2021年01月15日号
次回2月1日更新予定

artscapeレビュー

飯沢耕太郎のレビュー/プレビュー

TOPコレクション 琉球弧の写真

会期:2020/09/29~2020/11/23

東京都写真美術館3階展示室[東京都]

沖縄本島とその周辺の島々、すなわち琉球弧は日本の写真表現の場としてかなり特異な位置を占めている。琉球王国と日本との複雑で多くの問題を孕んだ関係、第二次世界大戦で島全体が戦場になり、戦後はアメリカの軍政下にあったという歴史・社会状況が、そこに大きな影を落としていることはいうまでもない。それに加えて、1969~73年に東松照明が沖縄を何度か訪れ、長期滞在したことによって、彼を受け入れるにせよ反発するにせよ、ウチナーンチュ(沖縄人)の写真家たちが大きな影響を受けたことも、見過ごすことのできないファクターといえる。今回、東京都写真美術館で開催された「TOPコレクション 琉球弧の写真」展には、戦後の沖縄写真の中心的な担い手たちである山田實(1918-2017)、比嘉康雄(1938-2000)、平良孝七(1939-1994)、伊志嶺隆(1945-1993)、平敷兼七(1948-2009)、比嘉豊光(1950-)、石川真生(1953-)の7名の作品、206点が展示されていた。

カメラ店を営みながら、戦後の沖縄の日常にカメラを向けていった山田實、写真集『生まれ島・沖縄』(東京写真専門学院、1972)で、復帰に向けて揺れ動く沖縄の現実を捉えた比嘉康雄、離島の厳しい現実に向き合った写真集『パイヌカジ』(1976)で第2回木村伊兵衛写真賞を受賞した平良孝七、6×6判のフォーマットで光と影にたゆたう南島の光景を捉えた伊志嶺隆、視線を低く保ち、人々の生に寄り添う写真を撮り続けた平敷兼七、ノーファインダーの手法によって、1970年代初頭の沖縄の現実を掴みとろうとした比嘉豊光、自らホステスとして黒人専用のバーで働きながら、沖縄の女たちを活写していった石川真生──それぞれ個性的ではあるが、ウチナーンチュとしての出自を共有する7人の写真家たちの仕事を一堂に会した展示は、とても見応えがあった。東京都写真美術館が、長い時間をかけて沖縄の写真家たちのコレクションを育てあげていった成果が、ようやく形になったといえる。ただ「沖縄写真」の持つ特有のトポスを総体的に捉え直すには、東松照明をはじめとする「本土」から来た写真家たちの仕事と並置することも不可欠になる。今後の課題となるのではないだろうか。

2020/09/29(火)(飯沢耕太郎)

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関本幸治「光をまげてやる」

会期:2020/09/09~2020/09/27

京都場KYOTOba[京都府]

京都国際写真祭の「KG+2020」の枠で、関本幸治の展覧会を見ることができた。なかなかユニークな写真を使った展示である。関本は1969年に神戸市に生まれ、1994年に愛知県立芸術大学大学院を修了後、96年に渡独して2003年までケルンに滞在した。帰国後は2009年に東京から横浜に移って制作活動を続けている。

一言でいえば、関本の作品は現代版の「活人画」(タブロー・ヴィヴァン)といえるだろう。「活人画」というのはそれらしい衣装を身につけ、メーキャップを施した演者が、静止して、物語の中の一場面のポーズをとる見世物である。関本は人間の代わりに人形を用いる。紙粘土などで、等身大よりもやや小さめの精巧な人形を制作し、衣装も自分で縫い、背景を描き、小道具を揃え、ジオラマ風の舞台をしつらえる。最終的には、それを写真撮影して作品として提示するのだ。今回は展示会場の京都場に、「正義の女神」を表象する「Lady Justice」を制作したセットが、写真作品とともにそのまま再現されていた。

テクニックは完璧であり、写真も実際の場面を撮影したのではないかと疑ってしまうほどの臨場感がある。とても面白い試みだと思うが、関本がなぜその場面に固執しているのかという理由づけが、うまく伝わってこないもどかしさも感じた。最終的に、一枚の写真に集約するのではなく、テキストと写真とを融合させて、複数の場面から成る長編の「物語」を編み上げるというのはどうだろうか。可能性を感じる仕事なので、さらなる展開を期待したい。

2020/09/24(木)(飯沢耕太郎)

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2020

会期:2020/09/19~2020/10/18

伊藤佑 町家、ほか[京都府]

8回目を迎えた「京都国際写真祭」だが、今年は大きなトラブルに見舞われた。コロナ禍でいつものように4月~5月の開催ができなくなり、9月~10月に延期されたのだ。一部のスポンサーが撤退したことで、資金的にかなり厳しい状況でもあった。だが、逆にやや過剰に膨らみつつあった企画を整理できたことで、すっきりとシェイプアップされた展示が実現していた。スタートしたばかりの頃の、規模は小さいが志の高い写真イヴェントという原点に戻ることができたのではないだろうか。

町家や寺院といった、やや特異な造りの会場をうまく活用した展覧会の企画は、「京都国際写真祭」の最大の特徴だが、今回は下京区の伊藤佑 町家で開催された福島あつしの写真展「弁当 is Ready」と、オランダの女性アーティスト、マリアン・ティーウェンの「Destroyed House」が出色の展示だった。川崎市で10年間、高齢者向けの弁当配達の仕事をしながら撮り続けた福島の作品は、現代日本が抱え込む社会問題に新たな光を当てる力作である。ティーウェンは、取り壊される家から出る廃材や塵芥を部屋の中に積み上げるインスタレーション作品を制作する作家だが、今回は町家の2部屋の内部に、壁、柱、梁、階段などの材料を組み直した空間を新たに構築した。素晴らしい出来栄えで、会期終了後も残しておいてほしいほどだ。

ほかにも、木村伊兵衛写真賞を受賞したばかりの片山真理の個展(嶋臺ギャラリー)、1970年代の京都を撮影したスナップ写真を鴨川べりに野外展示した、甲斐扶佐義の「鴨川逍遥」、昭和の匂いが色濃く漂う出町桝形商店街の人々を撮影し、コラージュ的なポートレートを制作してアーケードに展示した、セネガル出身のオマー・ヴィクター・ディオプの《MASU MASU MASUGATA》など、印象深い展示がたくさんあった。サテライト展の「KG +」の枠での展覧会も、会期変更にもかかわらず60会場以上で開催されて活気を呈していた。外国から訪れる観客が少なくなったのは残念だが、イヴェントとしては成功だったのではないだろうか。

公式サイト: http://www.kyotographie.jp/

2020/09/24(木)(飯沢耕太郎)

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下川晋平「Neon Calligraphy」

会期:2020/09/23~2020/10/06

銀座ニコンサロン[東京都]

1986年、長野県生まれの下川晋平は、なかなかユニークな経歴の持ち主である。慶應義塾大学文学部でイスラム文化を学び、アラビア語の読み書きができるようになる。その後同大学大学院では現代美術を専攻し、2011~13年には東京綜合写真専門学校の夜間部で写真撮影の技術を身につけた。今回発表された「Neon Calligraphy」のシリーズも、おそらく下川以外にはなかなか思いつかない作品といえそうだ。

下川は中東諸国で、都市の商店のネオンサインにカメラを向けた。イスラム世界では、書(カリグラフィ)は特別な意味を持っている。書家は神の言葉を可視化する「霊魂の幾何学」を実践する者として尊敬を集めているのだ。商店の屋根や扉にも、アラビア語で書かれた文字が掲げられている。菓子屋には「純粋な長老」、果物屋には「神の力」、携帯電話屋には「ギャラクシー」といった具合だ。それら本来は神聖だったはずの文字が、俗化してネオンサインとして光り輝いている状況が、しっかりと捉えられている。ネオンサインだけでなく、きちんと幾何学的に並んでいる商品や、黒いベールを身につけた通行人の女性など、周囲の様子も丁寧に撮影しており、イスラムの現代社会を思いがけない方向から切り取ったドキュメントとして成立していた。

このシリーズはなかなかよい出来栄えだが、資本主義化が急速に進むイスラム世界には、ほかにも面白い社会現象がたくさんあるはずだ。下川にはぜひアラビア語の読解能力を活かして、多面的な作品を制作していってほしい。なお、本展は大阪ニコンサロンでの展示(7月23日~29日)を経て、銀座ニコンサロンに巡回してきた。

2020/09/23(水)(飯沢耕太郎)

梁丞佑「The Last Cabaret」

会期:2020/08/28~2020/09/19

ZEN FOTO GALLERY[東京都]

本展は、韓国出身の写真家、梁丞佑(ヤン・スンウー)の新境地といえる。新宿・歌舞伎町を根城とする人々をモノクロームのスナップショットで捉え、2016年度の第36回土門拳賞を受賞した『新宿迷子』のような、ハードコアな人間ドキュメントが彼の真骨頂だが、今回の写真のテーマはまったく意表をつくものだった。たまたまオーナーと知り合ったことで、新宿で昭和30年代から営業してきたグランドキャバレー「ロータリー」を撮影できるようになったのだ。それから1年余り、最年長のホステスが72歳という、昭和の香りが漂うキャバレーの人間模様を撮り続けた成果が、今回の「The Last Cabaret」である(写真展にあわせて、同名の写真集も刊行)。

デジタルカメラで撮影したカラー・プリントによる発表も初めてということだが、そのフラットな色味や質感と、細部まで驚くほどくっきりと浮かび上がらせることができる描写力が被写体にぴったりと合っていて、見応えのある展示になっていた。梁の人柄が出ているのだろうか。かなり際どい場面もあるのだが、全体としてポジティブな雰囲気に仕上がっている。キャバレー特有のインテリアや、モノの丁寧な描写からも、華やかだがちょっと寂しげな雰囲気が伝わってくる。

今年2月、ということはコロナ禍が深刻化する直前に、「ロータリー」はその長い歴史を閉じた。梁のこの仕事は、その最後の日々を記録した貴重なメモリアルになった。「内」にうごめく人間たちの姿を探求していくという新たな方向性は、これまで「外」の世界に目を向けてきた彼にとっても転機となるかもしれない。今後の展開が楽しみだ。

2020/09/19(土)(飯沢耕太郎)

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