2021年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

木村覚のレビュー/プレビュー

大駱駝艦・壺中天公演『CRAZY CAMEL』

会期:2012/12/14~2012/12/24

壺中天スタジオ[東京都]

麿赤兒の役回りを村松卓矢が担当し、今年の10月にパリで上演された同名作を再演したのが本作。タイトルはパリの有名キャバレーCRAZY HORSEへのオマージュでもある。なるほど、野外イベントなどでしばしば上演されてきた彼らの金粉ショーは、壺中天スタジオの室内でみると妖しい魅力が増してきて、ゴージャスさや美しさに特化しているところはCRAZY HORSEと異なるとしても、キャバレーのヌードショーと似た興奮が劇場を満たしてゆく。6人の男女が金色のコーティングを施して、アグレッシヴな動きを見せると、あっという間に、金の肌に玉の汗が輝き出した(最後には汗で水たまりをつくりかけるほど床が濡れた)。向雲太郎のアホとロマンの皮袋』でも思ったことだけれど、色を塗った舞踏特有の肌というのは、裸ではなくひとつの衣裳なのだ。生々しさを隠して艶めかしさを残す。体のラインが最大限際立ちつつも、裸に目を向ける気恥ずかしさを軽減させる。彼らの踊りの間に、村松卓矢と我妻恵美子のダンスが何度か差し挟まれる。ときにセーラー服、ときに貴婦人の衣裳を纏って踊る2人は、終幕にさしかかったところで「Monet」と表紙にある本を手にした男の子がじつは春画を見て勃起していることを知り、迫ると、彼の金色のペニスを食べてしまう。シンプルな構成、時間も彼らにしては約1時間と短い。けれどもその分、彼らの官能的で、ユーモラスな面が鮮明に出た公演となった。舞踏というと専門的な興味にしか訴えないところがあるが、こうしたショーなら理屈抜きに見たいという客もいるはず。ぜひ「CRAZY CAMEL」ショーとでも称して、第二弾、第三弾とシリーズ化して欲しいものだ。

2012/12/22(土)(木村覚)

向雲太郎『アホとロマンの皮袋』

会期:2012/12/21~2012/12/22

中野テルプシコール[東京都]

今年、大駱駝艦を退団した向雲太郎(以下、向と略称)が、退団後上演した初のソロ公演。こたつとその真上に吊った流木みたいなクリスマスツリー。そこでしばしごろごろしていた向はあっと我に返り、あわててしたのは白塗りすることだった。本作に向が用意した最大の仕掛けは、この白塗りをしてその後落とすというもので、向のダンサーとしての実存を確認するものであると同時に、白塗りの謎に光を当てる趣向となっていた。白く塗っていくと肌は生々しさを奪われる分、艶めかしさを帯びてくる。「塗る」という仕方で肌は一種の衣裳を纏うのだ。また素肌でギョロリと目を剥いても出ない効果が白塗りにはある。そうか、コントラストをつけ、小さい動きを際立たせ異形の存在を造形する白塗りは、舞踏を漫画チックにする力だったのだ。その漫画性は白塗りを「落とす」とやはり消えてしまう。「塗る」と「落とす」という仕掛けは、マジックの種明かしのような、禁断のネタだった。それにしても、向は器用なダンサーだ。舞踏という枠にとらわれない、ダイナミックで軽快な動きには、ときにヒップホップダンスのテクニックとの類似性まで感じさせられる。獅子舞のように、こたつの布団を被って頭に白い骸骨を載せて踊ったときなどは、大道芸的なユーモアも感じさせて観客を笑わせた。大駱駝艦で培ったものをベースに、新しい要素を取り込みながら、自分らしいダンスを模索する向。さて、これからどこに行こう。いつか「アホ」と「ロマン」が詰まった皮袋をなんども裏返しにしていくような、奇想天外に状況の展開する作品が見てみたいものだ。

2012/12/21(金)(木村覚)

黒沢美香『「薔薇の人」第15回:鳥図』

会期:2012/12/04~2012/12/07

中野テルプシコール[東京都]

「黒沢美香(それも薔薇の人シリーズ)を見る」というのはダンス好事家の密かな楽しみというもの。「美味いレストランはみんなに教えたいけれど極めつきは別」と一緒で、ただただ黙って堪能したい、ここにいる幸せを噛み締めたい、そんな気持ちにさせられる。そしてこういう絶品の常として、「新たな展開」「新機軸」「歴史を塗り替える」なんて言葉をあてがうことにはたいした意味がない。薔薇の人シリーズは、それ自体が永遠の非常事態なのだから。「ああ、うまいなうまいな、すごいなすごいな、ああここにもこんなアクセントが……にくいな、このっ……」とか独り言をぶつぶつ心に漏らしながら、ただ賞味するだけで幸福なのである。この作品でもこれまでと同様、堂本教子の衣裳がすごい。きちんと気味の悪さを添えながら、黒沢の乙女心を見事にかたちにしている。黒沢の鳥は、手にした長いさおのような腕のようなものとともに、奇怪な感じで舞台に生息する。天井に吊った衣類の塊を突っつき床に落としてみたりなどするなかで、人間の生とは別次元にある鳥の生の不思議な面白さ(黒沢がフライヤーに記した言葉を借りれば「動かない鳥の失礼な大きさと重さ」)が、次々と展開した。

2012/12/07(金)(木村覚)

プレビュー:黒沢美香『鳥図』、壺中天『CRAZY CAMEL』、バナナ学園純情乙女組『バナナ学園大大大大大卒業式──サヨナラ♥バナナ』

今月は、上旬に上演される黒沢美香の「薔薇の人」シリーズ第15回公演『鳥図』(2012年12月4日~7日@中野テルプシコール)がまず要注目。黒沢は、日本のコンテンポラリー・ダンスの世界でゴッドマザーと呼ばれもする超重要なダンサー。とはいえ、そんなキャッチフレーズとはおよそ結びつかない、何重にもひねりを加えたような、生半可ではない、不可思議で魅惑的な舞台で毎回観客を翻弄してきた強面の作家でもある。唯一無二の、超絶的世界が展開されること必死。見逃さずに! 中旬からは、おなじみ壺中天公演『CRAZY CAMEL』(2012年12月14日~24日@大駱駝艦・壺中天)の上演が待っている。今回は、舞踏仕立ての金粉ショーと銘打っているだけに、彼らの路上パフォーマンスのあの独特なコミカルでエロい熱気でスタジオが盛り上がることだろう。しかも、本公演は村松卓矢が主演、演出という話を聞いた。ならば、やはり見逃すことはできないはず! さて、年末には、バナナ学園純情乙女組の解散公演『バナナ学園大大大大大卒業式──サヨナラ♥バナナ』(2012年12月28日~31日@王子小劇場)の上演も控えている。彼らが演劇界に残したものとはいったいなんだったのかを確認するためにも、あの異常に覚醒した熱狂をもう一度堪能するためにも、目撃しておきたい一本。

2012/12/03(月)(木村覚)

快快『Y時のはなし・イン・児童館』

会期:2012/12/01~2012/12/02

光が丘区民センター3階 多目的ホール[東京都]

「地域の児童館とアーティストをつなぎ子どもとまちとアートのコラボレーションを生み出」すことを目的としたプログラムにアーティスト・イン・児童館がある。彼らが企画した本公演は、児童館を舞台にした快快の代表的レパートリーを児童館に集う本物の子どもたちとともにつくりあげるというなんともミラクルな上演だった。7月に近隣の児童館を会場に行なわれたイベント《100%夏休み》をはじめ、何度も子どもたちと接触を繰り返してきた快快。舞台に出演する子どもたちの生き生きとした姿を見て、もともと「つながり」をめぐって精力的に取り組んで来た彼らの本領がここで存分に発揮されていると思い、素直に感動した。快快はゆるい。現代演劇を生真面目に更新しようとしているというより、まるで遊んでいるようだ、少なくともそう見えることがある。彼らを「パーティ・ピープル」と呼ぶ人たちも多い。けれども、そのゆるさこそがたぐいまれな彼らのパフォーマンスの方法なのではないか。とくに今回の上演でそのゆるさが活きていたのは、「夏休みの最後にパーティをする」というシーンで、これまでの『Y時のはなし』上演にはなかった、子どもたちが実際に歌ったり踊ったりの演目を披露した場面だった。演劇の一場であるはずが、リアルな「お楽しみ会」みたい。演目の進むなか、あちこちからかけ声が投げかけられるなど、和んだ雰囲気が絶えない。演劇の完成度に固執する劇団ならば、高校生がフォークギター片手に歌うなんてパートは挿入しないだろう。その瞬間、演劇的テンションはくずれる。けれども、そこに集った人の力が無理なく表われていることに、演劇的完成とは別の感動が生まれもする。演劇を通してなにができるのか。この特別な公演は、演劇それ自体を目的とするだけではなくひとつの手段としてもとらえている(ぼくはそう思っている)快快からの、ひとつの幸福な希有なプレゼントだった。


快快 (FAIFAI)『Y時のはなし・イン・児童館』【予告編】

2012/12/02(日)(木村覚)

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