artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
プレビュー:細江英公 写真展 花泥棒
会期:2011/01/08~2011/02/13
TANTOTEMPO[兵庫県]
写真家の細江英公が、下着デザイナーで画家、文筆家としても活躍した鴨井洋子とコラボして1966年に発表した写真作品から、34点を展覧。鴨井作の人形との不思議な旅を捉えた作品は、同年代に細江が発表した『薔薇刑』の高密度な耽美性とは別の、程よく力の抜けたユーモアと哀愁を漂わせる。会期後半の2/5には細江が来場してトークイベントを行なうほか、神戸ファッション美術館でも「抱擁」と「ルナ・ロッサ」シリーズから17点をチョイスした個展が同時開催される(1/27~2/8)。
2010/12/20(月)(小吹隆文)
山荘美学 日高理恵子とさわひらき
会期:2010/12/15~2011/03/13
アサヒビール大山崎山荘美術館[京都府]
自宅庭の百日紅(さるすべり)を、見上げる角度で描く日高理恵子は、安藤忠雄設計の新館で5点を出品。館蔵品のモネと同室で展示され、同じ絵画というジャンルながら、色遣い、構図、表現法など、さまざまな意味で対比的な展示を行なった。空間に対して大きめの作品を持ち込んで、観客が作品を凝視するよう誘導したり、作品を高い位置に設置することで、空間の垂直性を意識させる手法も見事だった。一方、さわが8作品の展示を行なったのは、古い洋館の本館。自室を舞台にした映像作品は、本館のアンティークなインテリアと相性抜群で、くつろいだ気分で作品世界に没入することができた。また、本館に展示されている民芸の器とも違和感なく馴染んでいた。規模的には小さくとも、考え抜いた展示により濃密な体験を提供した本展。キュレーションの妙を味わいたい人におすすめだ。
2010/12/15(水)(小吹隆文)
岸田良子 展─TARTANS─
会期:2010/12/14~2010/12/25
galerie 16[京都府]
長年白地図をモチーフにした作品シリーズを展開してきた岸田だが、本展では一休みして新たな作品を発表した。そのモチーフは布地のタータンチェック。シンプルな柄を選んで、P80号包み張りのキャンバスに描いた作品7点を展示した。本人の解説によると、油絵具をアルバース塗り(油絵具をペインティングナイフでパンにバターを塗るように塗った後、別のペインティングナイフで盛り上がった部分を削ぐ技法。画家のジョセフ・アルバースが用いた。油は一滴も使用しない)しているとのこと。布地の柄を写しただけなのに、作品に確かな存在感が漂っているのは、この技法によるところが大だと思われる。
2010/12/14(火)(小吹隆文)
小勝負恵 展 [Blind house]
会期:2010/12/07~2010/12/26
Yoshimi Arts[大阪府]
古から絵画は窓の比喩として認識されてきたが、こんな絵画を見たのは初めてだ。小勝負の作品は、ご覧のとおり窓の形をしている。しかもその窓は開閉可能で、キャンバスと窓の両方にイメージが描かれているため、閉じた時と開いた時で絵の意味合いがガラリと変わる。例えば、窓を閉じている時は父と娘の食事風景だったのが、窓を開けると娘一人の寂しい食卓になるという具合だ。また、リストカットなど青少年の悩みを主題にした作品があるのは、教職に就く彼女の実体験に由来する。まだ展覧会経験はわずかだが、誰もが共感できる“物語性”という武器を持つだけに、今後、脚光を浴びる可能性が高いと見た。
2010/12/09(木)(小吹隆文)
伊東宣明 回想の遺体
会期:2010/12/07~2010/12/12
立体ギャラリー射手座[京都府]
髪の毛や尿など、自らの身体の一部を用いた作品を制作したり、祖母の死をテーマにした映像作品、同じ場所を異なる時代に描いた絵ハガキを並置する作品などを通して、人間の認識や自己の境界線を探る作品を発表してきた伊東宣明。彼は大学卒業後に葬儀会社に就職し、退職するまでの約1年半の間に多くの“死”と接してきた。本展では、その体験を元にした新作を発表している。会場の床一面には、アンプ、スピーカー、コードが配置されていて、スピーカーからは伊東がメモを読む声が聞こえてくる。メモの内容は、彼が出会った遺体の状態をしたためた文面だ。具体的な内容を聞き取りたいのだが、複数の声が同時に聞こえるので、個々の文章を聞き取るのは至難に近い。それでも断片的な単語は聞こえるので、徐々に自分が不穏な空気の真っただ中にいるような気分になってくる。不穏とは、それ自体が実在するのではなく、人の心がつくり上げる一種の幻影である。それは死の恐怖についても同様だろう。伊東の新作は、そうした感情がどのようにして形成されるのかを明らかにしたものと言える。
2010/12/07(火)(小吹隆文)