artscapeレビュー

木村覚のレビュー/プレビュー

プロジェクト大山『みんな しってる』

会期:2012/06/23~2012/06/24

スパイラルホール[東京都]

2年前、トヨタコレオグラフィーアワードの「次代を担う振付家賞」をプロジェクト大山が獲得した。そのときぼくが思ったのは、トヨタのような現代(現在)のダンスに賞を与える場で、彼女たちのようなダンスを、というよりも彼女たちのダンスが基礎にしているダンスを評価する時代が来たということだった。ときに人はそれを「正統派」と呼ぶ。ぼくは見聞が狭くどう形容すべきかわからないのだが、ひとつ感じるのは、大学の教え子たちが高校時代に励んでいたといいながら貸してくれる、いわゆる「創作ダンス」の映像に似ているということだ。トヨタの受賞作品と同様、本作からも「創作ダンス」に似ているという印象を受けた。曲ごとに構成された振付は、激しかったりユーモラスだったりするポーズが挟まれるとしても、基本的には独特の美しさやフォーメーションの正確さ、独特のシャープネスを表現することに専心する。珍しいキノコ舞踊団やニブロールといった日本のコンテンポラリー・ダンスの女性作家たちが振付を通して示そうとした「等身大の若者」像は、本作からも読みとれなくないのだが、それより明らかなのは、目の前にいるのが「踊りたい女子たち」ということ。踊りでなにかを表現すること以上に、踊ることそれ自体を欲している「踊りたい女子たち」。彼女たちを駆り立てているのは、芸術的な表現欲というよりも体育的な運動欲に映る。そう思うと、フィギュアスケートやシンクロナイズドスイミングを見るときのように正確さや形の美しさに興味が湧いてきて、見る目が普段とは違ってくる。それをコンテンポラリー・ダンスの多様化として歓迎すべきなのかはわからない。ただし、気になったのは、その「創作ダンス」的なものの価値それ自体が作中で問われなかったことだ。そのことに違和感が残る。なぜこの系統のダンスを「踊りたい」のか。それが見る者に説得的に伝わってくるならば「踊りたい女子たち」の欲求もひとつの見所になりうるかもしれないのだけれど。

2012/06/24(日)(木村覚)

五反田団『宮本武蔵』

会期:2012/06/08~2012/06/17

三鷹市芸術文化センター 星のホール[東京都]

「剣豪演劇」と自称する五反田団の新作は時代劇。しかし、派手な殺陣が披露されるわけではなく、主人公が宮本武蔵であるにもかかわらず、五反田団らしいいつもの日常的情景が描かれた。山の湯治場、3部屋だけの宿に集う男たち女たち。作・演出の前田司郎演じる宮本は、その宿のなかで、自分が誉れ高い存在であることを隠そうとしない。この「誉れ高い存在」という自意識が芝居を牽引する。威張ったり、照れたり、すがったり、自意識はあれやこれやの芝居を宮本に演じさせる。だが周囲の者たちは、宮本がそう思い込んでいるように彼を尊敬するわけではない。宮本の勘違いが導く滑稽さ、情けなさ。そこにフォーカスするのが前田らしい。そもそもメディアが発達していない時代のこと。目の前の人が伝説の人物かを客観的に確かめることは難しい。宮本は孤独な剣士であるばかりか、孤独な演技者となって、この世に浮遊し続ける。「この宮本、中学生みたいだな」などと思わされる、前田お得意のコミカルな人間像は、そのまま喜劇として楽しんでも十分味わいがあるのだけれど、人間というものが生来有している自意識の姿そのものをそこに見るような気がして、人間というものが情けなくまた愛しく思えてくる。そういえば2006年の『さようなら僕の小さな名声』も「名声」をめぐる作品だった。自らの名声を誉れ高き人間にふさわしく他人に譲るという話で、前田自身が本人役で出演していた。本作は、人間の自意識の姿を描くこうした作品の系譜に属すものといえるかもしれない。

2012/06/13(水)(木村覚)

プレビュー:康本雅子『絶交わる子、ポンッ』/五反田団『宮本武蔵』/柴幸男(ままごと)『朝がある』

今月は公演が盛りだくさん。迷いますがマストは康本雅子『絶交わる子、ポンッ』(2012年6月28日〜7月1日@シアタートラム)。先日NHK『課外授業ようこそ先輩』にも出演していた彼女のじつに4年ぶりの単独公演。00年代に日本のコンテンポラリー・ダンスが意気揚々と誇示していた〈ポップで、ひねりが利いていて、リアルなダンス〉を、いまどんなかたちで展開してくれるのだろうか、期待が膨らむ。タイトルがまた康本らしい! 演劇では五反田団の『宮本武蔵』(2012年6月8日〜17日@三鷹市芸術文化ホール星のホール)が見たくてたまらない。「剣豪演劇」などと自称しているが、きっとふざけている。本番の舞台でふざけるという、よく考えるとなかなか大胆で自由で演劇批評的なことを前田司郎はやってのける。同じホールでは柴幸男(ままごと)の新作『朝がある』も行なわれる予定(2012年6月29日〜7月8日@三鷹市芸術文化ホール星のホール)。これは三鷹市の偉人「太宰治作品をモチーフにした演劇」という企画の第9回として柴が招かれて実現するもの。しかも柴が今回とりあげるのは女の子の1人語りがいま読んでも十分リアルな『女生徒』! これは、楽しみだ。

ままごと『朝がある』イメージビデオ

2012/06/01(金)(木村覚)

林千歩『You Are Beautiful──Love Primavera!』

会期:2012/05/23~2012/06/03

Art Center Ongoing[東京都]

昨年末の会田誠による展覧会「美術であろうとなかろうと」に参加して話題になっていた林千歩。おもに写真と動画を用いて構成された展示では、おじさんのメイクをして街中をうろうろしたり、兎になって砂浜で小さな糞の粒を落としたりする、その過剰で脱線気味の変身願望に、並々ならぬ表現意欲を感じた。本作では在籍中の東京藝術大学大学院の研究室プロジェクトで昨年夏に小豆島に赴いた林が、現地の老人たちとともに、島の伝説に基づく変身譚を演じてゆく。インスタレーションの中心に据えられているのは動画で、そこで林はマイマイカブリ(巨大カタツムリ)に扮し、老人たちは林(マイマイカブリ)に会うことで変身するのだが、その際老人たちは林が持参した若者の衣裳を身に纏うことになる。ここで起きているのは、互いに相手の世界に入り込み、つかの間、相手の世界を生きるといった、相互に相手と自分の世界を交換してみるといったパフォーマンスだ。若者風の化粧を施し、体育着に着替えた老人たちの姿は、違和感があってむずむずする。孫ほどに年齢差のある若者のリクエストに応えてあげたいという、愛情のようなものさえ透けて見える。相手の世界に入り込むという試みは、映像作家の常套手段かも知れないが、林の作品に特徴的なのは、それを試みるに際して、変身譚を全員で演じるという仕掛けを置いていること。この仕掛けが、あるいは物語というものに潜むファンタジーの力が、相互に世界を交換する変身へと彼らをやさしく誘っている。そのマジックが、展覧会タイトルにある「美しさ」を引き出しているようだった。変身させてくれたお礼としてマイマイカブリは老人たちから「宝物」(かつら、タオル、帽子など)をもらう。この宝物はボッティチェルリ『プリマヴェーラ』の登場人物を演じる老人たちのレリーフとともに、一枚の絵画に収められていた。ここでも(『プリマヴェーラ』の)物語を演じるという仕掛けが、彼らの出会いを結晶化させるのに、上手く機能していた。

2012/05/31(木)(木村覚)

東京ELECTROCK STAIRS『最後にあう、ブルー』

会期:2012/05/10~2012/05/20

こまばアゴラ劇場[東京都]

ヒップホップのテクニックが体に染みこんだKENTARO!!主宰のダンスグループ、東京ELECTROCK STAIRSによる新作公演。いわゆる「日本のコンテンポラリーダンス」のなかでヒップホップをベースした作品というのはかなり異質。バレエ、モダンダンス、ポスト・モダンダンス、舞踏などを基礎にしつつも、たいていのダンス作家たちは独自のダンス言語を構築しようとし、観客は振付に織りこまれたその「言葉」を読みとろうとする。これに対してKENTARO!!が会話に用いるのはヒップホップというポップな言語。前者が砂から塑像をつくることに似ているとするなら、後者、つまりKENTARO!!の場合、同じことをレゴブロックで行なっているようなところがある。それぞれのパーツは、見なれた、一定のグルーヴ感をもったもので、それ自体に個性がない代わりにわかりやすい。時折、コミカルなジェスチャーや言葉が差し込まれつつ、それらが組み合わされると、「等身大の若者の肖像」がほのかに浮かび上がってくる。かわいくて、元気で、がんばっている若者だなと思う。とくにAokidのすべり続けるギャグやかっこよさとなさけなさとのあいだで固まったポーズなんてたぐいは、無邪気にいえば好きだ。けれど、そこで「人間」とか「社会」とか「歴史」が描かれることはない。一時間強の上演のあいだ、ダンスの振り、しぐさ、ポーズ、おしゃべりは観客を「くすぐり」続けるも、それらの身振りがひとつの物語あるいはメッセージへとつながることはない。「ひとつの物語あるいはメッセージ」なんてないから、観客は希望の「くすぐり」を選んで自由にくすぐられていればいい。その点、本作はとても現代的な作品構造をもっている。青春の肖像の周りに集うこのコミュニケーションが生み出すのは、外部のない、だから傷つくことのないよう構築された世界に見えた。

東京ELECTROCK STAIRS「最後にあう、ブルー」PV
2012年5月10日(木)~20日(日)@東京 こまばアゴラ劇場
2012年6月1日(金)~2日(土)@韓国
2012年6月22日(金)~24日(日)@京都 京都芸術センター(講堂)

2012/05/20(日)(木村覚)