中戦を演じ、都市や空間を表現する舞台美術が凝りに凝っている。全編ガジェット満載で、呆れるを通り越して、驚き、楽しむしかない。
宙吊りの蜘蛛女を中心に、空中でスイングしながら女たちが黄色い帯を縦横に編む幻想的なオープニング。ライブのワイヤーアクションで、スパイダーマンが飛び、2、3階席にも着地し、観客の頭上でグリーン・ゴブリンと戦う。またマスクをかぶり顔を見せないことを逆手にとって、複数のスパイダーマンがスタンバイして、瞬間的に移動したように見せたり、あちこちから自在に登場するスピード感をつくりだしている。ここまで実際に飛びだす3Dで、高さのある演出はちょっと見たことがない。そして意図して漫画風につくられた舞台美術も興味深い。これだけ複雑な装置なら、怪我や事故、初期の上演でトラブルがあっても仕方ないだろう。舞台の手前がビルの屋上、奥が地上面になって、垂直軸を90度回転させるほか、左右に傾いたり、重心が転換する感覚は、まさに映画で見たスパイダーマンの動きだ。CG技術がもたらすダイナミックな表現が、現実の演劇と生身の俳優にフィードバックしたものと言える。

2012/12/30(日)(五十嵐太郎)

ニューミュージアム・オブ・コンテンポラリー・アート

[アメリカ、ニューヨーク]

SANAAの手がけたニューミュージアムへ。単一の建物を撮影した写真だとわからないが、実際に街を歩くと、積層したヴォリュームをずらすのは、高層化されていないまわりの建物のスケールを意識したものと実感できる。これは移動にエレベーターを使う、いわばワタリウム型の都市美術館だが、室内においては、各階のヴォリュームのズレを使いながら、異なる方向に細長いトップライトや階段を設け、空間に変化を与えていた。

2012/12/30(日)(五十嵐太郎)

ディア・ビーコン美術館

[アメリカ、ニューヨーク]

美術界からの評価が高いニューヨーク近郊のディア・ビーコンへ。
巨大工場をまるごと現代美術の空間にしたもの。なるほど、建築家は余計なことすんなと言いたくなるカッコよさだ。いまあるジャッドやデマリアはそれほどでもなかったが、サンドバッグの糸による幾何学、ルウィットの手描き数学空間、マイケル・ハウザーらの作品がよかった。
外光が届かない地下は、国立近代美術館でもやっていたような初期ビデオアートの特集展示を開催している。全体としては、リチャード・セラ、ハウザー、ロバート・スミッソン、ダン・フレヴィンなど、ミニマリズムやランドアートが多く、建築に影響を与えた作家が多い。チェンバレインの車をぐしゃぐしゃにした彫刻もゲーリーへの補助線が引けそうだ。

2012/12/29(土)(五十嵐太郎)

ニューヨーク近代美術館(MoMA)

[アメリカ、ニューヨーク]

MoMAは噂に聞いていたが、大量の人でごったがえし、まともに鑑賞できる状況でなかった。近・現代美術でこれだけの集客力を誇ることに驚かされる。巨大ミュージアムであるがゆえに、圧倒的な物量がこうしたポピュラリティを獲得させるのか。同時に複数開催している企画展もすごいが、コレクション/常設の規模とクオリティこそが真価であり、残念ながら日本が簡単に追いつけない側面だと実感する。しかも東京とは違い、交通の便がいい都心に超巨大美術館が存在し、レストランもしっかりとおいしい。
6階では、ちょうど日本の前衛芸術展を開催中だったが、こうして世界の文脈からみると、全体的にじめっとしてどろどろ、色調が少し暗いのが日本アートの特徴ではないかと改めて思う。3階の建築部門は、ユートピア的作品の特集展示だった。コールハースのエクソダス、チュミのマンハッタン・トランスクリプト、セドリック・プライス、磯崎新、アーキグラム、ハンス・ホライン、アルド・ロッシ、ディコンストラクティヴィズム、最近亡くなったレベウス・ウッズから現代まで、建築が現代美術と共に位置づけられている。日本の美術館ではお目にかかることができない、うらやましい環境だ。2階は、80年代以降の美術フロアだが、ここでも1988年にMoMAで開催され、大きな話題を呼んだ脱構築主義の建築展を自ら歴史的に位置づけている。

写真:上=外観、中=室内、下=3階の建築部門展示

2012/12/28(金)(五十嵐太郎)