artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

プレビュー:コレクション2 ドーミエどーみる? しりあがり寿の場合

会期:2016/01/16~2016/03/06

伊丹市立美術館[兵庫県]

コレクションの方針の一つに「風刺とユーモア」を掲げる伊丹市立美術館。その代表であり、世界有数の規模を誇るのが、19世紀パリで活躍した風刺画家オノレ・ドーミエ(1808~1879)の作品群である。本展では、漫画家のしりあがり寿(1958~)が、ドーミエ作品を元に新作を制作。時空を超えた日仏アーティストの共演が行われる。ドーミエの作品には政治風刺が多数あり、非常に辛辣な表現も多い。昨年のシャルリー・エブド事件でも取り沙汰されたフランスの風刺の伝統を知る意味でも、本展は意義深いと言えるだろう。また、ドーミエを知ってもらうきっかけとして、有名な日本人漫画家とカップリングさせる手法も秀逸だ。

2015/12/20(日)(小吹隆文)

三角みづ紀と14人の流動書簡 封をあける,風をやぶる、そらんじる

会期:2015/12/16~2015/12/27

iTohen[大阪府]

現代詩手帖賞、中原中也賞、萩原朔太郎賞など多数の受賞歴を持ち、音楽活動も行うなど、若手詩人のなかでも抜きん出た評価を得ている三角みづ紀。彼女を軸に、詩と美術と音楽が往復書簡のようにコラボレートした。展覧会の構造は以下のような具合。まず三角が7篇の詩を創作し、画家や写真家が詩を元に美術作品を制作、その作品から三角が新たに詩を書き起こし、今度は音楽家へとリレーしていく。詩と美術と音楽の共演は必ずしも珍しくないが、詩を軸に反響を繰り返す本展のような形式はユニークだ。また、音楽作品は7作品中4作品を展覧会初日に公開し、残る3作品は会期中のライブイベントで発表したが、この仕掛けも効果的だった。なお、三角以外の参加作家は、美術が、いぬ、sakana、植田志保、川瀬知代、塩川いづみ、ミロコマチコ、ookamigocco、音楽が、森ゆに、YTAMO、木太聡、織原良次、青木隼人、坂東美佳、小島ケイタニーラブである。

2015/12/17(木)(小吹隆文)

松井利夫展

会期:2015/12/15~2015/12/20

ギャラリー恵風[京都府]

会場には茶碗が11点。それらはどれも岩のような異形の外観を持ち、うち9点の見込み(内側)には漆が塗られていた。作品は2系統に分けられる。8点は、京都大学構内で見つかった弥生時代の水田遺跡を掘り下げて縄文時代の地層から粘土を採取し、同志社女子大学構内の平安時代の邸宅跡遺跡の柱穴に詰め込んで型を取り、野焼きしたものだ。残る3点は、角砂糖を積み上げて型を取り、窯で焼いたものである。見込みに漆を塗ったのは、水漏れ防止という実用的な理由もあるが、縄文土器には同様の事例が多々あるという考古学の常識(しかし一般的にはさほど知られていない)に基づいている。松井はこれまでも、中古陶磁器を再焼成してよみがえらせる「サイネンショー」や、小豆島の石と醤油でやきものを作るなど、コンセプチュアルな作陶を行ってきた。今回の新作も、彼らしい意外性に富んだチャレンジだった。

2015/12/15(火)(小吹隆文)

横尾忠則 幻花幻想幻画譚

会期:2015/12/12~2016/03/27

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

瀬戸内晴美(寂聴)が1974~75年に新聞連載した時代小説『幻花』。横尾忠則が担当した同作の挿絵原画371点を、はじめて一堂に展示したのが本展である。小説は室町幕府の衰退を一人の女性の視点から綴ったものだが、横尾は彼らしい自由奔放なスタイルで挿絵を制作。映画のように同じ場面を少しずつ変化させていくかと思えば、キリスト、UFO、瀬戸内自身を登場させる、原稿が出来上がる前に挿絵を描いてしまうなど、実験的な手法を次々と繰り出していた。原画は約8センチ×14センチと小さいが、作品の出来が素晴らしいため、まったく気にならない。本作は横尾自身が「技術的・体力的に、もう二度とできない」、「自身のイラストレーションの総決算」とまで語った自信作であり、出版から約40年を経ての全点初公開に興奮を禁じ得なかった。

2015/12/11(金)(小吹隆文)

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ジョルジョ・モランディ ─終わりなき変奏─

会期:2015/12/08~2016/02/14

兵庫県立美術館[兵庫県]

卓上の静物画や風景画など、限られた主題を描き続けたことで知られるジョルジョ・モランディ(1890~1964)。筆者は、25年前(1990年)に京都国立近代美術館で行われた個展で、はじめて彼を知った。その際、変奏曲のように少しずつ姿を変えていく静物画に深く感じ入ったことを、今でも鮮明に覚えている。彼の作品は具象画だが、絵画を構成する種々の要素を分解・再構成した趣があり、抽象画やコンセプチュアルアートとして解釈することもできる。その多面性・奥深さが当時の自分を捉えたわけだが、四半世紀の年月を経て再会したモランディの作品は、当時と同じ輝きをもって眼前に鎮座していた。本展に限らず、著名な美術家の企画展は数十年に一度しか行なわれないケースがままある。気になる企画展は無理をしてでも見ておくべきだと、あらためて実感した。

2015/12/11(金)(小吹隆文)

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