artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
京都オープンスタジオ2010
会期:2010/02/12~2010/02/14
AAS、桂スタジオ、うんとこスタジオ、豆ハウス、ライトスタジオ、兼文堂スタジオ、[京都府]
※上記は全会場がオープンしていた期間。会場ごとに会期は異なる。
京都市内に点在する8つの共同スタジオが、一斉にオープンスタジオを開催。昨年も「4つのアトリエ」と題した同種のイベントが行なわれたが、今年は参加スタジオ数が倍増。作家数も30組以上と増加した。スタジオの展示には不備もあるが、それ以上に生々しさが伝わってくるのが興味深い。例えば「桂スタジオ」の風能奈々は、普段は見せないメモ帳のスケッチを展示したり、試行錯誤段階の陶芸作品を出品した。「AAS」の田中英行は過去の作品と新作を同時に出品し、旧作を破壊するパフォーマンスを行なった。「豆ハウス」の芳木麻里絵は自身の版画作品と同じ手法で砂糖菓子を作り、一部の観客にふるまった。また、スタジオの設えもそれぞれが個性的で、美術作品が生まれる現場の息吹きが直接肌に感じられた。今回の参加メンバーは京都市立芸術大学出身の30歳前後が主体だったが、京都は美大が数多くあるので、同様のスタジオはもっとあるはず。同様の動きが広がれば、京都アート界の一大潮流に発展するかもしれない。来年の2月はどんな状況になるのか、今から楽しみだ。
2010/02/14(日)(小吹隆文)
井上廣子 展 Inside-Out むこう側の光
会期:2010/02/10~2010/02/21
ギャラリーヒルゲート[京都府]
欧米と日本の精神病院を取材した写真シリーズ。展示には床置きのライトボックスを使用し、裏側から光を当てるスタイルが採られた。写っているのは病室の様子で、人間は写っていない。作家が在廊していたので説明を聞いた。欧米、特にイタリアでは精神病院を減らす方向にあり、患者も一般病院に通院・入院させる流れになっているらしい。また、投薬量も日本に比べると大変少ないとも。国ごとに事情があるのでその是非は判断しかねるが、ジャーナリスティックな視点に基づく骨太な写真表現を久々に見たように思う。また、彼女が在住するドイツの美術業界事情にも話題が及んだ。さしものドイツも不況の影響で予算を削減せざるを得ず、アーティストの待遇や企画展の頻度が減っているらしい。どこも大変なんだなと、改めて実感した。
2010/02/11(木)(小吹隆文)
向井智香 個展 the Atonement
会期:2010/02/08~2010/02/13
ぎゃらりかのこ[大阪府]
花束で磔刑図をつくり、それらが枯れて行く過程を記録したスチール写真(約3週間分、約7,000枚)を、早送りでスライドショー上映していた。私が最も驚いたのは上映機材。てっきり薄型テレビの縦起きだと思い込んでいたが、実は手作りの箱で、映像も外側から投影していた。本人いわく「大画面の薄型テレビは高価で買えなかったので、安価で効果的な方法を模索した」とのこと。会場が暗室だったので助けられた側面もあるが、それを割り引いてもほめられるべき上手な展示だった。
2010/02/10(水)(小吹隆文)
mariane 食べる eat
会期:2010/01/23~2010/02/20
studio J[大阪府]
薄茶色に焼けた古い和紙の上に、動植物や微生物らしき有機的フォルムを描くmariane。画材はアクリルガッシュと胡粉で、日本画出身ではないが、作品から漂う雰囲気はどことなく和テイストだ。しかも濃密なエロティシズムが滲み出ている。女性でここまでエロい作品を描く人は珍しいのではないか。彼女はブラジル生まれで、日本とシンガポールを行き来して育った。作品が醸し出す独特の雰囲気は、その出自と関係があるのかもしれない。なお、今回は「食べる」がテーマだったので、作品にはすべて食関連のタイトルがついてていた。
2010/02/06(土)(小吹隆文)
ロバート・プラット“TALES FROM THE LIMEN”
会期:2010/02/05~2010/02/28
eN arts[京都府]
ロバート・プラットは森と狩人を軸に、自然と文明の対比や、見つめる側と見つめられる側の関係などを織り込んだ絵画作品を発表している。まるで織物のような細かなテクスチャーが特徴で、そのなかにデジタル画像のバグを思わせるスペクトルのような色帯も混入されている。近年は壁面にヨーロッパ中世の古書から引用した挿絵の一部を描くようになり、作品の構造が一層複雑化しているようだ。私はまだ彼の作品をつかめたとは言い難い状態なのだが、その多面性はやはり魅力的で、何とか自分流の解釈を見つけたいと思っていた。ところが、彼は留学先の京都市立芸大で無事博士号を取得できたため、春には英国に戻るという。じっくり付き合いたい作家だったのでとても残念。帰国しても機会を作って、日本での発表を続けてほしいものだ。
2010/02/05(金)(小吹隆文)