2019年11月01日号
次回11月15日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

PGI Summer Show 2019 “monoとtone”

会期:2019/07/10~2019/08/24

PGI[東京都]

PGIではほぼ毎年、夏のこの時期に若手写真家たちのグループ展を開催してきた。今年は小島康敬、嶋田篤人、田山湖雪、西岡広聡、平本成海の5人が、それぞれのモノクローム作品を発表している。たしかに、デジタル化が完全に行きわたった現在でも、銀塩プリントのモノクローム写真にこだわる写真家は意外に多い。デジタルカメラ、デジタルプリンタを使っていても、あえてモノクロームで出力することもある。それだけの根強い魅力があるということだろう。

今回発表された5人の作品を見ると、やはり白から黒までの精妙で豊かなトーンコントロールができるという点が大きいのではないだろうか。カラープリントだと、どうしても作家の思惑を超えたノイズが写り込んでくるが、モノクロームなら画面の隅々にまで意識を働かせることができるからだ。ベルリンの都市風景を切り取る小島、風景を断片化して再構築する嶋田、祭りなど日常と非日常の境界に目を向ける田山、夜の建物の微妙な気配を探索する西岡、謎めいたパフォーマンスを披露する平本と、作風の幅はかなり広いが、画面を破綻なく構築していく能力の高さは共通していた。

逆にいえば、小さくまとまってしまいがちだということで、今回の展示に関しても、思考と実践のダイナミズムを感じる作品はほとんどなかった。作品としてのまとまりやクオリティを追求するだけではまだ物足らない。なぜモノクロームなのかという問いかけが、あらためて必要になってきそうだ。グループ展なので、各自に割り当てられたスペースが小さかったということは割り引いても、「暴れる」写真をもっと見たかった。モノクロームでも、それは充分に可能なはずだ。

2019/07/10(水)(飯沢耕太郎)

佐藤信太郎 写真展「Geography」

会期:2019/06/25~2019/07/13

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

佐藤信太郎が今年2月〜4月にPGIで開催した個展「The Origin of Tokyo」に出品されていた6点組の「Geography」を見たとき、とても面白い可能性を秘めた作品だと感じた。佐藤自身も同じような思いを抱いていたようで、あまり間をおかずにコミュニケーションギャラリーふげん社での個展が決まり、同名の写真集も刊行された。

佐藤が大判の8×10判のカメラを使って1992年に撮影したのは、「東京湾岸の埋立て地にある舗装していない巨大な空き地」である。その鉱物質の地表を、「平面をそのまま平面的に撮る」というコンセプトで撮影したのが本作で、今回の展示ではそれらを125×100センチに大伸しして展示している。この大きさだと、佐藤が本作で何を目指していたのかがよく見えてくる。彼はその後、代表作となる『非常階段東京 TOKYO TWILIGHT ZONE』(青幻舎、2008)の写真を撮り進めていくのだが、「Geography」は、東京という都市を多面的に浮かび上がらせていく彼の撮影行為の原点であり、そのスタートラインを引く試みだったのだ。だがそれだけではなく、一見素っ気ない佇まいの画像には、実に豊穣な視覚的情報が含まれていることを、今回展示を見てあらためて確認することができた。細かな隆起、ひび、裂け目、染みなど、写真で撮影すること以外では捉えることのできない、無尽蔵の物質の小宇宙がそこにはある。

町口覚の造本設計による写真集『Geography』(ふげん社)の出来栄えも素晴らしい。6点の写真の画面の一部をさらにクローズアップした画像、2点を並置するという工夫が凝らされている。

2019/07/03(水)(飯沢耕太郎)

藤原更「Melting Petals」

会期:2019/06/14~2019/07/13

EMON PHOTO GALLERY[東京都]

名古屋在住の藤原更は、これまでEMON PHOTO GALLERYで個展を2回開催してきた。「Neuma」(2012)では蓮を、「La vie en rose」(2015)では薔薇を題材とした作品を発表してきたが、今回は芥子の花を撮影している。個展のために滞在していたパリで、彫刻家の夫婦に「秘密の花園」に誘われたことが、本作「Melting Petals」制作のきっかけになった。手招きをしているように風に揺らぐ赤い花を見て、「花に促されるままにドアをあけ、踏み出した」のだという。

前作もそうなのだが、藤原は花をストレートに提示するのではなく、プリントに際して操作を加えている。今回は、ピグメントプリントの表面を剥離させ、紙やキャンバス地に画像を転写した。そのことにともなう、予測のつかない画像の色味やフォルムの変化を取り込んでいるところに、彼女の作品の特徴がある。しかも、最大約1.5m×1mの大きさに引き伸ばされることで、真っ赤な芥子の花は空中を浮遊する奇妙な生き物のように見えてくる。花々に内在する生命力を解き放つためにおこなわれるそのような操作は、ともすれば装飾的で小手先のものになりがちだ。だが藤原の場合、撮影の段階から最終的なプリントのイメージを明確に持っているので、画像の加工に必然性と説得力を感じる。

これで「花」のシリーズが3作品揃ったので、そろそろまとめて見る機会がほしい。より規模の大きな展覧会か、作品集の刊行を考えてもよいのではないか。

2019/06/29(土)(飯沢耕太郎)

梶井照陰「DIVE TO BANGLADESH」

会期:2019/06/14~2019/08/04

Kanzan Gallery[東京都]

「DIVE TO BANGLADESH」というタイトルは、とても的確に写真展の内容を伝えている。梶井照陰は、2013年にダッカ郊外シャバール地区の縫製工場(ラナプラザ)で起きた大規模崩落事故の取材をきっかけにして、バングラデシュの現実に「飛び込んで」いった。

そこは、想像を超えた混沌と矛盾に満ちた場所だった。ラナプラザは世界中の有名アパレル・ブランドの下請工場だったのだが、そこで働く若者たちは、スラム街で、経済的にはぎりぎりの暮らしを強いられている。梶井は駅の構内や路上で暮らす人々、ヒジュラ(トランスジェンダー)のコミュニティ、炭坑夫などにもカメラを向け、彼らが生きる場所へと降りていこうとした。まずは先入観抜きで撮影し、写真を通じて認識を深め、誠実に彼らと関係を作り上げていこうとする梶井の姿勢は一貫しており、現代の日本人にとっては遠い世界であるはずのバングラデシュの現実が、強い手触り感を保って伝わってきた。

梶井は真言宗の僧侶として佐渡島に暮らしながら、2007年から全国各地の限界集落を撮影して写真集『限界集落──Marginal Village』(フォイル、2008)を刊行し、中国のハルビンも長期取材して『HARBIN 2009-2012』(フォイル、2012)にまとめている。そのような点と点をつないでいくような写真家としての活動が、今や面としての広がりと厚みを持ち始めている。異色のドキュメンタリー写真家として、ユニークな視点を確立しつつある彼の、今後の仕事にも注目していきたい。なお、展覧会にあわせてリトルモアから同名の写真集が刊行されている。

2019/06/27(木)(飯沢耕太郎)

矢作隆一展 Boundary──目には見えない境界線──

会期:2019/06/17~2019/06/29

巷房[東京都]

メキシコ・ベラクルス大学で教鞭を執りながら、石彫を中心に作家活動を展開している矢作隆一は、東日本大震災以降に福島県浪江町、富岡町を訪れて作品を制作するようになった。今回、東京・銀座の巷房の、3階および地下の3つのスペースで展示された作品も、震災と、それにともなって発生した福島第一原子力発電所の大事故が中心的なテーマになっている。

3階の巷房・1には、2018年3月11日に発行された『福島民報』と『福島民友新聞』の新聞紙を折って作った、5000個の小さな舟がインスタレーションとして展示されていた。壁には富岡町で撮影した復興後の新造住宅と、浪江町の人影のない商店街の写真が掲げられている。地下の階段下のスペースには、やはり3月11日の『福島民報』で作った折り鶴を鳥籠に入れたインスタレーションが、巷房・2には「浪江町中浜から双葉海水浴場を臨む」とキャプションに記された写真(遠くに小さく福島第一原子力発電所が写っている)と、彼のトレードマークともいえる「模石」のシリーズが並ぶ。「模石」というのは、拾ってきた石とそっくりに模倣した石を彫り上げるもので、今回は、日本全国17カ所の原子力発電所の周辺の石を、メキシコで唯一の原子力発電所であるラグナベルデ原子力発電所近くで拾った石で「模石」していた。

矢作の制作意図は、どの作品でも的確かつ明確であり、技術的な完成度も高い。特に注目したのは写真の活かし方で、特定の時間、場所を定着した画像が、インスタレーションと組み合わされることで、より普遍的な意味を持つものとなっていた。東日本大震災をテーマにした作品制作は今後も続いていくが、「模石」のシリーズには、さらに広がりのある歴史的、地理的な要素を加えていく予定だという。今後の展開が楽しみだ。

2019/06/23(日)(飯沢耕太郎)

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