2021年04月15日号
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artscapeレビュー

奈良原一高「王国」

2015年01月15日号

会期:2014/11/18~2015/03/01

東京国立近代美術館[東京都]

奈良原一高が1958年に発表した「王国」は、まさに彼の初期の代表作というにふさわしい、堂々たるたたずまいの作品である。函館のトラピスト修道院を舞台とする第一部「沈黙の園」と、和歌山の女子刑務所を撮影した第二部「壁の中」という二部構成は、1956年のデビュー作品展「人間の土地」(鹿児島県桜島の「火の山の麓」と長崎県端島の「緑なき島」の二部構成)を踏襲しているが、囲い込まれた空間における人間の生の極限状況を提示するという観念的な枠組みはより強化され、ぴんと張りつめた緊張感を孕んだ画像が強い印象を与える。1962~65年のヨーロッパ滞在以降に、豊穣に花開いていく奈良原の写真の基盤は、この作品によって確立したといってよいだろう。
「王国」は雑誌発表や展覧会、さらに写真集として刊行されるたびに、微妙に姿を変えていったシリーズである。今回の東京国立近代美術館の展示は、2012年にニコンから寄贈された87点のセットによるものであり、それは1978年刊行の写真集『王国─沈黙の園・壁の中』(朝日ソノラマ)の構成を、ほぼそのまま再現したものだという。大、中、小の3種類のプリントを配置した展示空間は、実に緊密に練り上げられており、今なおみずみずしい鮮度を保っている。企業が所持していた写真作品が、美術館のコレクションとしてよみがえるという例は、これまであまりなかったのではないだろうか。今回の展覧会は、そのいいモデルケースになると思う。

2014/12/09(火)(飯沢耕太郎)

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