2021年10月15日号
次回11月1日更新予定

artscapeレビュー

木村覚のレビュー/プレビュー

快快『りんご』

会期:2012/09/13~2012/09/16

KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉[神奈川県]

快快が劇団として唯一無二なのは、役者が「役者」であることから半分降りて当人として舞台に上がっているように見えることだ。逆に言えば、通常の演劇において役者というものは「役」を演じるのみならず、「役を演じる者」(「役者」)を演じているのである。快快がいることで、通常の演劇が二重に演技したものであることに気づかされてきた。たとえば、チェルフィッチュの役者は、「劇の役」を演じる前に「チェルフィッチュの役者」を演じている。「~の役者を演じる」とは、稽古の場で演出家が望む身体性を獲得することと同義だろう。その身体にはゆえに、演出家との(上下)関係が刻印されている。それに対して快快の役者たちは、そうした意味で快快の役者を演じているようには見えない。大道寺梨乃は大道寺梨乃であり、山崎皓司は山崎皓司のまま、限りなく当人に近い存在で観客の前に居る。この点で、彼らの舞台は正しくポスト演劇だった。自由で気取ってなくて演劇じゃないみたいだった。学園祭みたいな、ユートピアみたいな、嘘みたいな演劇だった。本作を最後に、主要メンバー数人が快快から離れるらしい。そのことも悲しかったが、本作は、脚本を担当する北川陽子の実話に基づく(らしい)母の死をめぐっており、他者の死を演じるという困難な課題を何度も交替し役者たちが実践してみせるさまは、おかしくて、悲しくて、切なかった。りっぱな演劇を成立させること以上に、彼らが演劇をとおしてやろうとしたことは、一貫して、他者に触れること、他者とともに生きることだった(千秋楽ではアンコールも出た「Be Together」(鈴木あみ)で踊るシーンはその点で象徴的だった)。その思いが他者の死を演じてみるというアイディアの内に、ほとんど奇跡のようにとてもピュアなかたちで結晶していた。

快快(FAIFAI) 新作公演「りんご」

2012/09/16(日)(木村覚)

プレビュー:池田扶美代『in pieces』、快快『りんご』、悪魔のしるし『倒木図鑑』、神里雄大『杏奈(俺)』、笠井叡『あんまの方へ』ほか

9月も横浜が熱いです。KAATのイベント「KAFE9」では、ローザスのメンバーとして活躍してきたダンサーで振付家の池田扶美代がイギリスの演出家ティム・エッチェルスと制作したソロ作品『in pieces』(9月7日~9日)や快快の新作『りんご』(9月13日~16日)、悪魔のしるしの新作『倒木図鑑』(9月27日~30日)などが要注目。それに「We dance 横浜2012」(9月22日)も忘れずに。ダンサーや振付家たちが主体的にダンスの未来を模索するイベント「We dance」の5回目となる今回は、ディレクターを白神ももこが務める。気になるのは岡崎藝術座の神里雄大によるダンス作品『杏奈(俺)』。ダンサーとのコラボレーション作品らしいのだけれど、神里演劇が見せる濃密な身体の質をダンスとしてみせるのか、それともまったく異なる(たとえば、ダンサーとの対話それ自体が作品の核となるような)アプローチで行くのか、とても楽しみだ。ほかには「DANCE TRUCK PROJECT」なる企画がユニーク(9月7日~9日@新港ふ頭入口前 特設会場)。ケータリングカーを舞台に、ダンサーやミュージシャンなどがパフォーマンスを行なう企画らしい。詳細は不明。でも神村恵、白井剛、東野祥子、ほうほう堂、山川冬樹などが出演予定というから期待できそうだ。と、いろいろと挙げたけれども、一番注目しているのは「大野一雄フェスティバル2012」での笠井叡の公演『あんまの方へ』(9月29日@BankArt Studio NYK 3F)。1960年代、土方巽と刺激し合いながら舞踏の原型を形づくった舞踏家の笠井があらためて最初期の舞踏を問う作品だという。これは見過ごせない。ちなみに、タイトルの一部である「あんま」は63年の土方の作品『あんま──愛慾を支える劇場の話』に、「の方へ」は65年の作品『バラ色ダンス──A LA MAISON DE M. CIVECAWA(澁澤さんの家の方へ)』に由来する。

2012/08/31(金)(木村覚)

チェルフィッチュ『女優の魂』

会期:2012/08/17~2012/08/19

STスポット横浜[神奈川県]

ちょっと不思議な公演だった。『美術手帖』(2012年2月号)に掲載された岡田利規の同名小説を舞台化したという本作は、これまでもチェルフィッチュの公演に出演してきた佐々木幸子のひとり芝居。タイトル通りテーマは「女優」で、主人公は、役を主人公から奪われた女に恨まれ、殺され、魂だけになってあの世に行く。不思議だったのは、女優であるとはそして演じるとはどんなことなのかといった女優論を、女優役である主人公が語りつつ、それを現実の女優が演じるという、輻輳的な状況だけではなかった。いや、確かにそれもまた一興で、「演技とはなにか」を演説しているその女優の演技が実際その演説通りの演技を行なっているのか?なんて問いが生まれるのは、そうした構造が舞台に置かれているからだし、そういう問いが役の女優と演じている女優のあいだの微妙なズレを感じさせるわけで、不思議な気持ちがそうした事態から引き起こされたのは事実だ。しかし、もっと不思議な気持ちにさせられたのは「これはチェルフィッチュの公演なのだろうか」と思わされたことだ。「ズレ」は「チェルフィッチュなるもの」と「舞台上の演技」とのあいだにもあった気がしたのだ。早口でとめどなくしゃべる分、沈黙をともなうあの独特の間がなくなってしまったからか、あるいはしゃべりの雰囲気がたとえば友近を連想させるような独自の魅力を発揮してしまっていたからか、佐々木の演技が「チェルフィッチュそのもの」というより「チェルフィッチュをよく研究したフォロワーのもの」に思えてしまった。演技が下手だということではない。一人二役をこなそうと体をあっちこっちと移動させる振る舞いなど、佐々木の演技には、漫談的面白さが顕著だった。だがそれは「それチェルフィッチュなの?」と目を疑う部分でもあった。会場であるSTスポットの開館25周年記念を飾る「特別プログラム」という名の余興ととらえるべきか、いや、これこそがチェルフィッチュによるチェルフィッチュの正しい活用実例ととらえるべきか、判然としない上演だった。

2012/08/17(金)(木村覚)

鈴木ユキオ『崩れる頭』

会期:2012/08/09

日暮里d-倉庫[東京都]

50分ほどのソロ作品。冒頭から、鈴木ユキオはひたすら踊りまくる。しかし、この踊りは「踊り」と言うにはぎこちなく、いや、そうとはいえ、ぎこちなさは不思議となめらかに進んでゆく。手業は巧みだが身体に障がいがあるゆえに人形の動きに独特の規則性が示される、喩えるならそんな人形使いに操られているような動きなのだ。謎は謎のまま、しかし、必然性を感じる魅惑的な動きが続いた後、不意にプロジェクターが光を放つと、舞台奥に鈴木の背中と思しき皮膚が大写しにされた。皮膚の上には、筋肉かさもなければ漫画の効果線のような線が描かれている。その線は、実際の筋肉のあり方を示唆するというより、未知の身体性を暗示するかのように無邪気に乱舞している。しかし、一層興味深かったのはこの後。鈴木がバケツとコップをもって現われると、コップから水をこぼし、濡れた床を拭く、そんな最中「信じるな」との声が「天の声」のごとく不意に舞台に鳴った。それと柔らかくつながるように、鈴木がバケツをくるりと回すと、水かと思いきや、カラフルな紙吹雪が床に散らばった。「信じるな」とは、目の前の出来事が生じた因果性を常識に委ねるなとの一言だろう、常識的にとらえるなら。とはいえ、そんな常識的な理解も「信じるな」の言葉に一蹴されそうで、そう勘ぐれば勘ぐるほど思考がぐらぐらする。いずれにしても、言葉がこう置かれることで、本公演は「論」の体裁を帯びてくる(今年2月の公演タイトルが『揮発性身体論』だったこととも相まって、そうした読みが誘発される)。そうではあるのだが、しかし「論」というメタレヴェルはダンス公演のなかに混ざり込んでいるわけで、説明の対象と説明の内容とが混交するさまが不思議だった。この不思議な感触が鈴木の新しい一歩を予感させた。


鈴木ユキオ・ソロ公演「崩れる頭」(2012.8.9)Trailer

2012/08/09(木)(木村覚)

プレビュー:鈴木ユキオ『崩れる頭』、黒沢美香&ダンサーズ『大きな女の踊り』、山田せつ子×安次嶺菜緒『アシミネ×ヤマダ=ニドメ』ほか

8月は、フェスの季節。ダンス・演劇関係でもあちこちでフェスしています。すでに「ダンスがみたい! 14──崩れる身体」(7月17日~26日@d-倉庫、8月9日~9月5日@die pratze)が始まっています。注目は、8月9日の鈴木ユキオのソロ『崩れる頭』。グループに振り付ける試行錯誤からちょっと離れて、鈴木のダンスを存分に楽しめる上演になる予感大です。ほかにも8月22日の黒沢美香&ダンサーズのによる『大きな女の踊り』(またタイトルが秀逸!)や、8月11日の山田せつ子と安次嶺菜緒による『アシミネ×ヤマダ=ニドメ』の年齢差のある2人のコラボに期待したい。横浜のSTスポットでも開館25周年記念企画として、ダンス・演劇公演が目白押し。なかでも8月17日~19日のチェルフィッチュ『女優の魂』は必見だろう。この25周年記念企画は、9月以降も舞台音響の第一人者・牛川紀政による企画「地上波──第二波」(9月8日~9日)が大橋可也&ダンサーズの男子3人「ダンシーズ」などの出演で面白くなりそうだし(ダンシーズ/皆木正純×山田歩×唐鎌将仁『WA・GA・SHI』)、10月中旬には山下残の新作上演(『ヘッドホンと耳の間の距離』)も控えているようだ。これも9月の話ですが、横浜ではKAFE9(9月7日~30日@KAAT)も待っています。快快、contact Gonzoなどのほか、We dance 横浜2012も。

鈴木ユキオ・ソロ公演「崩れる頭」(2012.8.9)Trailer

2012/07/31(火)(木村覚)

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