artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
小林哲朗 NO ARCHITECTS「魅せる工場展」
会期:2016/01/20~2016/02/28
あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]
日本屈指の工業地帯を有する兵庫県尼崎市で、工場写真をテーマにしたユニークな展覧会が行なわれた。写真家は、尼崎市在住で、工場、廃墟、巨大建築物などの写真で知られる小林哲朗。展示プランを担当したのは、建築家ユニットのNO ARCHITECTSだ。展示室内にはさまざまな大きさのボックス(その大半は人間の背丈を超える)がランダムに配置され、大きく引き伸ばした写真が壁一面に貼り付けられている。巨大な煙突、建物に張り巡らされたダクトや配管、吹き出す水蒸気といった工場特有の機械美・機能美が圧倒的なスケールで目前に迫り、それらがひしめき合いながら奥行のある空間に展開しているのだ。通常の写真展ではほぼ同じ大きさのプリントが壁面に整然と並んでおり、インスタレーションを意識した場合でも写真自体が立体的に扱われることはまずない。ところが本展では、3次元的な展示空間が設けられ、観客は工場の中をさまようような感覚を味わえるのである。写真表現の新たな可能性を示したという点で、このコラボレーションは大成功と言えるだろう。
2016/02/07(日)(小吹隆文)
作家ドラフト2016 近藤愛助 BARBARA DARLINg
会期:2016/02/02~2016/02/28
京都芸術センター[京都府]
若手アーティストの発掘・支援を目的に行なわれる京都芸術センターの公募企画展。今年は美術家の小沢剛が審査員を担当し、104件の応募の中から近藤愛助とバーバラ・ダーリンの展示プランが採用された。近藤は、移民としてサンフランシスコで暮らし、第2次大戦中に日系移民収容施設に入った経験を持つ曾祖父の人生を、遺品、写真、映像などでたどるインスタレーションを発表。国家や時代に翻弄される人間の姿を描きながら、現在ドイツに住む自身の姿とも重ね合わせていた。一方、ダーリンの作品は上映時間約10時間の長尺映像作品。東京から青森まで自動車で旅する男女の姿を、ほぼ後部座席からの車載カメラで捉えている。ほかに宿泊、食事、寄り道などの場面もあるが、「愛している」の一言以外2人の音声は消去され、外部の音も一部の場面以外は聞こえない(ちなみに筆者は2時間以上粘ったが、台詞を聞けなかった)。両者の作品に共通するのは、個人的な記憶がテーマになっていることであろうか。強度のある表現が個人の枠を突き破り、普遍性へと至る可能性を示すこと。小沢が2人を選んだ意図はそこにあったと思う。
2016/02/02(火)(小吹隆文)
FREE SOUND 解き放たれるオト展
会期:2016/01/28~2016/04/10
グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル The Lab. みんなで世界一研究所2F[大阪府]
大阪のナレッジキャピタルとオーストリア・リンツのメディア・アート機関アルスエレクトロニカのコラボ企画第5弾。ベルリンを拠点に活動するサウンド・アートのパイオニア、クリスティーナ・キュビッシュの《Cloud》と、日本の若手、和田永の《時折織成──落下する記録──》の2作品を紹介している。キュビッシュの作品は約800メートルのケーブルを雲状に絡めた外見をしており、複数の場所で記録した電磁場の音を、特殊なヘッドフォンを装着して聞くことができる。和田の作品はオープンリールのテープデッキからゆっくりと落下するテープが重低音と共に美しい模様を描き、一定時間ごとにテープが逆回転を始めて音楽を奏でるというものだ。わずか2作品の展示だが、関西ではメディア・アートと接する機会が少ないこともあり、とても刺激的だった。ナレッジキャピタルでは科学と芸術をまたぐ企画を積極的に行なっており、その効果は近い将来にじわじわと現れるだろう。
2016/01/28(木)(小吹隆文)
FUKUSHIMA SPEAKS アートで伝え考える 福島の今、これからの未来
会期:2016/01/22~2016/01/31
京都造形芸術大学 ギャルリ・オーブ[京都府]
東日本大震災と福島第一原発事故の後、文化芸術の力による福島の復興を目指し福島県で始められた「はま・なか・あいづ文化連携プロジェクト」。本展は、その活動から生まれた美術作品を紹介し、復興に向かう現地の姿を伝えると同時に、問題意識の共有を図ろうとするものだ。出展作家は、美術家の岡部昌生と安田佐智種、華道家の片桐功敦、写真家の赤坂友昭と本郷毅史の5名。彼らがそれぞれの視点と手法で捉えた福島は、圧倒的なスケール、真摯な眼差し、鎮魂の情をもってこちらに迫ってきた。出展作家や福島県の美術館・博物館学芸員が参加したトークイベントも多数開催され、主催者の意図はひとまず達成されたと思う。1995年の阪神・淡路大震災の折、関西在住の筆者は東京発の報道に隔靴掻痒の感を幾度も覚えた。そして今、自分は逆の立場にいる。当時の記憶と現在の被災地への思いを風化させないために、このような機会を設けてくれた主催者に感謝したい。
2016/01/26(火)(小吹隆文)
佐々木真士展──大河のうた──
会期:2016/01/26~2016/01/31
ギャラリー恵風[京都府]
大学卒業と同時にインドを旅し、同地の厳しい自然環境とそこで暮らす人々の悲喜こもごもに魅了された佐々木真士。以来、彼は約2年に一度のペースでインドに出かけ、同地を題材にした作品を描き続けている。現地では徹底的に写生にこだわり、幾日も同じ場所に座って描き続けるという。その姿に興味を抱き、声をかけ食事に誘う現地人もいるのだとか。写真を元に制作する作家が多くなった昨今、彼のスタイルはオールドファッションとも言える。実際、佐々木の作風は線描を基本とする正攻法の日本画だ。しかし、五感から得た感興を画面に描ききっているため、作品にはエキゾチシズムを超えた説得力がみなぎっている。これまでの作風は俯瞰の視点と色味を抑えた壮麗さが特徴だったが、新作では人物や群衆を近距離の視点で描き、鮮烈な色彩美を前面に押し出すようになった。この変化が今後どのように昇華されていくのか注目したい。
2016/01/26(火)(小吹隆文)