artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
彫刻家エル・アナツイのアフリカ
会期:2010/09/16~2010/12/07
国立民族学博物館[大阪府]
アフリカのガーナ出身で、現在はナイジェリアを拠点に活動するエル・アナツイは、1989年にポンピドゥーセンターで開催された「大地の魔術師」展で一躍脚光を浴び、以後、アフリカを代表する現代アート作家として活動している。しかし、欧米で彼の作品は美術館と博物館の両方で展示されており、西洋的文脈のアートと民族工芸の狭間で宙吊りにされた状態になっているのだとか。非西洋圏のアーティストが多少なりとも直面するこの問題に対して、美術史と文化人類学双方の視点からアプローチしようと試みたのが本展だ。ただ、実際の展示を見ると、少なくとも私にはオーソドックスな美術展に見えた。確かに彼の作品の背景となっているアフリカの美術工芸品も共に展示されているが、だからといって上記の問題に踏み込んでいると言えるのだろうか。意識し過ぎると却って西洋美術史の文脈に取り込まれてしまうことを危険視したのかもしれないが、もう少し踏み込んでほしかったというのが本音だ。
2010/12/04(土)(小吹隆文)
大﨑のぶゆき展─dimention wall─
会期:2010/11/29~2010/12/18
ギャラリーほそかわ[大阪府]
近年の大﨑の作品といえば、水溶性の紙に描いた絵を水面に浸し、イメージが崩壊する瞬間をスローモーションで撮影した映像作品が思い浮かぶ。しかし本展では、今までとは異なるタイプの映像作品が展示された。その作品とは、壁一面に投影された壁紙の模様からインクが滲み出て、模様が徐々に塗り潰されていくというものだ。本人が在廊していたので説明を受けたところ、「ゲシュタルト崩壊」という単語がしばしば発せられた。これは、例えば漢字を凝視し続けた時に陥る、意味と形態が分離したような感覚を指す単語だ。つまり大﨑の新作は、人間の空間認識を撹乱する効果を狙ったものと言えるだろう。私自身は本作でそこまでの感覚は得られなかったが、視界全体を覆うような映像ならゲシュタルト崩壊が味わえるのかもしれない。新シリーズは始まったばかりなので、今後のブラッシュアップに期待したい。
2010/11/29(月)(小吹隆文)
SHINCHIKA SHINKAICHI
会期:2010/11/15~2010/12/05
神戸アートビレッジセンター[兵庫県]
SHINCHIKAとは、2002年に結成された5人組のアーティスト・ユニット。映像、アニメ、音楽、立体、インスタレーションなどが渾然一体となっており、エンタテインメント性に富んだ作風で注目を集めている。ちなみに本展のタイトルは、彼らのユニット名と、会場の地名「新開地」の語呂合わせである。今回は、彼らの代表作を本展用にアレンジしたスペシャル・バージョンと、メンバー個々の作品が出品された。作品を見て驚いたのは、クオリティの高さと、ジャンルをシームレスに扱う柔軟な感性だ。アナログ世代の自分とは明らかに違うセンスを前に、羨ましいやら茫然とするやら……。1990年代後半にキュピキュピに出会った時の驚きを思い出した。関西出身ながら関西での活動がなかった彼らだが、今後は是非地元での活動を増やしてほしい。
2010/11/27(土)(小吹隆文)
ファンタスマゴリア
会期:2010/11/19~2010/12/19
ギャルリー宮脇[京都府]
近年、アール・ブリュットを積極的に取り上げているギャルリー宮脇が、刺激的な企画展を開催した。光に満ちた神秘体験を描写するアンティエ・グメルス、異業の妖精たちが浮遊する絵画を描くルジェナ、女性の裸体画の周囲にキッチュな雑貨品を過剰に貼り付ける山際マリ、自然物や既製品、自作の造形物を組み合わせてシュールなオブジェを制作する濱口直巳、細胞増殖を思わせる生々しい作風の平面や立体で知られる玉本奈々をピックアップした本展だ。アール・ブリュットといっても、彼女たちは障害をもつわけではない。美大で学んだ者もいれば、独学者もいる。ステレオタイプなアール・ブリュット観を排し、特定の枠組みや流行とは無縁で、自己探求的な作風を持つ作家を集めたのだ。この選択は、アール・ブリュットを狭義に捉える原理主義者には邪道に見えるかもしれない。しかし、冷静に考えれば言葉本来の意味に忠実だし、アール・ブリュットの可能性をより広げることにもつながるだろう。実際、作品はどれも赤裸々な魅力に溢れ、文字通り“生の芸術”だった。広義のアール・ブリュットをラインアップに加えることで、ギャルリー宮脇の活動は更に速度を増すであろう。
2010/11/24(水)(小吹隆文)
物気色─物からモノへ─
会期:2010/11/21~2010/11/28
京都家庭女学院・虚白院[京都府]
東洋と西洋、美術と工芸、芸術と経済と科学など、既成の枠組みを乗り越えた新たなアート、文化の枠組みを模索するべく、2010年1月に京都大学総合博物館で開催された「物からモノへ」展。その第2弾として開催されたのが本展だ。タイトルの「物気色(モノケイロ)」の「物」には、物質の「物」、人格の「者」、モノノケやもののあはれの「モノ」など複数の意味が込められている。会場の虚白院は、朝鮮通信使とゆかりがあり、大正期には日本南画院の本部、戦後は女子教育の拠点となった場所だ。敷地内には母屋のほか、能舞台、南画院時代の展示室、茶室、竹林の庭などがあり、黒田アキ、岡田修二、近藤高弘、大舩真言ら16組の作家がサイトスペシフィックな展示を行なった。壮大な企画意図については未だに理解できていないが、画廊や美術館はもちろん、京都で時折行なわれる寺社での展示とも違う、個性的かつジャンルレスな展示が行なわれたのは間違いない。それにしても、会場の建築・作庭のユニークなこと。地元の人にさえ知られていない上質な空間が、京都にはまだまだ埋もれていることを実感した。
展覧会URL=http://www.monokeiro.jp/
2010/11/20(土)(小吹隆文)