artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
プレビュー:第2回PATinKyoto 京都版画トリエンナーレ2016
会期:2016/03/06~2016/04/01
京都市美術館[京都府]
2013年から始まった大規模版画展。特徴は、経験豊かなコミッショナーによる推薦制をとっていること、一作家あたりの展示スペースが広大であること、表現形態の縛りが緩やかであることだ。これにより作家の質と表現の多様性を担保し、版画芸術の新たな発信拠点となることを目指している。2回目の今回は、池田俊彦、小野耕石、加納俊輔、金光男、林勇気、門馬英美など俊英20名が出品。なかには版画とは呼べない作品もありそうだが、それを許容するのも本展のユニークなところだ。デジタル技術の進歩や印刷分野の多様化により、今後の版画は大きな変化が予想される。一方、「刷る」という基本が改めて見直される場合もあるだろう。そうした長期的・複眼的思考で本展に臨めば、きっと楽しめると思う。
2016/02/20(土)(小吹隆文)
プレビュー:美術と音楽の一日 rooms
会期:2016/03/05
芦屋市立美術博物館[兵庫県]
サウンド・アーティストの藤本由紀夫、映像作家の林勇気と音楽家の米子匡司、サウンドインスタレーションの原摩利彦、ミュージシャンのharuka nakamura、西森千明、Polar Mが集い、村上三郎と小杉武久の館蔵品も加わって、視覚や聴覚といった感覚の枠組みにとらわれない芸術体験が繰り広げられる。タイムスケジュールに沿って出し物が入れ替わるのも美術館では珍しく、美術ファンと音楽ファン双方にとって新鮮な体験になるのでは。1日限りというのは勿体ないが、逆に一期一会の醍醐味が増すだろう。早春の一日を、美術と音楽に浸ってまったり過ごすのも悪くない。
2016/02/20(土)(小吹隆文)
加納光於展
会期:2016/02/15~2016/02/27
ギャルリ プチボワ[大阪府]
1970年代の『朝日ジャーナル』(朝日新聞社)、『展望』(筑摩書房)、『花椿』(資生堂)などの雑誌に、挿絵、カットとして掲載された版画と、未発表のドローイング約100点を展示。いずれも作家本人が所蔵していた秘蔵コレクションともいえる品々である。その性格上、どの作品も小品で、作風はおもに生き物や幾何学形態などのモチーフを組み合わせたモノクロの線描だった。すでに版は失われており、現品限りなため希少性が高い。先に行なわれた東京展で既に多くが売られたとのこと。大阪展は売れ残りの寄せ集めだったかもしれないが、それでも貴重な機会を設けてくれた画廊には感謝したい。ただ、レアな作品群の散逸は非常に残念だ。奇特なコレクターが一括購入するなどして、コレクションが守られれば良かったのだけど。
2016/02/15(月)(小吹隆文)
西野彩花個展「一齣」
会期:2016/02/10~2016/02/23
DMO ARTS[大阪府]
玄関周りの植栽や積み重ねたガラクタなど、日常生活で出会った生活感あふれる情景(主に下町)をスナップ撮影し、キャンバス上でトリミングを施し、ソフトフォーカスで表現した西野彩花の絵画。モチーフや手法は必ずしも珍しくないが、余白の生キャンバスと描画部分の対比、夕景を思わせる黄色がかった色調、強調された陰影表現が効果的で、独自の絵画世界の構築に成功している。また、作品名に撮影場所の地名を入れているのも、効果的な演出と言える。他には玩具などの品々を組み合わせた静物画もあったが、現時点では風景画の方が圧倒的に良い。作家は昨年3月に美術大学を卒業したばかりの新鋭。今後の活躍が楽しみだ。
2016/02/12(金)(小吹隆文)
静物学 小林且典展
会期:2016/01/30~2016/02/28
ギャラリーあしやシューレ[兵庫県]
原型制作から鋳造までを自身で行なうブロンズ彫刻と、それらを卓上に配置して撮影した写真、木彫などの作品で知られる小林且典。本展でもそれらの作品が展示され、細部まで考え抜かれた配置で彼らしい美の世界を作り上げた。小林のブロンズ彫刻といえば、型から抜き出した状態そのままの生々しい姿が特徴。見る者はそこに侘びた味わいや無垢の精神性を見出す訳だが、近作の中には表面をツルツルに磨いた光り輝くものがあり、彼の制作が新たな段階に入ったことを窺わせた。また、同じモチーフを繰り返し使用し、そのバリエーションを写真に収める彼の手法は、イタリアの画家モランディにも通じる美意識が感じられる。それは小林がイタリアでブロンズ彫刻を学んだことと関係しているかもしれないし、こちらの勝手な妄想かもしれない。ただ、画廊オーナーも同じことを考えていたらしく、本展の会期を兵庫県立美術館の「モランディ展」に合わせていたのであった。
2016/02/07(日)(小吹隆文)