artscapeレビュー

福住廉のレビュー/プレビュー

オブジェの方へ──変貌する「本」の世界

会期:2009/11/14~2010/01/24

うらわ美術館[埼玉県]

文字どおり「本」をテーマにした展覧会。同美術館のコレクションをもとに、遠藤利克や若林奮、マルセル・デュシャン、ジョージ・マチューナスなど30数組のアーティストによる作品が展示された。全体的に共通していたのは、本をオブジェとしてとらえる即物的な視点。紙の代わりに金属、糸の代わりにボルトで綴じた本などはそのもっとも典型的な事例だが、文庫本の小口を削り取って羅漢像を造形した福田尚代や高温で焼いた本をそのまま見せた西村陽平にしても、「本」というオブジェを加工して別の造形を造りだす姿勢が一貫している。けれども、それらの作品には「本」というメディアへの捩れたフェティシズムは認められるものの、「本」にとっての本質的な機能である「読書」という内省的な経験は遠く後景に退けられていたようだ。だから「本」の既成概念から逸脱した芸術的な本の外面に目を惹かれることはあっても、結局のところそれ以上でもそれ以下でもない。そうしたなか、「本」のオブジェ性とはまったく無関係に「読む」次元を切り開いてみせたのが、松澤宥である。新聞紙のスクラップ記事や手書きの文字を羅列したインスタレーションは、「本」のなかに閉じ込められた「言葉」を愚直に解放したかのようだった。電子メディアの登場によって経済的にも物理的にも「本」というメディアが相対化され、ネット空間に有象無象の「文字」や「言葉」が氾濫している現在、松澤の「本」にこそアクチュアリティが宿っているように見えた。

2010/01/16(土)(福住廉)

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小村雪岱とその時代

会期:2009/12/15~2010/02/14

埼玉県立近代美術館[埼玉県]

大正の後半から昭和の戦前にかけて活躍した小村雪岱の回顧展。日本画をはじめ、本や雑誌の挿絵や装丁、舞台美術、着物の図案など、雪岱の幅広い画業を総合的に振り返る構成で、また竹久夢二や鏑木清方、河野通勢、木村荘八といった同時代人たちの作品もあわせて見せることで展示に厚みをもたらしていた。雪岱といえば、地面にしゃがみこんだ少女の丸みを帯びた身体表現や無個性といわれるほど表情に乏しい顔が特徴だが、今回改めて思い知ったのは空間処理の巧みさ。子母澤寛による「鐵火江戸侍」の挿絵では極端に縦長の紙をいかしながら屋敷の内部を描写しているし、邦枝完二の「おせん」や矢田挿雲の「忠臣蔵」の挿絵を見ると、余白の白と墨で塗りつぶした黒の鮮烈なコントラストがじつに美しい。モノクロームと描線で物語世界を描き出すという点でいえば、雪岱の絵は挿絵というよりむしろ現代のマンガ表現に近い気がした。宮川曼魚による「月夜の三馬」の挿絵に見られる無音空間は、榎本俊二や横山裕一に継承されているのではないか。

2010/01/16(土)(福住廉)

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内藤礼 すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している

会期:2009/11/14~2010/01/24

神奈川県立近代美術館/鎌倉館[神奈川県]

内藤礼の個展。糸やテープ、リボン、ビーズ、テグス、そして透明なガラス瓶など、繊細な素材を組み合わせたインスタレーションなど9点を発表した。ガラスの奥の展示スペースに観客を誘い入れたり、青空の真ん中でひらひらと舞うリボンを見上げさせるなど、私と世界のひそやかな関係性を追究してきた内藤ならではの展観で、おもしろい。リボンの向こうの青空を数匹のトンビがゆっくりと旋回していた光景は、どんな絵画作品よりも美しく、同時に美術のはかなさをも暗示していた。ただ、見方を変えれば、内藤のような静かではかない作品は、展覧会を企画する側にとって経済的に安上がりで、好都合なのだろう。絵画や彫刻のように大きな輸送費もかからず、映像のようにプロジェクターを何台も用意しなければならないわけでもない。今後も改善される見込みがないデフレ時代においては、こうした類の現代アートが主流になるのかもしれない。

2010/01/13(水)(福住廉)

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DOMANI明日展2009 未来を担う美術家たち

会期:2009/12/12~2010/01/24

国立新美術館[東京都]

文化庁による「芸術家在外研修(新進芸術家海外研修制度)」の成果発表展。12人の作家がそれぞれ作品を発表した。木製の廃材を高く積み上げて巨大な本棚を見せた高野浩子や、高層ビルが乱立する風景写真にレイヤーを重ね、求心力と遠心力を同時に体感させる安田佐智種などが見応えのある作品を見せた。それにしても展観を見終わって痛感するのは自律した批評の必要性だ。成果発表展という性格上、出品アーティストは短いコメントを発表させられていたが、「成果」を客観的に評価するには、観客や批評家による判断が不可欠である。だが、芸術家を海外に派遣する制度が確立されている一方で、そうした批評的な判断を成熟させる制度は十分に用意されていない。内容の如何が問われることがないまま、展覧会の履歴が自動的に更新されていき、その目録が新たな挑戦の資格となってしまう現状は、アーティストのみならず展覧会の企画者にとっても、彼らの表現がまっとうに吟味されないという点で、大きな不幸といえるのではないだろうか。

2010/01/11(月)(福住廉)

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ドゥシャン・カーライの超絶絵本とブラチスラヴァの作家たち

会期:2009/11/21~2010/01/11

板橋区立美術館[東京都]

スロヴァキアの絵本作家、ドゥシャン・カーライの展覧会。《不思議の国アリス》や《アンデルセン童話集》などをモチーフとした原画、油彩画などおよそ250点と、カーライの影響を受けた絵本作家による挿絵の原画50点あまりが展示された。「超絶」というほどの超人的なテクニックが駆使されているようには見えなかったが、それでも絵の構図や色彩のセンスはたしかに唸るものがある。

2010/01/10(日)(福住廉)

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