artscapeレビュー
五十嵐太郎のレビュー/プレビュー
モーフォシス《カリフォルニア州交通局(カルトラン)第7本部》ほか
[アメリカ ロサンゼルス カルバーシティ]
モーフォシスの交通局ビルは、環境を制御する二重皮膜とハイテク風の造形を特徴とし、大胆さと知性を兼ね備えたデザインである。カルバーシティでは、エリック・オーウェン・モスの建築群を見る。学生のときに雑誌で知って訪れたかったものだ。このエリアに彼の作品が多いのは知っていたが、同じ開発業者が彼に依頼していることもあり、本当に集中していることに改めて驚かされた。モスの街である。ディコンストラクティビズムからも影響を受けた擬似リノベーション的手法やポストモダン的な造形は、とても懐かしい。現在流行っているデザインも20年後、このように思われるのだろうか。
写真:上=モーフォシス《カリフォルニア州交通局第7本部》、下=エリック・オーウェン・モス
2012/05/04(金)(五十嵐太郎)
フランク・O・ゲーリー《ウォルト・ディズニー・コンサートホール》ほか
[アメリカ ロサンゼルス]
UCLAでレクチャーを行なうため、ロサンゼルスを13年ぶりに訪れ、新しい建築を見学した。前回はまだ建設中だったフランク・ゲーリーのコンサートホールは完成し、その独特の造形から、ここでも都市のランドマークとなっている。ビルバオ、ヴィトラのミュージアムなど、各地の様式はどれも同じように見えるが、これは外構をランドスケープのように、上下に歩きまわれるのがおもしろい。またコンサートホールの近くには、要塞のような外観だが、内部は明るく開放的なラファエル・モネオによる大聖堂、オブジェ的な造形が目立つコープ・ヒンメルブラウの高校なども新しく登場している。磯崎新のMOCAの向かいには、ディラー+スコフィディオらによる現代美術館も建設中だった。このエリアが文化的な建築によって再開発が進行していることがうかがえる。
写真:上=ホセ・ラファエル・モネオ《聖母マリア・カテドラル(天使のマリア大聖堂)》、下=コープ・ヒンメルブラウ《ビジュアル&パフォーミング・アーツ、セントラル・ロサンジェルス第9高校》
2012/05/04(金)(五十嵐太郎)
NAP建築設計事務所+竹中工務店《東急プラザ表参道原宿》
[東京都]
表参道のGAP跡地に完成した、中村拓志設計による東急プラザ表参道原宿を訪れた。凹凸のスカイラインをもつ印象的な外観で、オープン前から目立っていた物件である。全体が鏡面張りになった印象的な導入部は、外部の都市風景が映り込み、内部に入ると、今度は垂直に吹抜けが展開し、空へとつながる。また空中庭園というべき、屋上の緑にあふれるオープンテラスは気持ちいい場所だ。東京にはないヨーロッパ的な広場の感覚をもつ。
2012/05/02(水)(五十嵐太郎)
日本設計+東急設計コンサルタント《渋谷ヒカリエ》
[東京都]
竣工:2012年3月
渋谷ヒカエリエへ。全体を統一したヴォリュームにおさめるのではなく、異なるプログラムのヴォリュームを縦にそのまま積んだような表現は、OMAやmvrdvなど、オランダ系の現代建築の前衛がすでにやっていたことである。しかし、駅前の商業施設も、こうしたデザインをやるようになった時代を迎えた。おそらく、美術館やオペラのできる劇場などをもつ、愛知の芸術文化センターもいまだったら、こういう建築になっていただろう。
2012/05/02(水)(五十嵐太郎)
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト ドン・ジョヴァンニ
新国立劇場[東京都]
会期:2012/04/19,22,24,27,29
筆者が芸術監督を務める、あいちトリエンナーレ2013のオペラ『蝶々夫人』の演出をお願いしている田尾下哲(東京大学の建築出身)が、アサガロフ演出『ドン・ジョヴァンニ』の再演の演出を担当している。ここでは物語の舞台をヴェネチアに設定し、やはり建築的なセットを楽しめる(ヴェネチアだと、二幕の森や墓はなさそうだが、言うまでもなく、オペラの舞台とは、そうしたリアル描写が目的ではない)。粗筋だけをたどると、希代のプレイボーイが地獄に堕ちるというベタな勧善懲悪にも見えるが、モーツァルトの音楽とメインキャストたちの歌と演技によって、別の意味や奥行きが与えられるのが『ドン・ジョヴァンニ』の面白いところ。長い歴史があるだけに、パフォーミング・アーツとして完成されている。終演後、バックステージツアーに参加することができた。オーケストラ・ピットの解説を聞いたり、国内で最大級の四面舞台の上を歩くのはもちろん、いま見たばかりのステージ・セットを間近に見学できるのは、なんとも贅沢な体験である。熱心にさまざまなエピソードや苦労話を伝える舞台監督の斉藤美穂の解説も、とてもおもしろいものだった。
2012/04/22(日)(五十嵐太郎)