artscapeレビュー
黒沢美香『「薔薇の人」第15回:鳥図』
2013年01月15日号
会期:2012/12/04~2012/12/07
中野テルプシコール[東京都]
「黒沢美香(それも薔薇の人シリーズ)を見る」というのはダンス好事家の密かな楽しみというもの。「美味いレストランはみんなに教えたいけれど極めつきは別」と一緒で、ただただ黙って堪能したい、ここにいる幸せを噛み締めたい、そんな気持ちにさせられる。そしてこういう絶品の常として、「新たな展開」「新機軸」「歴史を塗り替える」なんて言葉をあてがうことにはたいした意味がない。薔薇の人シリーズは、それ自体が永遠の非常事態なのだから。「ああ、うまいなうまいな、すごいなすごいな、ああここにもこんなアクセントが……にくいな、このっ……」とか独り言をぶつぶつ心に漏らしながら、ただ賞味するだけで幸福なのである。この作品でもこれまでと同様、堂本教子の衣裳がすごい。きちんと気味の悪さを添えながら、黒沢の乙女心を見事にかたちにしている。黒沢の鳥は、手にした長いさおのような腕のようなものとともに、奇怪な感じで舞台に生息する。天井に吊った衣類の塊を突っつき床に落としてみたりなどするなかで、人間の生とは別次元にある鳥の生の不思議な面白さ(黒沢がフライヤーに記した言葉を借りれば「動かない鳥の失礼な大きさと重さ」)が、次々と展開した。
2012/12/07(金)(木村覚)