2024年03月01日号
次回3月18日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

今村源 遅れるものの行方展

会期:2023/11/03~2024/01/28

水戸芸術館現代美術ギャラリー[茨城県]

今村源の作品には以前から注目している。筆者はきのこ(菌類)に強い関心を抱いているので、現代美術のフィールドで同様の志向をもつ彼の仕事がいつも気になるからだ。静岡市美術館での「わた死としてのキノコ」(2013年8月~10月)以来、美術館での個展としては10年ぶりという今回の水戸芸術館現代美術ギャラリーの展示でも、まさに「きのこ的」としか言いようのない作品が並んでいた。

だが、立体作品のインスタレーションだけではなくドローイングも含む55点の作品を見ると、きのこの形象がはっきりとあらわれているものも多いが、むしろ彼の作品のライトモチーフとなっているのが菌糸であることがわかる。実は菌類の本体は細長い細胞が連なった菌糸であり、きのこ(子実体)は植物でいえば花や果実にあたる生殖器官である。菌糸は普段は人の目に触れることなく、地下に生と死の両方の領域にまたがる巨大なネットワークを形成し、生きものたちの活動にさまざまな作用を及ぼしている。今村の作品は、そのような不可視の世界のあり方を、日常的な事物を紐や針金のような構造体で結びつけ、つなぎ合わせることで浮かび上がらせようとする試みなのではないかと思う。

共感とほのかなユーモアとが絶妙にブレンドされた彼の作品世界はとても魅力的だ。今回の展示では、まさに菌糸の先端の感触を繊細に定着したようなドローイング作品が特に印象深かった。今村は言葉を綴る能力も高いので、「絵本」のような形で彼のドローイングと文章を合体させるのもいいのではないだろうか。


今村源 遅れるものの行方展:https://www.arttowermito.or.jp/gallery/lineup/article_5251.html

2023/11/21(火)(飯沢耕太郎)

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尾仲浩二「10 Days 釜山 1996年」

会期:2023/11/11~2023/11/19(土日のみ)

Gallery街道[東京都]

尾仲浩二は1996年5月に韓国・釜山に出かけた。前年にふとしたきっかけで釜山からきた観光客と知り合い、「釜山に行きたくなった」ということだったようだ。知り合いの写真家を頼ってフェリーで釜山に渡り、10日間あまりを当地で過ごす。そのあいだに撮影したモノクローム写真は、『アサヒカメラ』(1996年10月号)に発表されるが、カラーポジ・フィルムで撮影した写真は未発表のままだった。本年9月に本シリーズの展覧会が釜山のギャラリーで開催され、同名の写真集も刊行された。本展(11月28日~12月10日に大阪のギャラリー・ソラリスに巡回)は、その日本でのお披露目の展示ということになる。

旅での出来事を記した日記の文章を読みながら、会場に並んでいる写真を見ていると、四半世紀前の時空間の手触りが、確かなリアリティをともなってよみがえってくる。尾仲は過度に主観的な見方に偏ることなく、目の前に生起してくる事象を淡々と写しとっていく。そのことによって、ごく私的なものだったはずの旅の経験が、観客一人ひとりの記憶と重なり合い、共振するような普遍性を帯び始める。そのあたりの撮影の呼吸と、被写体との距離感の設定は絶妙としか言いようがない。「旅の写真家」として1980年代以来積み上げられてきた尾仲の写真は、なかなか真似のできない領域に達しつつあるのではないだろうか。カラー写真が加わることで、時空を超えて、より生々しい現在性が強まってきているように感じられるのも興味深かった。


尾仲浩二「10 Days 釜山 1996年」:https://kaidobooks.jimdofree.com/exhibition/2023/onaka11/

2023/11/19(日)(飯沢耕太郎)

New Old School 2─写真は写真─

会期:2023/11/17~2023/11/26

アクシスギャラリー[東京都]

「New Old School」展は、日本大学芸術学部写真学科で、三好耕三に学んだ卒業生有志による展覧会である。2018年に東京・原宿のVACANTで第一回展を開催したのだが、その後コロナ禍などで開催が延期され、ようやくその第二回展が開催できることになった。今回参加したのは、Uta Akane、及川天平、楠優、酒巻祐花、佐藤悠、蔡嘉辰、高橋春織,崔原豪、西村満、堀野浩司、山路雅央、そして三好耕三の12名だった。それぞれの作品を収めた、すっきりとしたデザインのカタログも刊行されている(編集:小倉快子・中森真、装丁:城井文平)。

銀塩・フィルム写真、大判カメラにこだわり続けてきた三好の教え子たちにふさわしく、中判以上のカメラを使った緻密な描写、しっかりとした画面構成の作品が多い。前回の展示のテーマは「デジタル写真は、写真ではない」というやや過激なものだった。だが、今回は「写真は写真」というシンプルなものになったこともあって、被写体の幅が広がり、写真制作のスタイルもフレキシブルなものになってきている。銀塩写真での制作が、出品の条件になっていることは変わりないが、「デジタルか、アナログか」という二者択一に収束するのではない表現の模索が、かたちをとり始めているようだ。

出品者のなかでは、留学生として写真学科に在籍していた蔡嘉辰(中国出身)、崔原豪(韓国出身)の作品に注目した。二人とも細やかな目配りを感じさせるカラー写真で、被写体との微妙な距離感を測りながらシャッターを切っている。大学卒業後、ドイツに滞在していたという西村満の作品は、鋭さと包容力を併せ持った被写体の把握の仕方に特徴がある。ほかの出品者たちにも、自分のスタイルが定まりつつある者が多い。約3年に一度のペースで開催する予定とのことなので、次回の展示を楽しみにしたい。


New Old School 2─写真は写真─:http://darkroom.jp/about/

2023/11/18(土)(飯沢耕太郎)

殿村任香「ゼィコードゥミーユカリ」

会期:2023/10/27~2023/11/18

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

殿村任香(とのむら・ひでか)が2013年にZEN FOTO GALLERYで写真展を開催し、同名の写真集を刊行した『ゼィコードゥミーユカリ』はとても印象深い写真シリーズである。新宿・歌舞伎町で、「ユカリ」と名乗ってホステスとして働いていた時期の写真をまとめたものだが、周囲の人間模様を直裁に、だが共感を込めて写しとった写真群に圧倒させられた。

それから10年を経て、写真集が新装版として再発行されることを期して開催された本展では、同シリーズがどのように変わっているのかを楽しみにしていた。だが、何点か未発表作は加わっていたものの、展示も写真集も以前の構成をほぼそのまま踏襲するものだった。とはいえ、この10年のあいだにはコロナ禍があり、また殿村自身も子宮頸がんによる闘病を経験するなど、彼女を取り巻く環境は大きく変化している。そのこともあって、以前とは写真の見え方がやや違ってきているように感じた。全25点(うちモノクロ写真が9点)の展示では、やや辛辣な視点に見えかねない、同僚のホステスやお客の写真が外されていた。そのこともあって、社会的な事象性よりも個人的な経験がより強調されている。それでも、歌舞伎町という「欲望の掃き溜め」というべき街を、内側から照らし出した写真群は、身を切るようなリアリティを保ち続けていた。

このシリーズには、まだまだ埋蔵量がありそうな気がする。未発表作をさらに増やした増補版の展示、写真集をぜひ見てみたい。


殿村任香 「ゼィコードゥミーユカリ」:https://zen-foto.jp/jp/exhibition/hideka-tonomura-exhibition-celebrating-the-publication-of-%E2%80%9Cthey-called-me-yukari%E2%80%9D

関連レビュー

殿村任香「ゼィコードゥミーユカリ/母恋ハハ・ラブ」|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2013年09月15日号)

2023/11/18(土)(飯沢耕太郎)

公文健太郎「地の肖像」

会期:2023/11/02~2023/11/26

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

1981年生まれの公文健太郎は、いまもっとも精力的に展覧会や写真集刊行の活動を続けている写真家の一人である。2012年に写真エッセイ集『ゴマの洋品店』ほかの仕事で日本写真協会賞新人賞を受賞。以後、農業を中心とした日本の第一次産業にテーマを定め、風土と人の暮らしとの関わりを丹念に取材した写真シリーズを発表してきた。『耕す人』(2016)、『暦川』(2019)、『光の地形』(2020)、『NEMURUSHIMA』(2022)など、近年は写真集の刊行も相次いでいる。

とはいえ、これまでは彼が写真を通じて何を語ろうとしているのか、その狙いがやや拡散していて、うまく読みとれないところがあった。だが、今回のコミュニケーションギャラリーふげん社での個展では、日本の第一次産業における人と自然環境との関わりのあり方が、どのように変わりつつあるのかに焦点を絞ったことで、彼の写真の方向性がより明確にあらわれてきていた。「自然と人間」「人工の自然」「自然と齟齬」という三部構成の展示から見えてくるのは、野菜のビニールハウスやアユの養殖生産など、第一次産業の現場において自然を徹底して管理し、コントロールしていこうとする営みが大規模に進められつつあるという現状である。

公文はそのことをとりたてて否定的に捉えようとしているわけではない。だがそこから、自然と人間の営みとの危ういバランスがいまや破綻しかけているという状況が、くっきりと浮かびあがってきていた。それはむろん、日本国内にとどまることのない、よりグローバルな広がりを持つテーマでもあるだろう。さらなる展開が期待できる写真展だった。


公文健太郎「地の肖像」:https://fugensha.jp/events/231102kumon/

関連レビュー

公文健太郎『NEMURUSHIMA』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2022年09月15日号)
公文健太郎『光の地形』|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2021年02月01日号)

2023/11/17(金)(飯沢耕太郎)

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