artscapeレビュー

木村覚のレビュー/プレビュー

杉原邦生 演出『14歳の国』(キレなかった14才♥りたーんず)

会期:2009/04/21~2009/05/04

こまばアゴラ劇場[東京都]

宮沢章夫が書いた、神戸の児童連続殺害事件を基にした戯曲の上演。殺害事件後、疑心暗鬼になった教員たちが体育の時間に教室で生徒の荷物チェックをする話。犯罪防止のために行なわれる犯罪的な行為という矛盾が、教員が教員を殺害するという犯罪へとエスカレートする。杉原はこの話に、一台のビデオカメラを持ち込む。机をのぞき込むカメラが、机に置かれたノートにある「名探偵コナン」の落書きを映すと、脇の教師は、コナンぶって台詞を呟く。物語とは無関係のこうした演出が、杉原らしさというかこの世代らしい演劇への距離感「演劇でどんな遊びができるか」をめぐる実験的遊戯をあらわにしていた。カメラは、鬱屈がピークとなった教師同士の殺害事件を映し出し、やや出来事がうやむやになったままミラーボールが回り、まさに「キレ」たディスコへと舞台は変貌し、そこで終幕した。

2009/05/02(木村覚)

プレビュー:キレなかった14才♥りたーんず/ベップダンス

こまばアゴラ劇場/別府現代芸術フェスティバル2009[東京/大分]

今月から最後の一本はプレビューにします。
今月のお勧めは、東京では「キレなかった14才♥りたーんず」。すでに紹介した篠田千明の「アントン、猫、クリ」含め、二十代半ばの6人の演出家たちの作品が毎日上演されています。彼らの大胆なアイディアに未来の萌芽が感じられること必至です。4/16から始まっていて5/6まで、こまばアゴラ劇場にて。
キレなかった14才♥りたーんず:http://www.komaba-agora.com/line_up/2009_04/kr14.html

東京以外では、「ベップダンス」が要注目です。こちらもすでに4/11からはじまっています。毎週末公演が予定されていますが、とくに期待したいのは舞踏家・室伏鴻とボリス・シャルマッツのコラボレーション。シャルマッツは、昨年土方巽のテクストを用いたデュオダンスで話題を集めたフランスの振付家。若手とのグループKo & Edge Co.やソロでの公演で数々の伝説を生んできた室伏が異国の新進気鋭とどんな舞台を創造するのか、とても楽しみです。同時期に別府現代芸術フェスティバルでは現代美術・音楽などの展示・イベントも行なわれますが、ダンスもお忘れなく。
ベップダンス:http://www.mixedbathingworld.com/event/archives/item_109.html

2009/04/30(木村覚)

grow UP! Danceプロジェクト:石川勇太『Time Difference』/捩子ぴじん『sygyzy』

会期:2009/04/24~2009/04/26

アサヒ・アートスクエア[東京都]

若手振付家の育成を目指したプロジェクトが公募で選出した2人は、5カ月ほどの稽古や中間発表を経て応募作とはタイトルも内容も大いに異なる新作を発表した。
石川作品は、舞台奥に黒いテーブルと椅子が置かれ、コンロに火を付けると、紅茶を沸かしたり、ポップコーンを炒ったりと舞台美術が目立つ。とはいえ演劇的にはならず、あくまでそこからダンスを引き出そうとしていて、その姿勢に好感が持てた。オブジェが生む音と匂い、ダンサー同士の触れる、掴む、押すといった、シンプルなしぐさに、見る者の記憶が刺激される。5人のダンサーはいつも2人か3人で踊るから、他人との関わりが途切れない。舞台手前とテーブルのある奥とでレイヤーを分けた空間演出も、見る者のイメージを一元化させない。独特の暗さや重さ、水音やオブジェが振りまく匂いは、途切れなく複数の身体が繋がってゆく際の「ねちっこさ」を増幅させていた。もっとできるはずと思わせるものの、今後を期待させる個性が垣間見えていた。
捩子作品は、神村恵と福留麻里という名ダンサーを起用し、身の丈を超える板や1メートルほどの高さの4本の柱とともに、前代未聞のパフォーマンスを見せた。人間ブルドーザー?人間滑り台?人間トラック?人間リフト?踊る余裕を一切排除する「重労働」は、角度のついた板を滑るときが典型的なように、ダンサーの身体を気取りゼロの、物体に限りなく近い存在へと導いた。2人がL字型になって横たわり起きあがりまた床に寝そべるときなど、本当に板や柱と同等の単なる物体に見えてくる。可笑しくも怖しい光景。同じ動作の繰り返しは、労働の悪魔性を助長する。そう、これは悪魔的なダンスだ。捩子の悪魔的な徹底によってダンスは、楽器や絵筆を物として扱うのと同様に、ダンサーという道具を単なる物として扱う次元へ到達した。
grow up! Dance プロジェクト:http://gudp.exblog.jp/

捩子ぴじん「sygyzy」PV

2009/04/26(木村覚)

キレなかった14才♥りたーんず:「アントン、猫、クリ」(作・演出:篠田千明)

会期:2009/04/16、2009/04/22、2009/04/26、2009/04/27、2009/05/03、2009/05/04

こまばアゴラ劇場[東京都]

アパートの住人が野良猫を囲んで言葉を交わす。プロットはとてもシンプル。見所は快快の演出家・篠田が繰り出すサンプリング的手法。女が舞台中央に立つ。しばらくして口にしたのは「まち。いえ。どーろ。家、家、家、アパート、二軒並んでいる、電信柱、アパート……」。目に入ったものになんでも反応してしまうロボットみたいだ。感情に高まる前の状態といったらいいか。この状態で男や猫と出くわす。時折、反復的な言葉を発する(「雨雨雨……」)と、同じポーズがスタンプを押すみたいに続けられて、それが音楽で言うサンプリングみたいで、そんな反復が時間を進め、ささやかな物語にもかかわらず50分という時間が埋まっていく。演劇が限りなく音楽演奏に見えてくる。けれどもサンプリング(スタンピング)は人力なので、役者は大変だったろうけれど、ダンサー(初期型)のカワムラアツノリは軽々こなしていた。女役の中村真生も大活躍。快快のメンバーが出演していないことで、篠田の演出が明瞭になった本作だった。
キレなかった14才♥りたーんず:http://www.komaba-agora.com/line_up/2009_04/kr14.html

2009/04/16(木村覚)

岩渕貞太「タタタ」

会期:2009/03/27~2009/03/29

のげシャーレ[神奈川県]

近年Ko & Edge Co.や群々でも活動している岩渕貞太。待望の新作。よかった。30分ほど酒井幸菜が踊ったあと、同じ振り付けを岩渕が続ける。照明や音響もタイミングは変えてあるとはいえ、ほぼ同じイメージ。瞬発力のダンス。振る、揺する、曲げる、相撲のように低姿勢で前進する。時々、ダンスというよりスポーツに見える。岩渕の柔軟で力強い身体は魅力的で、また、2月に見たマリー・シュイナールの作品を思い起こさせた。舞台上の身体が、なにかの代理表象となるのではなく、自らの身体それ自体を見る者に率直に提示するのは、明らかに最近のモードのひとつ。テレ・コミュニケーションが氾濫する現在に、それでも観客が劇場に足を運ばずにはいられない舞台の要素とはいったいなんなのか? そうした問いへの、これはひとつの解答なのだろう。
岩渕貞太「タタタ」:http://kyunasaka.jp/topics/studio/tathata.html

2009/03/29(木村覚)