artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

「福島写真美術館プロジェクト 成果展/福島」

会期:2014/12/06~2015/12/21

キッチンガーデン2&3F[福島県]

2012年から福島県立博物館と同県内の各団体が連携して展開している「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」の一環としておこなわれているのが「福島写真美術館プロジェクト」。写真家やアーティストが、福島県内で作品を制作して発表するというもので、今回はその第2回目の「成果展」が福島市栄町のキッチンガーデン内のスペースを使って開催された。
今回発表されたのは、華道家の片桐功敦の「南相馬環境記録プロジェクト」、ニューヨーク在住のアーティスト、安田佐智種の「南相馬住まいの記憶プロジェクト」、写真家の赤阪友昭の「福島環境記録プロジェクト」、写真家の本郷毅史の「福島の水源をたどるプロジェクト」の4作品だった。福島第一原発の「20キロ圏内」に咲く花を器に生けたり、風景の中に配置して撮影する片桐、津波で流された家々の土台部分を撮影した画像を繋ぎ合わせて再構成する安田、震災後の自然環境の変化を克明に撮影し続ける赤阪、福島を代表する河川、阿武隈川の源流をたどる本郷の4作品とも、長い時間をかけた労作であり、そのクオリティもとても高い。このプロジェクトが、「震災後の写真」のあり方を再考、更新していく重要な試みであることが、あらためて証明されたのではないだろうか。
なお12月20日には同会場で、筆者をモデレーターとして、出品作家の片桐、赤阪に加えて、郡山で花の写真を撮り続けている写真家の野口勝宏、立ち入り禁止区域に指定されていた原発敷地内と作業員の写真を発表したフォト・ジャーナリストの小原一真を交えて、「福島で撮る」と題するトークイベントが開催された。「福島写真美術館」というのは、まだ今回のプロジェクトに与えられた呼称に過ぎない。だが将来的には、福島及び東北地方の写真を蒐集、保存、展示する恒久的な施設としての「福島写真美術館」を、ぜひ実現するべきではないだろうか。その可能性を探っていく第一歩として、とても意義深いイベントだったのではないかと思う。

2014/12/20(土)(飯沢耕太郎)

佐治嘉隆「時層の断片─Fragments from the Layers of Time─」

会期:2014/12/15~2014/12/20

ESPACE BIBLIO[東京都]

佐治嘉隆は1946年、愛知県生まれ。1968年に桑沢デザイン研究所写真専攻科を卒業している。同じクラスに牛腸茂雄、関口正夫、三浦和人がいた。牛腸とは後に、ギャラクシーというデザイン会社を共同運営したこともある。
この経歴を見てもわかる通り、日々スナップショットを撮影するという「構え」は若い頃にしっかりとでき上がっており、揺るぎないものがある。だが、今回東京・御茶の水のブックカフェ、ESPACE BIBLIOで開催された個展「時層の断片」を見ると、2005年からデジタルカメラでの撮影を開始し、06年からブログで作品を発表しはじめてから、その写真のスタイルが微妙に変わってきたようだ。単純に撮る量が増えただけではなく、被写体にぱっと反応する速度が早くなり、より軽やかな雰囲気が出てきている。彼のようなベテランの写真家が新たな領域にチャレンジしているのは、とても素晴らしいと思う。「時層」というタイトルは、あまり馴染みのある言葉ではないが、佐治の写真のあり方をとてもうまく捉えているのではないだろうか。シャッターを切る瞬間の、時空の広がり、偶然の形、光や影の移ろい、色の滲みなどが、地層のように積み重なり、柔らかに伸び縮みしながら連なっていく。気持ちよく目に飛び込んでくるイメージの流れを、A3サイズのプリント37点による展示で、心地よく楽しむことができた。
なお展覧会にあわせて、島尾伸三らとともに企画・刊行しているeyesight seriesの9冊目として、同名の写真集が出版されている。デザイン・レイアウトは佐治本人によるもので、2005~2013年撮影の写真が時系列に沿って144点並ぶ。より幅の広い写真群がおさめられて、奥行きを増した写真集の、展覧会のシンプルなたたずまいとの違いが興味深い。

2014/12/18(木)(飯沢耕太郎)

清水裕貴「mayim mayim」

会期:2014/12/05~2015/12/28

undō[東京都]

東京・三ノ輪に2014年5月にオープンしたギャラリー・スペースundō(運動という意味だそうだ)で、清水裕貴の個展が開催された。清水は2011年に第5回写真「1_WALL」でグランプリを受賞し、12年にガーディアン・ガーデンでその受賞展「ホワイトサンズ」を開催した写真家。ふわふわと宙を漂うような風景写真と、ポエティックなテキストを組み合わせた作品は、将来性を感じさせるものだった。それから2年が過ぎ、何か新たな展開があるだろうかと期待して見に行ったのだが、残念なことに作品のあり方はそれほど変わっていなかった。
今回は、イスラエルに雨乞いの祭りの取材に行ったときのスナップと、例によって散文詩のような感触のテキストを組み合わせている。ちなみに、フォークダンスの楽曲として知られていて、今回の展覧会のタイトルにもなっている「mayim mayim」は、開拓地で水を掘り当てたことに感謝を捧げるイスラエルの歌なのだそうだ。テーマは面白いし、謎めいた雰囲気の写真の選び方、並べ方も悪くない。にもかかわらず、映像も言葉も宙に舞って、そのまま雲散霧消しそうな心もとなさを感じる。
彼女にいま必要なのは、作品の「構造化」をより徹底することではないだろうか。夢や幻想の世界を描き出した作品も、いやむしろそういう作品だからこそ、くっきりとした論理的な構造が必要になってくる。たとえば、今回の作品の中に登場してくる魅力的な「足」のイメージを、きちんと育て上げ、一貫したストーリーの中に位置づけることができた時、写真と言葉の両方の領域を自在に操ることができる、スケールの大きな写真作家が出現するのではないだろうか。

2014/12/15(月)(飯沢耕太郎)

笹岡啓子「PARK CITY」

会期:2014/12/02~2015/12/23

photographers' gallery[東京都]

笹岡啓子は2009年に写真集『PARK CITY』(インスクリプト)を刊行した。彼女が生まれ育った広島を、爆心地近くの公園を中心に広がる「PARK CITY」と見立てて撮影したモノクロームのシリーズで、2010年に日本写真教会新人賞を受賞するなど高い評価を得た。今回のphotographers' gallery と隣接するKULA PHOTO GALLERYの展示では、このシリーズを踏まえて、さらにそこから先の展開が企てられていた。
photographers' galleryでは、写真集に収録されていた作品のモノクロームプリント11点とともに、新作のカラー作品3点が展示された。さらにKULA PHOTO GALLERYにも、カラー作品3点がより大きなサイズで展示されていた。広島平和記念資料館の展示物を眺めている観客(すべて学生など若い世代)を撮影した新作は、内容的には前作をそのまま踏襲している。だが、カラーになることで、いつともどこともつかない時空に宙吊りにされたように感じる前作と比較して、よりリアルな空気感が増したことは間違いない。もう一つ興味深いのは、展示されている原爆投下時の記録写真が、当然ながらモノクロームのまま写っていることだ。そのことによって、1945年/2014年という二つの時間の断層が、よりくっきりと形をとって見えてきたように思う。
笹岡が今回の展示作品を撮影するきっかけになったのは、『photographers' gallery press no.12』の特集「爆心地の写真1945-1952」の編集にかかわったためではないだろうか。刊行されたばかりの同誌に掲載された写真やテキストとあわせて見ると、現地調査の成果を踏まえつつ作品化していることがよくわかる。

2014/12/15(月)(飯沢耕太郎)

奈良原一高「王国」

会期:2014/11/18~2015/03/01

東京国立近代美術館[東京都]

奈良原一高が1958年に発表した「王国」は、まさに彼の初期の代表作というにふさわしい、堂々たるたたずまいの作品である。函館のトラピスト修道院を舞台とする第一部「沈黙の園」と、和歌山の女子刑務所を撮影した第二部「壁の中」という二部構成は、1956年のデビュー作品展「人間の土地」(鹿児島県桜島の「火の山の麓」と長崎県端島の「緑なき島」の二部構成)を踏襲しているが、囲い込まれた空間における人間の生の極限状況を提示するという観念的な枠組みはより強化され、ぴんと張りつめた緊張感を孕んだ画像が強い印象を与える。1962~65年のヨーロッパ滞在以降に、豊穣に花開いていく奈良原の写真の基盤は、この作品によって確立したといってよいだろう。
「王国」は雑誌発表や展覧会、さらに写真集として刊行されるたびに、微妙に姿を変えていったシリーズである。今回の東京国立近代美術館の展示は、2012年にニコンから寄贈された87点のセットによるものであり、それは1978年刊行の写真集『王国─沈黙の園・壁の中』(朝日ソノラマ)の構成を、ほぼそのまま再現したものだという。大、中、小の3種類のプリントを配置した展示空間は、実に緊密に練り上げられており、今なおみずみずしい鮮度を保っている。企業が所持していた写真作品が、美術館のコレクションとしてよみがえるという例は、これまであまりなかったのではないだろうか。今回の展覧会は、そのいいモデルケースになると思う。

2014/12/09(火)(飯沢耕太郎)

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