artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

宮本佳美 展 immortal plant

会期:2010/11/06~2010/11/27

イムラアートギャラリー[京都府]

花をモノトーンで描いた絵画作品。100号×3の大作をはじめ、100号、50号の作品が中心だ。宮本が描く花は、明るく生命力にあふれた野の花ではなく、まるで蝋人形のような、生と死の中間でもうひとつの生を得たかのような花だ。以前の作品は、押し花を漂泊して、写真撮影した上で描いていたが、新作はドライフラワーを水の入ったガラスの器に浸し、照明を当てた様子を写真撮影して描いている。水槽の中で揺らめく分、旧作より躍動感があるが、それでも静謐で幻想的なたたずまいに変わりはない。モノトーンなのに既成の黒を使わず、20~30色を混ぜてつくった黒を塗り重ねて行く手法や、確かな描写力も相まって、彼女ならではの絵画世界が見事に表現されていた。

2010/11/16(火)(小吹隆文)

ポスター天国 サントリーコレクション展

会期:2010/11/13~2010/12/26

サントリーミュージアム[天保山][大阪府]

本展をもって16年間の活動に終止符を打つサントリーミュージアム[天保山]。閉館は関西の美術ファンにとっては痛恨の事態だが、今日までの関西の文化に対する貢献には、感謝というほかない。最後の展覧会は、コレクションの基軸であり、同館が最も得意とするポスター展となった。ギャラリーでは収まりきらず、エントランス部分にまではみ出したポスターは、約2万点のコレクションから選び抜かれた約500点。デザイン史上の傑作から、第2次大戦中のレア物まで、多彩なラインアップで観客を魅了している。入場料も500円とサービス価格になっているので、ミュージアム最後の雄姿をできるだけ多くの人に見てもらいたい。

2010/11/12(金)(小吹隆文)

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國府理 展 Parabolic Garden

会期:2010/11/09~2010/12/04

アートコートギャラリー[大阪府]

生来のメカ好きとSF的世界観、エコロジカルな思想が合体した國府の世界。元々はオリジナルの乗り物をつくっていたが、近年は生態系への関心が制作の動機となっている。本展では、パラボラアンテナのお皿に自然と植物や苔が生えた体で、しかも火星探査機のような稼働タイプの庭と、巨大な温室ドーム内に定期的に霧が発生する循環系の環境をつくり上げ、外界から遮断された風景と対峙する実験装置的な作品などを出品。地球環境へと思いを馳せる巨視的な表現を見ることができる。作品のほとんどは既発表作の改良版だが、どれも関西では見られなかった作品なので、まとめて見る機会が得られてありがたかった。

2010/11/09(火)(小吹隆文)

オットー・ディックスの版画 戦争と狂乱──1920年代のドイツ

会期:2010/11/03~2010/12/19

伊丹市立美術館[兵庫県]

オットー・ディックスの版画を初めて知った時の衝撃は、今でもはっきり覚えている。第一時大戦の最前線における、暗くじめじめした塹壕、鉄条網に引っかかった遺体の一部、発狂寸前の兵士の顔……。一転、1920年代ベルリンの情景も忘れ難い。繁栄の陰でうごめく、娼婦、傷痍軍人、殺人者たちの姿を、グロテスクに活写した作品群だ。これまで断片的にしか見られなかった彼の版画を、初めてまとめて見ることができた。その印象は、やはり強烈。ずしりと重いパンチが、次々に打ちこまれてくるかのようだ。ディックスが今の世に現われたらどんな絵を描くのだろう。ふとそんな想像が頭をよぎった。

2010/11/07(日)(小吹隆文)

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木津川アート2010

会期:2010/11/03~2010/11/14

木津川市の木津・本町エリア、鹿背山エリア、上狛エリア[京都府]

京都府最南端の木津川市を舞台に開催された、地域型アートフェス。今年は関西でも同種のイベントが多数開催されており、さすがに食傷気味の感があった。しかし、出かけてみてビックリ。作品の質は上々だったし、木津川市の古い町並みや豊かな自然環境が素晴らしかった。なにより主催者やアーティスト側と、地元自治体・住民との関係がきちんと築かれていることに好感を持った。この手のイベントでは、ディレクターやアーティストの意気込みばかりが前に出て、地元との関係が後回しにされるケースがままある。しかし、イベントの目的を考えたら、優先順位は逆になるはずだ。そうした基本をしっかりおさえつつ、地域とアートの良い関係を作り出した点を評価したい。同時に、宅地開発でベッドタウン化が進む木津川市の現状も垣間見ることができた。開発が是か非かはともかく、市の現状を改めて市民に伝えるという意味でも、このイベントは有意義だったと思う。

2010/11/03(水)(小吹隆文)