2021年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

元田敬三「渚橋からグッドモーニング」

会期:2020/09/10~2020/10/04

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

元田敬三は2017年7月16日から、コンパクトカメラにカラー・ポジフィルムを詰め、逗子の自宅の周辺を撮影し始めた。写真は日々、彼の行動範囲に沿って撮り続けられ、家族、長年講師を勤めている写真学校、旅の途中の光景、たまたま出会った写真家たち(倉田精二、橋口譲二、石内都など)へも撮影対象を広げていった。日付を写し込めるコンパクトカメラを使っているので、まさに「写真日記」といってよいだろう。ちなみにタイトルの「渚橋」というのは、家の近くの防波堤近くの橋で、毎朝の散歩の途中に、そこで海辺の風景に向けて「グッドモーニング」と挨拶するのだそうだ。

元田といえば、路上で出会ったテンションの高い人物たちを、中判カメラで撮影し、モノクロームでプリントしたストリート・スナップ写真で知られている。それらの仕事と今回の「写真日記」とはまったく異質のものかといえば、そうではなく、根のところでつながっているのではないかと思う。今回の「渚橋からグッドモーニング」は、ストリート・スナップではあえて切り落としていた、写真のフレームの外にとめどなく広がっていく世界をできる限り取り込み、彼の生とリンクさせていく試みといえる。50代になり、写真家として一皮むけたことで、いわば全方位的な写真の世界を展開できるようになったということだろう。

むろん、今回の展示は中間報告というべきもので、このシリーズはさらに続いていくはずだ。その発表の形も、ただプリントを並べるだけではなく、もっと違ったものになっていくのではないかと思う。9月19日にふげん社で開催したギャラリートーク(聞き手、飯沢耕太郎)では、2020年に撮影した写真を、スライド映写機で上映して見せていた。時間の配分や写真の選択はまだ未完成だったが、スライドショーというのも大いに可能性がありそうだ。

2020/09/19(土)(飯沢耕太郎)

十文字美信「藤崎」

会期:2020/08/28~2020/10/24

SUPER LABO STORE TOKYO[東京都]

鎌倉に本拠を置くSUPER LABOは、森山大道、尾仲浩二、アントワン・ダガタなど、ユニークなラインナップの写真集を刊行し続けている出版社である。2019年3月から、東京・神保町に写真集販売+展示のスペースを設け、写真集出版にあわせて展覧会を開催するようになった。今回の展示も、十文字美信の写真集『藤崎』の関連企画として開催された。

『藤崎』は、十文字が本格的に写真家デビューする前の1967~68年に撮影された、文字通りのスタートラインというべき写真群である。藤崎は、十文字が卒業した神奈川県立神奈川工業高校の1年後輩で、サルトルやハイデッガーを読み、細身のジーンズに革ジャンで決め、バイクを乗り回す早熟な少年だった。十文字は彼と親しくなり、ジャズ喫茶に入り浸る濃密な日々を過ごす。『藤崎』の撮影は、その中で自然発生的にスタートしたセッションであり、笑い、叫び、「夢の島」でチョッパー型に改造した50ccのバイクで疾走する藤崎のしなやかな身のこなしを、動感溢れるカメラワークで捉えている。

処女作には、その作家のその後の可能性が、すべて含み込まれているとよく言われるが、どうやら『藤崎』についてはそうとも言えないところがある。十文字の真骨頂は、「写真とは何か」を恐るべき集中力で問い詰め、ぎりぎりまでコンセプトを練り上げて撮影する作品といえるだろう。初期の代表作「首なし」の連作(1971)では、夢の中に現れ、夜毎彼を恐怖に陥らせた不気味な「男」のイメージを追い求め、全身像からカメラを下に向けて、首から上をカットするという手法を編み出して撮影した。だが、『藤崎』では、そのようなコンセプトが形をとる前の、未分化な衝動が、そのままストレートに投げ出されている。いま『藤崎』をまとめ直すことで、十文字は、もう一度「写真家以前」の自分を取り戻そうともくろんでいるのではないだろうか。70歳を超えた写真家のチャレンジは、まだ続いているということだ。

2020/09/18(金)(飯沢耕太郎)

清水哲朗「トウキョウカラス」

会期:2020/09/01~2020/09/27

JCIIフォトサロン[東京都]

1975年、横浜市生まれの清水哲朗は、2005年に「路上少年」で第一回名取洋之助写真賞を受賞し、2016年には、近代化が進むモンゴルの状況を捉えた写真集『New Type』(日本カメラ社)を刊行するなど、このところ注目を集めているドキュメンタリー写真家である。本作「トウキョウカラス」は、その彼の「幻のデビュー作」になる。

日本写真芸術専門学校を卒業して、竹内敏信の助手を務めていた1995年から、清水は東京の渋谷や銀座に群れ集うハシブトガラスを撮り始めた。都会にねぐらを作り、餌を採り、家族で子育てをするカラスたちの「カッコイイ、理想の生きかた」に憧れたのが動機だったという。当時、3万羽と言われた東京のカラスは、その禍々しい見かけと、ゴミを漁って食い散らかしたり、人を襲ったりすることで忌み嫌われ、「捕獲作戦」が展開されていた。だが、やはり清水が当時追いかけていたネズミと同様に、カラスのような人間と共存する生き物のあり方は、都市における自然環境について考えるいい指標になる。清水のアプローチは、動物写真家たちの生態写真とも、深瀬昌久の『烏』のような自己表現とも異なる、まさにドキュメンタリー写真的というべきユニークなものになっていた。残念なことに、8年間にわたって続けられ、35ミリフィルム235本、中判フィルム11本に達したというこの労作は、なかなか発表の場に恵まれなかった。今回のJCIIフォトサロンでの展示で、ようやく陽の目を見ることになったのは、とてもよかったと思う。

2019年6月に銀座ニコンサロンで開催された原啓義の個展「そこに生きる」では、銀座を徘徊するネズミたちにスポットが当てられていた。今回の清水の作品も含めて、「都会の動物たち」の写真展や写真集の企画も成り立つのではないだろうか。

2020/09/18(金)(飯沢耕太郎)

立木義浩「Afternoon in Paris / 昼下がりのパリ」

会期:2020/08/26~2020/09/19

Kiyoyuki Kuwabara AG[東京都]

立木義浩(1937-)は、いうまでもなく1960年代以来、広告、ファッション、ポートレート、ドキュメントなど、さまざまなジャンルの第一線で活動してきた写真家である。一方で、彼は仕事ではない普段着の写真というべき街のスナップショットもずっと撮り続けてきた。このところ、まるで古い日記帳を開くように、そんな写真群を発表する機会が多くなってきている。東京都中央区東神田(馬喰町)のKiyoyuki Kuwabara AGでの今回の個展でも、1966年以来何度となく訪れたというパリで、折に触れて撮影したモノクローム写真22点(ほかにカラー写真のヌードが1点)を出品していた。

未発表作品を含むモノクローム写真は、すべて6×6判のフォーマットで撮影されている。セーヌ川、公園、彫刻家のアトリエ、ショーウィンドウなど、写っているのは、いわゆる「パリ写真」の典型とでもいうべき光景である。だが、被写体を堅苦しくなく、あまり構えずに画面におさめていく手つきに、長年の練達の技が発揮されている。好奇心と批評性との見事な融合というべき写真群を見ていると、まさに「昼下がりのパリ」の空気感が、写真から染み透ってくるように感じる。馬喰町の古いビルの一室にある、会計事務所を兼ねたギャラリーの雰囲気と、写真から発するトーンとが、とてもうまく溶け合っていた。

Kiyoyuki Kuwabara AGの近くには、Kanzan Gallery、Roonee 247 Fine Artsなど、他にもいくつか写真作品をよく扱うギャラリーがある。馬喰町周辺の写真展は、これから先も期待できそうだ。

2020/09/17(木)(飯沢耕太郎)

小西拓良「笹舟」

会期:2020/09/11~2020/09/24

富士フイルムフォトサロン東京 スペース3[東京都]

現代日本写真におけるスナップ写真の可能性を探るという意図のもとに、有元伸也、ERIC、大西正、大西みつぐ、オカダキサラ、尾仲浩二、中野正貴、中藤毅彦、ハービー・山口、原美樹子、元田敬三の11名が参加した企画展「平成・東京・スナップLOVE」(FUJI FILM SQUARE、2019年6月~7月)は、なかなか面白い展覧会だった。その関連企画として、各写真家によるポートフォリオレビューも開催され、ファイナリストに選出された写真家たちの個展が、1年後に富士フイルムフォトサロン東京 スペース3で開催されることになった。小西拓良の「笹舟」(中藤毅彦選)も、その「ポートフォリオレビュー/ファイナル・セレクション展」の枠で開催されている。

小西の前には、山端拓哉のちょっと脱力感があるロシア紀行「ロシア語日記」(尾仲浩二選、8月28日~9月10日)が展示されていた。山端の作品もなかなか味わい深かったが、小西も独自の写真観を持ついい写真家である。奥さんとの日常を、モノクローム写真で淡々と綴った作品だが、33点の写真の選択、配置が実に的確で、観客を安らぎと不安とが交錯する世界へと引き込んでいく。何といっても、痩身だが強い存在感を放つ奥さんに被写体としての魅力がある。だがそれだけでなく、セミの遺骸、フライパンの目玉焼き、カーテンの隙間から覗く外の風景など、些細だが印象深い光景をしっかりと拾っている。さらに続けていけば、よりふくらみと深さを持つシリーズに成長していくのではないだろうか。

この「ポートフォリオレビュー/ファイナル・セレクション展」の企画では、東京で展示された山端と小西のほかに、富士フイルムフォトサロン大阪で、阪東美音「メロウ」(元田敬三選、10月2日~15日)、前川朋子「涯ての灯火」(大西みつぐ選、同)が開催される。だが残念なことに、東京での展示は大阪で、大阪の展示は東京では見ることができない。この企画が今後も続くなら、ぜひ東京と大阪の両方での展示を実現してほしい。

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FUJIFILM SQUARE 企画写真展 11人の写真家の物語。新たな時代、令和へ 「平成・東京・スナップLOVE」 Heisei - Tokyo - Snap Shot Love|飯沢耕太郎:artscapeレビュー(2019年07月01日号)

2020/09/16(水)(飯沢耕太郎)

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