artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

森村泰昌 自画像の美術史 「私」と「わたし」が出会うとき

会期:2016/04/05~2016/06/19

国立国際美術館[大阪府]

美術史上の名作の登場人物や作家に自らが扮したセルフ・ポートレイトで知られる森村泰昌が、それら「自画像」シリーズの集大成となる個展を地元大阪で行なっている。作品総数は約130点(うち森村の作品は125点)。第1部で初期作品から新作・未発表作品までを網羅しているほか、第2部で上映時間約70分の新作長編映像作品を出展。また、森村が1985年に参加した伝説的展覧会「ラデカルな意志のスマイル」が再現されており、盛り沢山な内容となった。展覧会タイトルの「私」と「わたし」は、美術家あるいは作品の一部となった森村=「私」と、プライベートの森村=「わたし」を表わしており、両者の出会いと往還のなかから作品が生み出されてきたことを表わしている。ところが第1部末尾の章立てに「私」の消滅が示唆されており、自画像シリーズの終了を意味するのかと早合点した。森村に尋ねたところ、インターネットや仮想現実などの技術的発展により、私/わたしの境界線が揺らいでいる現状を受けた文言とのこと。自画像シリーズは今後も継続していくとの回答を得た。その意味で本展は、回顧展であり通過点でもあるのだが、森村の業績を概観する重要な機会なのは間違いない。

2016/04/04(月)(小吹隆文)

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舘正明 sign

会期:2016/03/29~2016/04/10

ギャラリー恵風[京都府]

色面と幾何学形態からなる舘正明の染色作品。ミニマル絵画のようなクールなたたずまいが特徴で、見ているこちらも居住まいを正してしまう。制作法はとてもシンプルで、刷毛に防染のロウをつけて規則的に塗るだけである。例えば正方形の場合、同じ幅で3段重ねにロウを塗るという具合だ。しかし、ロウになんらかの仕掛けを施しているのであろう。防染が完全ではなく、染料が薄っすら滲むことで地色とは異なる複雑なまだら模様の色面がつくられる。使用する染料は1作品あたり2色程度と少ないが、それでも深みのある豊かな色彩を表現しているのだから見事だ。以前から質の高い作品をつくる作家だと思っていたが、本展で改めてその完成度の高さを実感した。

2016/04/01(金)(小吹隆文)

今井祝雄 Retrospective─方形の時間

会期:2016/03/26~2016/04/23

アートコートギャラリー[大阪府]

1964年の個展「17才の証言」でデビューし、具体美術協会のメンバーになって、以後、絵画、写真、映像、パフォーマンス、インスタレーションなど多彩な作品を発表してきた今井祝雄。近年は海外でも評価が高まっている彼の、1970年代後半から80年代前半の作品を紹介したのが本展だ。当時、今井は「時間」をテーマに制作を行なっていたが、本展ではそれらのなかから、《八分の六拍子》や《時間の風景/阿倍野筋2~7》といった写真作品、テレビの画像をトレーシングペーパーに写し取った《映像による素描─A1》、オープンリールのテープとデッキなどを駆使したパフォーマンス&インスタレーション《方形の時間2》(1984年作品の再制作)などが展示された。いずれも30~40年前の時代の空気を体現する貴重な作例だ。レアな機会を与えてくれた今井と画廊に感謝したい。

2016/03/29(火)(小吹隆文)

重森陽子展

会期:2016/03/22~2016/04/03

ギャラリーマロニエ[京都府]

重森陽子は動物や人間の姿を捉えた陶オブジェを制作する作家だ。その特徴はスピード感を重視したラフな造形にあり、やきものでドローイングをしているような風情を持つ。ところが今回、彼女の作品は大きく変化した。ジオラマのような情景描写を行なっていたのだ。それらは山水画を立体化した「3D山水」だという。彼女は以前から「陶画塾」という絵付けの勉強会に参加しており、山水画を学ぶうち、それらを立体化したいと思うようになった。ドローイング風の造形はこれまでと同様だが、筆者が感心したのは「3D山水」というアイデアである。ほかの陶芸家を巻き込んでいけば、ひとつの分野を形成できるかもしれない。本人がどれほどの展望を描いているか不明だが、大きな可能性が感じられる個展であった。

2016/03/22(火)(小吹隆文)

プレビュー:KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2016

会期:2016/04/23~2016/05/22

京都市内の10数カ所[京都府]

2013年から始まった、日本でも数少ない国際写真展。京都市内の歴史的建造物や近現代建築を会場とするのが特徴で、質の高い作品と展示も手伝って、回を追うごとに評価が高まっている。4回目となる今回のテーマは「Circle of Life いのちの環」。サラ・ムーン、ティエリー・ブエット、福島菊次郎、古賀絵里子、銭海峰、アラノ・ラファエル・ミンキネンといった気鋭写真家の個展のほか、ギメ東洋美術館の写真コレクション、コンデナスト社の、ファッション写真コレクション、マグナム・フォトによる難民・移民問題を扱った写真展も行なわれる。また、クリスチャン・サルデ(写真・映像)・高谷史郎(インスタレーション)・坂本龍一(サウンド)の共演も話題を集めるだろう。会場が広範囲に分散しているので全会場を見るのは大変だが、バスやレンタサイクルを活用して賢く会場巡りを行なえば、写真表現と京都の魅力を一度に味わえる稀有な機会となるだろう。
公式サイト:http://www.kyotographie.jp/

2016/03/20(日)(小吹隆文)