artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

Behind The Scene スタジオ・ジャーナル・ノック/西山勲写真展

会期:2016/01/20~2016/01/31

iTohen[大阪府]

福岡県でグラフィックデザイナーを生業としていた西山勲。ある日彼は仕事を清算し、2年間の旅に出た。そして世界各地で出会ったアーティストを取材し、原稿・撮影・編集・デザインを一人でこなして、『Studio Journal Knock』なる雑誌を作り上げてしまう。本展は、同誌に掲載した写真約50点をピックアップした個展である。見知らぬ土地で初めて出会う人間に取材を行なうのは緊張感を伴う行為だが、作品から滲み出るのは、くつろぎ、親密感、好奇心といったポジティブな感情ばかり。このリラックスした空気感こそが本展のコアであろう。肝心の雑誌も展示・販売されていたが、とても個人制作とは思えない上質さだった。地方で、個人で、ここまでできる時代なのか。関西でフリーライターをしている筆者にとっても、励みになる展覧会だった。

2016/01/21(木)(小吹隆文)

プレビュー:作家ドラフト2016 近藤愛助 BARBARA DARLINg

会期:2016/02/02~2016/02/28

京都芸術センター[京都府]

若手アーティストの支援・発掘を目的とした京都芸術センターの公募展。毎回1人(組)の審査員を立てるが、今回その任を務めるのは美術家の小沢剛だ。彼が104件の応募から選んだのは近藤愛助とBARBARA DARLINg(バーバラ・ダーリン)の2人。近藤の作品は、彼の祖父が第2次大戦中に収容されていたアメリカの日系移民収容施設で撮影した写真と、彼自身が祖父になり替わるパフォーマンス映像。ダーリンの作品は、東北の海岸を車で旅するロードムービーで、台詞は「愛している」の一言のみという。両者に共通するのは、記憶が土地や個人を突き抜けて社会への問題提議になるということ。会期中の2/7(日)には2人の作家と小沢によるトークも予定されており、それぞれの作品や選出理由をより詳しく知ることができるだろう。

2016/01/20(水)(小吹隆文)

冬木遼太郎展

会期:2016/01/19~2016/02/06

SAI GALLERY[大阪府]

「STOP THE TIME」というフレーズをしばしば作品の一部に用いる冬木遼太郎。本展では、ミラーボード製の「STOP THE TIME」の文言で、画廊の3壁面を埋める作品を発表。他には、氷製の2匹のネズミとそれらが溶けた痕跡を同じアングルで撮影した写真、二股の木の枝を途中で繋ぎ合わせた作品、大きな縦長のミラーボードの前に、背面にコローの自画像の模写を描いた円形のミラーボードを吊るした作品などがあった。ミラーボードには周囲の情景が写り込むが、それらは常に今でしかない。その意味で、あくまでも解釈上ではあるが、冬木は時間を止めることに成功したと言えるだろう。現実に時間を止めることは不可能だが、アートなら創造力とレトリック次第で不可能を可能にできる。冬木が本当に表現したいのは、アートへの信頼かもしれない。

2016/01/19(火)(小吹隆文)

トーマス・ノイマン MORI・Thomas Neumann・ISHI

会期:2016/01/16~2016/02/13

ギャラリーノマル[大阪府]

2013年にギャラリーノマルで2人展を行ったノイマンが、昨年10月に出版した写真集『The Japanese Series』の収録作品で日本初個展を開催した。作品は《MORI》《ISHI》と題した2つのシリーズ。《MORI》は山林を高い位置から見下ろす角度で撮影したストレート写真で、ネガ画像を定着させている。そのせいか水墨画のような仕上がりで、最初のうちはCGかと思った。それに対して《ISHI》は鑑賞用の水石をアップで撮影したものだ。どちらも長辺1メートルを超えるラージサイズでプリントされており、それこそ山水画の屏風や掛軸を見ているような気持にさせられる。縮景から大自然を想像するのは東洋美術の伝統だが、それが通用するこれらの作品は多くの日本人にとってアプローチしやすいものであろう。トーマス・ルフに師事し、コンセプチュアルな思考が骨の髄まで染み込んでいるであろうドイツ人作家から、このような作品が生み出されたのは興味深いことだ。

2016/01/19(火)(小吹隆文)

エッケ・ホモ 現代の人間像を見よ

会期:2016/01/16~2016/03/21

国立国際美術館[大阪府]

「エッケ・ホモ(この人を見よ)」。新約聖書に登場するこの有名な言葉から、本展を宗教美術展だと早合点する人がいるかもしれない。しかし実際は、戦後現代美術が人間をどのように表現してきたのかを、約100作品でたどる企画だ。展覧会は3部構成をとる。第1部「日常の悲惨」は、鶴岡政男、山下菊二、中村宏などによる戦後日本の社会問題をテーマにした作品で始まり、工藤哲巳、荒川修作を経て、村岡三郎、A・ウォーホル、G・リヒターらに連なる。第2部「肉体のリアル」では、小谷元彦、オルラン、F・ベーコン、塩田千春などの赤裸々な表現が連続する。盛り上がりという点ではここがピークであろう。第3部「不在の肖像」は、G・シーガル、内藤礼といった内省的な作家や、北野謙、B・ボーネン、A・ジャコメッティなどによるアイデンティティの揺らぎあるいは複数のアイデンティティを捉えた表現が並び、J・ボイスと島袋道浩の作品で静かに幕を閉じる。ハードな表現が数多く並ぶゴリゴリの現代美術展ではあるが、人間という主題は普遍的なので、必要以上に小難しく考える必要はない。むしろ自分の側に引き寄せて作品と向き合えば、得るものが多い機会になるだろう。また、出展作品の大半(約90点)が国立国際美術館の所蔵品であり、コレクションの厚みが窺える展覧会でもあった。

2016/01/15(金)(小吹隆文)

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