artscapeレビュー

木村覚のレビュー/プレビュー

「吾妻橋ダンスクロッシング」

会期:2009/09/11~2009/09/13

アサヒ・アートスクエア[東京都]

コンテンポラリーダンスを紹介するお祭りとしてはじまった(と記憶している)「吾妻橋」は、ここ数回、その縛りから桜井が自由になりジャンルレスなセレクションを決行したことで、パワフルでユニークな舞台表現の一大イベントへ発展した。今回はとくに、「吾妻橋」史上もっともネールバリューの高いアーティストがラインナップされた回となった。盛況の理由はひとつそこにあるだろう。とはいえ、今回の「吾妻橋」がとりわけ盛り上がったのは、いとうせいこう(+康本雅子)と飴屋法水を、チェルフィッチュとLine京急を、contact Gonzoとほうほう堂を、ハイテク・ボクデスと鉄割アルバトロスケットを、快快とChim↑Pomを観客が立て続けに見られたというところにあったろう。そりゃそうなったら比較してしまいます。そして、その比較から見えてくるものがあるわけです。今回ほどタイトルの「クロッシング」の語が際だった回はこれまでなかったろう。観客はそれぞれを見比べながら、案外冷静に、舞台で披露された各組の方法に目を向けたに違いない。そして、この異種格闘技イベントに「ダンス」の名が刻まれている理由を思ったことだろう。ぼくはcontact Gonzoの相変わらずキラキラした暴力と、鉄割アルバトロスケットで役者のひとりがジャンキーみたいに割り箸を指す快楽に耽溺しつつ(?)ギョロ目でポーズを決めたところと、チェルフィッチュの役者たちがしゃべると案外大きなジェスチャーをしてしまうところと(しゃべらないときの役者の休んでいるところも)、Line京急の大谷能生、山縣太一、村松翔子という強力な3人が繰り出すいくつもの瞬間に、とくにダンスを感じました。

2009/09/11(金)(木村覚)

壺中天『遊機体』

会期:2009/09/03~2009/09/06

壺中天[東京都]

向雲太郎が演出と出演を担当する今回の壺中天。ギターの建一郎とライブペインティングの鉄秀をゲストに迎える。この鉄秀が舞台のトーンを支配した。独特の墨のような黒と金と銀の絵の具を用いたパフォーマンスは、壁も床も絵の具まみれにしてゆく。現われては瞬時に消える形状は、たいてい人体をモチーフにしていて、舞台の向の身体と呼応する。フライヤーの言葉「あたらしい、いきもの。」を連想させる向の宇宙人のような身体と軽い動き。よいところはいくつかあった。けれども、ダイナミックともいえるけれど雑にも見えてしまう向と鉄秀2人のバトルは、延々とある一定のペースで進み、とくにバックの音楽との相乗効果で、深夜のクラブで行なわれているような錯覚を感じた。「まったり」感が心地よいともいえるが、舞台という場で行なう表現としては物足りなさも正直あった。

2009/09/03(木)(木村覚)

プレビュー:吾妻橋ダンスクロッシング/大橋可也&ダンサーズ『深淵の明晰』/壺中天『遊機体』

[東京都]

9月のマストは「吾妻橋ダンスクロッシング」(9/11~13@アサヒ・アートスクエア)で間違いないでしょう。飴屋法水、いとうせいこう、Contact Gonzo、チェルフィッチュ、鉄割アルバトロスケット、ハイテク・ボクデス、康本雅子、ライン京急、あとChim↑Pomと快快も参加予定と、東京の身体表現シーンのカタログとしては、最良のラインナップと言って過言ではありません。ただし、残念ながら現在のところチケット入手は困難なようです。さまざまな手段を使ってどうにか潜り込んで見てください、若き未来のアーティストたち!

お祭りイベントはちょっと苦手という方は、大橋可也&ダンサーズ『深淵の明晰』(9/22~26@吉祥寺シアター)を。2006年から始まった『明晰』三部作の集大成、渾身の一撃を堪能しましょう。

もちろん、壺中天『遊機体』(9/3~6@大駱駝艦スタジオ「壺中天」)も要注目。名作『2001年壺中の旅』の作家・向雲太郎による舞台、期待しましょう。

2009/08/31(月)(木村覚)

イデビアン・クルー『挑発スタア』

会期:2009/08/20~2009/08/25

にしすがも創造舎[東京都]

ファッションショーのランウェイに似た長机が椅子と一緒にどん、とある。両側から観客が挟む。ダンサーが登場すると、モデルみたいに背筋を張って歩く。ただそれだけなのにダンスが体から溢れている。10人ほどのダンサー各人が各様の衣装をまとう。孤独で凜としている。井手茂太は、そんな個人を踊らせる。けれど、踊りのきっかけはたいてい他人で、のせられたり脅かされたり、気づけば踊り手は我を忘れ踊り、ポーズを決めている。きっかけは他人とは限らず、普段は隠れている、抑圧された状態の自分が踊りをうながす場合もある。たがを外すと、そこに「いつもとは違うテンションの自分」が現われ、そこに踊りが発生する。そうして熱風のようにダンスはダンサーの体に迫り、通り抜け、体を熱し、消えてゆく。踊らされた自分に気づき、不意に恥ずかしさがこみ上げるなんてことも隠さない。そう、なぜ踊るのか踊ってしまうのかという因果性が明確なのだ。そのことが井手の舞台を誠実なものにしている。イデビアン・クルーとしての活動はしばらく休止するそうだけれど、その間も、井手がメンバーたちとともに手中にしているダンスの因果性がどこでどう展開するのか、忘れず見守っていきたい。

2009/08/23(日)(木村覚)

青年団若手自主企画 vol.42『昏睡』(作:永山智行、演出:神里雄大)

会期:2009/08/17~2009/08/26

アトリエ春風舎[東京都]

『三月の5日間』を上演し、また今年の春に行なわれた「キレなかった14才♥りたーんず」でも注目された神里雄大は、岡崎藝術座を主宰する話題の若手演出家だ。彼が気になって見に行ったのだけれど、本作を書いた永山智行や、役者の山内健司と兵藤公美の力にも魅了された。男女の短い物語が連なる。欲望の限りを尽くして欲望が満たせなくなった王、7時間50分きっかり寝るのが健康と信じ込んだ男、不倫相手との性交中に抜けなくなった男の話などが、けっして合一化できない女との関係とともに描かれる。最後に2人は、真っ暗闇で死後になくなった肉体を求める。恋人であれ夫婦であれ他人は他人であるということがクリアにまた寓意的な仕方で語られ、観客は苦い笑みを浮かべる。自分が把握できる範囲を超えて他人は存在している。その事実に向き合って、それでも関係を推し進めていきたいと願う前向きさを感じる上演だった。

2009/08/22(土)(木村覚)