artscapeレビュー
福住廉のレビュー/プレビュー
GEISAI#13
会期:2009/10/18
Kaikai kiki 三芳スタジオ[埼玉県]
アーティストの村上隆が仕掛ける「GEISAI」の13回目。場所を臨海エリアの東京ビッグサイトから、埼玉県内にあるカイカイキキの倉庫に移し、規模も大幅に縮小、審査員による審査や賞の授与もなく、しかもテーマは「貧」。日本の若きアーティスト予備軍を「富」へと先導(扇動)してきた本展にも、昨年来の世界的な経済不況のあおりが直撃したということなのだろうか。とはいえ、次回は再び臨海部に立ち返るらしいので、これは根本的な方向転換などではなく、絶えず変動する経済状況にフレキシブルに対応する「戦略」の現われと考えるべきだろう。だが片田舎の会場には文字どおりどこかの美大のようなうら寂しい雰囲気が立ち込めており、等身大の原点に立ち返ったといえばそうなのかもしれないが、世界のアートシーンに打って出るという華々しい物語の片鱗はどこにも伺えず、そのあまりの開き直りぶりに愕然とせざるを得ない。世間が貧困問題に注目しているからといって、それをそのままテーマとして持ち出してみたところで、そこにいったいなんの「芸」があるのか。むしろ、そうした貧しい時代だからこそ、逆説的に「富」への夢に現を抜かしながら、やせ我慢を貫き通すことが、村上隆の強みではなかったか。「GEISAI」というプロジェクトが、表面的な印象とは裏腹に、じつに現実的で凡庸な、したがってあえて「アート」というほどでもない試みだったことが露呈したのが、本展である。
2009/10/18(日)(福住廉)
山本聖子 個展 空の風景
会期:2009/10/12~2009/10/17
コバヤシ画廊[東京都]
新聞の折り込み広告に必ず入っているのが、単色刷りの住宅情報。山本聖子はそれらを丹念に収集し、そこに印刷された間取り図を丁寧に切り取り、赤系のものを床に敷き詰め、青系のものを壁に水平方向に連結させながら展示した。白い壁の前に連続して立ち並ぶ間取り図は、線だけを残して面をすべて抜き落としているので、抜け殻のように頼りなく、複雑に組み合わされた青いフレームだけが眼に飛び込んでくる。間取り図が人びとの欲望が投影される器だとすると、山本が示したのはそうした欲望の視線に貫かれた後の残骸なのかもしれない。その亡骸が住まいをめぐる私たちのリアリティを強く刺激することはまちがいない。なおかつ、それらが生前の営みを想像させるところがまた、大きな特徴である。
2009/10/17(土)(福住廉)
一蝶リターンズ ~元禄風流子 英一蝶の画業~
会期:2009/09/05~2009/10/12
板橋区立美術館[東京都]
元禄の画家、多賀朝湖(たが・ちょうこ)、後の英一蝶(はなぶさ・いっちょう)の展覧会。近年新たに発見された作品も含めて50点が一挙に公開された。さまざまな身分の人びとが同じ門の軒下で雨宿りをする光景を描いた《雨宿り図屏風》のように、一蝶の絵には清濁併せ呑む度量の大きさと、滝浴びをするお不動さんが背中の炎が消えないように剣と一緒に脇へ置くしぐさを描いた《不動図》のように、茶目っ気のある可笑しさがある。そのほかにも、盲人の坊主が茶をひいているところに、紙をぶらさげた棹で背後からくすぐる《茶坊主》、鳥居に千社札を貼るのではなく直接筆で書いてしまおうとして、長い棒の先に筆をくくりつけて人の背中によじ登って手を伸ばす《社人図》など、滑稽で悪戯心に満ちた作風がなんとも魅力的である。
2009/10/11(日)(福住廉)
ある風景の中に
会期:2009/09/15~2009/10/18
京都芸術センター[京都府]
梅田哲也、岡田一郎、鈴木昭男、ニシジマアツシ、藤枝守、矢津吉隆、6名による展覧会。日常的な風景や音を別の角度から見直すことで新たな風景なり音を見出そうとしていたようだ。ワークショップルームを全面的に使った梅田哲也は、洗濯機や扇風機といった日常用品を巧みに連結させ、有機的な世界を構築した。水を湛えたシンクに浮かべられたおびただしいアルミの小皿は、水中ポンプからエアーが吐き出されるたびに、お互いがこすれあい、風鈴のような、ヒグラシのような、心地よい音を発していた。
2009/10/10(土)(福住廉)
岡本光博 skin
会期:2009/09/29~2009/10/11
GALLERY はねうさぎ[京都府]
岡本光博の新作展。表象批判のアーティストとして知られているが、今回の傑作はヴィトンのバッグの柄で作られたバッタの立体作品。3種類のパターンを中国の工場に発注し、日本に帰国後に組み立てたという。壁に貼りついたバッタたちは、いったいどこへ飛び立とうとしているのだろうか。表象批判というアートならではの作法が忘れられつつある今だからこそ、こうした作品は今以上に評価されるべきだと思う。
2009/10/10(土)(福住廉)