2021年04月01日号
次回4月15日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

本山周平「日本2010-2020」

会期:2021/01/09~2021/01/24

ギャラリー蒼穹舎[東京都]

本展のDMに使われ、同時に刊行された写真集『日本・NIPPON 2010-2020 』(蒼穹舎)にもおさめられた写真を見たとき、かなり強い驚きがあった。湖面に影を落とす富士山、突堤の根元のあたりにたたずむ人物を、やや引き気味に撮影した写真の構図、明暗、空気感が、日本に写真が渡来した幕末・明治初期に撮影された湿板写真のそれと、まったくそっくりなことに気づいたからだ。あらためて確認してみると、写真展に展示され、写真集に収録された写真の多くから同じ印象を受ける。これは明らかに意図的というべきだろう。

本山周平は、2010年にも同タイトルの写真集を刊行している。その後、2016年には『NIPPON2003-2013』と題するカラー写真の写真集を刊行した。これらと今回の『日本・NIPPON 2010-2020』を比較すると、引き気味で画面のどこかに人物を配した写真が確実に増えてきているのがわかる。本山はどこかで、彼自身が風景を見る眼差しのあり方が、日本の写真家たちが幕末・明治初期以来育てあげてきた美意識と共振することに気づいたのではないだろうか。そのことが、今回の展示の出品作品の選択にもしっかりと反映されていた。別な見方をすれば、19世紀から20世紀を経て21世紀へと至ったにもかかわらず、日本の風景、あるいは日本人が風景を見る視線の基本的な構造は変わっていないということになる。本山の写真によって、あらためてそのことを確認することができた。

本山の写真家デビューは1990年代だが、その頃の現実世界に荒々しく挑みかかるようなスナップショットのスタイルは、もはや遠いものになってしまった。今回の展示作品のクオリティの高さは特筆すべきだが、逆にかつてのダイナミックな写真のあり方を取り戻すことはできないのだろうかとも思ってしまう。

2021/01/15(金)(飯沢耕太郎)

佐藤岳彦「裸足の蛇」

会期:2021/01/07~2021/01/18

オリンパスギャラリー東京[東京都]

1983年、宮城県生まれの佐藤岳彦は、2018年に日本写真協会賞新人賞を受賞するなど、このところ注目を集めている若手写真家である。2018年に刊行した写真集『密怪生命』(講談社)では、生と死の境界領域に潜む生きものたちの姿を鮮烈な画像で捉え、自然写真の新たな方向性を開示した。今回、オリンパスギャラリー東京で開催された個展「裸足の蛇」でも、壁面全体を使って250点余りのプリントを貼り巡らすという、意欲的な展示を試みている。

展示内容は、日本、アジア、南米などで「蛇となって森羅を這いまわり、裸足の邂逅をかさねた15年」の成果をアトランダムに展開するものだ。写真撮影を通じて、「わたしの内に生命をみつめる」という旅の記録といってもよいだろう。生命現象の不可思議さが伝わってくる密度の濃い展示だったが、それほど広くない会場のスペースの問題もあって、インスタレーションが成功していたかどうかは疑問が残る。「目」のイメージを中心に、「見ることと見られること」を問い直すパート、粘菌の格子状のパターンのイメージを中心に組んだパート、乱舞する蝶たちを連続的に撮影した写真をモザイク的に展示したパートなど、部分的には興味深いのだが、全体としてはややまとまりを欠いていた。1点1点の写真が互いに相殺してしまって、むしろ均質な展示に見えてしまう。また、写真だけでは方向性がつかみにくいので、もう少し言葉によるメッセージを加えてもよかったのではないかと思う。

大きな可能性を持つ作家なので、もっと大きな会場で、違ったパッケージの展示を見てみたい。文章能力の高さを活かして、言葉の比率を高めた展覧会や写真集も考えられそうだ。

2021/01/09(土)(飯沢耕太郎)

今井壽恵の世界:第二期「生命(いのち)の輝き–名馬を追って」

会期:2021/01/07~2021/01/31

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

連続写真展「今井壽惠の世界」の第二期として、コミュニケーションギャラリーふげん社で開催された「生命(いのち)の輝き–名馬を追って」展は、第一期の「初期前衛作品『魂の詩1956–1974』」とはまた違った面白さがある好企画だった。第一期では、今井が写真家として認められるきっかけになった、「心象風景」をさまざまな手法で展開した作品が並んでいたが、第二期では1962年に交通事故で重傷を負った以後に撮影し始めた写真群が「名馬の肖像」、「ガラス絵の牧場」の2部構成で展示されている。

馬たちを撮影した写真では、「フォトポエム」と称された初期作品の実験的、前衛的な表現は抑制され、被写体をストレートに撮影したドキュメンタリーとしての要素が強まってきている。とはいえ、ジェネシス、トウカイテイオー、オグリキャップなどを撮影した「名馬の肖像」のパートと比較すると、展示の後半部の「ガラス絵の牧場」のパートの作品には、彼女の写真の表現のあり方がより明確にあらわれているように感じた。そこに登場してくる草原を疾走し、雪の中で戯れ、夕陽にシルエットで浮かび上がる馬たちは、固有名詞化された競走馬ではなく、むしろ生命力そのものの象徴として捉えられている。「たそがれて」(1978)のように、空に馬たちの姿をモンタージュで合成した初期作品に通じる作品もあり、今井自身の「魂」に直接響き合うイメージが見事に形をとっていた。

これまでは今井の「初期前衛作品」と後期の馬たちの写真は、対比的に見られることが多かった。だが、それらを「生命の輝き」、「魂の詩」を体現した作品群として、一体化して捉える視点も必要になるのではないだろうか。

2021/01/08(金)(飯沢耕太郎)

伊奈英次「残滓の結晶CRYSTAL OF DEBRIS」

会期:2020/12/17~2021/02/03

キヤノンギャラリーS[東京都]

2020年の写真展の掉尾を飾る意欲作である。1984年に、8×10インチ判の大判カメラを使って東京の風景を緻密な画像で定着した「In Tokyo」を発表して以来、伊奈英次の関心は都市という多面的な構造体をどのように写真化するかに向けられてきた。今回の「残滓の結晶CRYSTAL OF DEBRIS」では、それがひとつの臨界点に達しつつあるように見える。

伊奈は画像合成ソフトを使うときに出現する画像の欠陥(バグ)を意図的に利用して、ヴァーチュアルな都市空間を立ち上げることをもくろんだ。そのプロセスの要約は以下の通りである。「バグのコピーを繰り返すと、ある単純な反復画像が出現し、その反復画像を元の画像と再び合成することで、また新たな差異をともなったバグ画像があらわれる。その作業を繰り返すと単純な反復画像に回帰していく。再帰性のジレンマを回避するため、遊びや気まぐれといった恣意性をともなうコピーを重ねた果てに、この作品は完成する」。

このような偶発性と必然性を共存させたプロセスを経てでき上がった作品群は、まさに「結晶」という言葉にふさわしい、硬質な輝きを放つ画像の集積となった。元の画像は羽田空港、東京スカイツリー、六本木サウスタワー、品川インターシティといった、ある意味、よく見慣れたランドマークなのだが、それらの風景が元々孕んでいた内発的な崩壊感覚が、解き放たれて出現してきているようにも感じる。まさにデジタル時代の「In Tokyo」の試みともいえそうだ。普段は黒い壁面に、白い皮膜をかぶせて大画面の作品を並べた展示(会場構成・鵜澤淑人)もうまくいっていた。だが、フレームに入れて白枠をつけた写真作品は、ややタブロー的で、おさまりがよすぎるようにも見える。さらに徹底して、壁面全体(床や天井も含めて)に画像が増殖するようなインスタレーションもあり得たのではないだろうか。

2020/12/25(金)(飯沢耕太郎)

トヨダヒトシ映像日記/スライドショー

会期:2020/12/19、25、26

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

トヨダヒトシはニューヨークに在住していた1993年から、駐車場や公園、教会、劇場などのパブリック・スペースで、スライドショーの形で自作の写真を上映し始めた。もはや旧式になってしまったスライド・プロジェクターを使って、一枚ずつポジフィルムを手動で送りながら上映していく。途中に言葉(字幕)が映し出されることはあるが、基本的には写真が淡々と壁に映写されるだけだ。音楽等の音響も一切使わないので、観客は沈黙のまま画像を見続けるしかない。

トヨダはそのやり方を続けて、1990年代後半からは日本の美術館やギャラリーでもスライドショーを開催するようになった。時には廃校になった小学校の校庭などで、野外上映を行なうこともある。今回のふげん社のイベントで上映されるのは、1999年に初公開されたスライドショーの第一作の「An Elephant’s Tail─ゾウノシッポ」(12月19日)、2004年の「NAZUNA」(12月25日)、2007年の「spoonfulriver」(12月26日)の3作品である。そのうち、19日の「An Elephant’s Tail─ゾウノシッポ」の回を見ることができた。

実は3作品とも前に見たことがある。とはいえ、かなり前のことなので、その細部はほとんど覚えていない。そこにスライドショーという表現の面白さもあって、見るたびに新たな発見があるし、上映環境の違いによってかなり異なった印象を受けることにもなる。今回もそのことを強く感じた。 トヨダのスライドショーは自分自身の体験を綴った「映像日記」であり、「An Elephant’s Tail─ゾウノシッポ」では、1992-97年ごろの彼の身の回りの出来事が3部構成(約35分)で映し出される。窓からの眺め、迷い込んで来た猫、一緒に暮らしていた女性、エンパイア・ステイト・ビルの最上階での記念写真撮影のアルバイト──その合間に植物は育ち、花が開いては枯れ、狩人蜂は互いに殺し合い、夏から冬へ、また夏へと季節は巡る。その、見方によっては退屈極まりない日常の眺めが、瞬いては消えていくスライドの映像として再現されると、切々とした、不思議な輝きを帯びて見えてくる。トヨダのスライドショーの視覚体験には、魔法のような力が備わっていることを、あらためて確認することができた。

2020/12/19(土)(飯沢耕太郎)

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