artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
プレビュー:オットー・ディックスの版画 戦争と狂乱─1920年代のドイツ
会期:2010/11/03~2010/12/19
伊丹市立美術館[兵庫県]
第一次大戦の従軍経験を基に、戦場の悲惨と不条理を描き切った連作版画《戦争》や、大戦後の享楽的で退廃した都市の様相をえぐり出した作品群で知られる、オットー・ディックス。人間の本質を直視し、ストレートに表現した作品を初めて見た時の驚きは、今も忘れることができない。本展は、日本では20年ぶりとなる彼の本格的な個展だ。パソコンの画面越しでは決して伝わり切らない生々しい線刻を体感するためにも、美術館に出かけて直に作品と対面したい。ただし、小さなお子様には刺激が強すぎるので、くれぐれもご注意を。
2010/10/20(水)(小吹隆文)
プレビュー:木津川アート2010「流れ・その先に」
会期:2010/11/03~2010/11/14
木津川市の木津本町エリア、鹿背山エリア、上狛エリア[京都府]
「瀬戸内国際芸術祭」や「あいちトリエンナーレ」が好評を博し、今年の美術界を象徴する出来事となった地域型アートフェスティバル。関西でも同様の動きが活発で、9月以降、「六甲ミーツ・アート」「西宮船坂ビエンナーレ」(ともに兵庫県)、「奈良アートプロム」(奈良県)、「BIWAKOビエンナーレ」「信楽まちなか芸術祭」(ともに滋賀県)など、大小さまざまなアートフェスが立て続けに開催され、一種ブームの様相を呈している。京都府木津川市の市街地と山間部を舞台に開催される「木津川アート」は、そのラストを飾る催しだ。コンセプトはほかと同様で、約50組のアーティストが地域で行う作品展示を通して、地元の街並みや自然の豊かさを再確認しようと試みる。ちなみに、木津川市は京都府と奈良県の境界に位置し、古くから交通・物流の要衝として栄えてきた。古代には都が置かれた時期もあったほどだ。その地域性と歴史性に、アーティストたちがどう反応するのか、興味が募る。また、「木津川アート」をもって関西のアートフェス・ブームが一段落するので、後日、シーン全体の総括ができればと思う。
2010/10/20(水)(小吹隆文)
吉川直哉 展
会期:2010/10/12~2010/10/31
ギャラリーアーティスロング[京都府]
ロバート・キャパ、ユージン・スミス、アンセル・アダムス、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ニセフォール・ニエプスという、写真史上の巨匠の作品を、独自の解釈で複写した作品。巨匠たちがシャッターを押す瞬間の、視覚、意識、フレーミングを追体験しようとする試みだ。方法は複写だが、意識の上では模写に近いという。どの作品もストレートな複写ではなく、吉川の解釈や諧謔が込められた変則的な仕上がりになっており、ニエプスを題材にした作品に至ってはフォトアニメで仕上げられている。凝った仕掛けがそこかしこに散りばめられており、写真史をある程度把握している人なら、思わずほくそ笑んでしまうだろう。
2010/10/14(木)(小吹隆文)
唐仁原希 個展
会期:2010/10/14~2010/11/03
MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w[京都府]
少女と小鹿が合体したり、たわわに実る果実がすべて子どもの顔だったりする唐仁原希の絵画。それは自身に潜む少女性への憧れと怖れを具現化したものだ。ところが新作では、様相が若干違う。半獣半身の少女たちは相変わらずだが、西洋の宗教画や日本の障壁画を範にした様式性が強調されているのだ。ベラスケスの《マルガリータ王女》を連想させる作品もあった。また、大作が多いのも本展の特徴だ。スケールの大きな作品をまとめるために、あえて泰西名画の様式を借りたのか? それとも、実はこちらが彼女本来の作風なのか? その真偽はともかく、新たな方向へ舵を切った唐仁原の今後の展開に要注目したい。
2010/10/14(木)(小吹隆文)
荒井恵子 展
会期:2010/10/12~2010/10/17
LADSギャラリー[大阪府]
首都圏を中心に活動している画家が、関西での初個展を開催。墨による抽象画で、一部に見られる茶褐色の部分は藍染めの廃液を活用している。泡立つような隆起を描いた作品からは、虚無の中からふつふつと湧き上がる生命力が感じられた。また、線や図形が凝集し、スパークする作品からは、前衛音楽のような音の軋みとリズムが連想される。作家の情報を持たず、飛び入りで出かけた展覧会だったが、幸運な出会いになった。今後も関西で発表の機会があれば出かけたい。
2010/10/13(火)(小吹隆文)