artscapeレビュー
田中秀介「私はここにいて、あなたは何処かにいます。
2015年08月01日号
会期:2015/06/30~2015/07/12
Gallery PARC[京都府]
個性豊かな具象絵画で早くから美術関係者の注目を集めていた田中秀介。具象と言っても彼の場合、多分に心象を含んだ情景で、一種の妄想あるいは切迫した心理を描いたものであった。しかし本展で彼が発表したのは、身の回りの情景を描いた日常的世界であり、その点でこれまでの作品とは趣を異にする。特徴的なのは筆さばきの達者さで、特にスピード感のある横方向のストロークを重ねた色面は快感を覚えるほどだった。つまり田中は転向した訳だが、筆者が思うに、この転向は歓迎すべきものである。旧作と新作を比べてみると、新作のほうが明らかに伸び伸びとしており、作家の資質が素直に出ているからだ。観念的な呪縛から解き放たれ、私小説的世界に新たな活路を見出した田中。これからの飛躍に期待大である。
2015/07/04(土)(小吹隆文)