artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

降り落ちるものを 今村遼佑

会期:2016/03/08~2016/03/20

アートスペース虹[京都府]

大通りに面してガラス張りの扉から展示室が見えるギャラリー。そこには、青いプラスチックのバケツと沈丁花の植木、白いカーテンとiPhone、そして7点の絵画作品が展示されていた。青いバケツとiPhoneの作品は日常の些細な情景を記録した映像と作品自体が相似形あるいはリフレインを奏でており、絵画は雪が雨に変わる情景とハクモクレンを描いたものだ。そして沈丁花の濃厚な香りが室内に立ち込め、空間全体を統合してゆく。筆者は過去にも嗅覚を利用した作品を何度も体験しているが、今回ほど香りの存在感が際立ち、効果的に使用された例を知らない。今後、五感を駆使する作品に出会ったら、きっと本展の経験が評価基準になるだろう。

2016/03/08(火)(小吹隆文)

大平和正/楽空間 祇をん小西の造化(インスタレーション)

会期:2016/02/27~2016/03/06

祇をん小西[京都府]

陶、金属、石などを駆使した独自の造形活動で知られる大平和正。彼は昨年に直径4.1mの土の球体を各地で展示し、京丹後市葛野浜では華道とのコラボレーションを行なった。その際、花を担当したのが祇をん小西の小西いく子であり、その縁と記録写真集の出版を記念して行なわれたのが本展である。大平は金属製の巨大な三角形のオブジェを用意し、「うなぎの寝床」と呼ばれる細長い京町家の3室を貫通させた。また、玄関と坪庭にも三角形の金属オブジェを配し、離れではボウル状の金属オブジェと掛軸、花の共演を行なった。ミニマルな金属彫刻と木造の古民家。その組み合わせはいかにも相性が悪そうだが、大平のプランはシンプルかつ大胆で、心地良い緊張感と共に作品と空間を見事に一体化させていた。作家の高度な空間解読力をまざまざと見せつけた展覧会であった。

2016/03/05(土)(小吹隆文)

田中真吾個展「meltrans」

会期:2016/03/04~2016/03/27

eN arts[京都府]

紙や木などを支持体に用い、それらを炎であぶった燃え後、焦げ跡を表現として操る田中真吾。今回の新作では、前回の個展でも部分的に用いられていた色とりどりのビニール袋(スーパーなどのレジ袋)を絵具のように使用。金属板の上にビニール袋を置き、バーナーであぶって溶着させながら、抽象表現主義絵画のような画面をつくり上げた。ビニール袋の溶け具合は作品により異なり、半立体のような盛り上がりがある場合、商店名が判読できるほど原形をとどめている。それを良しとするか、複数の文脈が混入して解釈を妨げていると取るかは見る者次第だが、筆者自身は作家の意欲的な挑戦として肯定的に受け止めた。田中は個展を行なうたびに成果を残す取れ高の多い作家だが、その一方でまとまり過ぎというか、年齢(30代)の割に老練な印象もある。そこをどう突き抜けていくかが今後の課題だろう。

2016/03/05(土)(小吹隆文)

第2回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ2016

会期:2016/03/06~2016/04/01

京都市美術館[京都府]

2013年に第1回展が行なわれ、好評を博した「京都版画トリエンナーレ」。その特徴は、作家の選出にあたりコミッショナーの推薦制をとっていること、一作家あたりの展示面積を広く取っていること(10m以上の壁面または50平方メートルの床面)、表現の幅を広く取っていることだ。今回は、小野耕石、加納俊輔、金光男、鈴木智恵、中田有華、林勇気、増田将大など20名の作家を選出。「刷る」ことに重きを置いた版画ならではの表現、美術館と版画の歴史に言及したコンセプチュアルな表現、服飾や文章など別分野の創作をフィードバックさせる表現、映像や立体のインスタレーションといった具合に、多様な作品を揃えることに成功した。作品の質が高いことに加えて、展示スタイルもバラエティに富んでおり、この手の美術イベントとしては上々の部類に入るのではないか。今後も継続して、日本の版画分野のなかで独自の地位を築いてほしい。

2016/03/05(土)(小吹隆文)

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グイド・ヴァン・デル・ウェルヴェ個展 killing time|無為の境地

会期:2016/02/20~2016/03/21

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]

オランダ出身で、現在はハッシ(フィンランド)、ベルリン、アムステルダムを拠点に活動するグイド・ヴァン・デル・ウェルヴェ。彼の作品の特徴は、自らが行なったパフォーマンスの記録を元に映像作品を制作することだ。また、作品に自作の楽曲を用いることもある。例えば《第14番「郷愁」》では、音楽家のショパンを題材に、ワルシャワの聖十字架教会からパリのペール・ラシューズ墓地までトライアスロンで走破した。ほかにも、凍った海の上で砕氷船の直前を歩く《第8番「心配しなくても大丈夫」》や、北極点に立ち24時間かけて地球の自転と逆に回転する《第9番「世界と一緒に回らなかった日」》といった作品がある。本展では、過去10年間の作品から7点を選んで展示した。なかには日本人には理解し難いユーモア感覚の作品もあり、とまどったが、それも含めて貴重な機会だった。美術大学が運営し、アートセンター的な活動も行なう京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAならではの企画と言えるだろう。

2016/02/23(火)(小吹隆文)

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