artscapeレビュー

小吹隆文のレビュー/プレビュー

土井沙織 展「わたしのイコン」

会期:2014/12/06~2014/12/20

蔵丘洞画廊[京都府]

土井沙織は愛知県出身で、2010年に東北芸術工科大学大学院を修了した画家。主に公募展で発表しており(個展は過去に一度)、関西では本展が初お目見えとなった。作品の主なモチーフは動物で、野太いタッチと鋭い目の描き方に特徴がある。本展のタイトルに「わたしのイコン」とある通り、動物を通して神仏のごとき超越的な存在を描こうとしているのかもしれない。どの作品も有無を言わせぬ存在感があり、時代や流行に左右されない作家になりうる才能と見た。なかでも、画廊の壁面を目いっぱい使った、天地約1.8メートル×横幅約4.5メートルの大作(画像)は素晴らしかった。

2014/12/09(火)(小吹隆文)

注目作家紹介プログラム チャンネル5──木藤純子「Winter Bloom」

会期:2014/12/06~(12/22は屋外から見る特別展示)

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県立美術館が2010年から行なっている注目作家紹介プログラム。今年は関西を中心に活動する木藤純子をピックアップした。木藤は主にインスタレーションを手掛けるアーティストで、光や風などの自然の要素、会場の構造などにほんの少しだけ手を加えることで成立する繊細な作品で知られている。本展では、美術館のアトリエ1で冬枯れの枝を描いた壁画と時折落下する白い花びらによるインスタレーションを展示したほか、エントランスホールでは花びらが少しずつ落下する作品を設置した。また、ホワイエではグラスを底から覗くと青空が見える小オブジェをこっそりと配置し、大ひさし下では1枚の小さな花びらが風に揺られて宙を舞う作品を展示した。いずれも漫然としていたら見つけることさえ難しい作品だが、それゆえ見る側の感覚が研ぎ澄まされ、作品や場との新たな関係を見つけ出すことができる。同時期に開催中の大規模な企画展に訪れていた大勢の観客のうち、何割の人が彼女の作品に気付いたのだろう。その数は定かではないが、気付いた人はきっといままでに味わったことがない美術体験をしたはずだ。

2014/12/06(土)(小吹隆文)

大江慶之 個展「Yアトリエ」

会期:2014/11/21~2014/12/20

TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]

体操服姿のナイーブな少年をモチーフにした立体作品(作家自身を投影?)で知られる大江慶之が、3年ぶりの個展を開催。頭部が鶏や花束の髑髏になった少年(画像)、アゲハチョウの羽根を広げて新聞を読む仕草をする少年、アカエイを持つ少年など、さまざまなポーズの立体作品が展示された。彼の作品は、顔や手足など身体部分の造作が極めて緻密であり、そこに布地製の体操服や運動靴のリアリティが加わることにより、彫刻と人形の要素を兼ね備えた独自の世界をつくり出している。アゲハチョウやアカエイなどの仕上がりも見事で、細部まで一切隙がない。また本展では、彼の作業場の一部を画廊に持ち込み、制作の現場を見せる演出も行なわれた。この演出は評価が分かれるところだが、どこか超然とした作品に人間臭い一面を付与する効果はあったのではないか。

2014/11/28(金)(小吹隆文)

TRACES 三人の跡──山口和也 展「KAKIAIKKO」

会期:2014/11/22~2014/11/30

trace[京都府]

美術家であり、写真家であり、オルタナティブスペース「trace」の運営者でもある山口和也。彼が精力的に行なっている活動のひとつが「KAKIAIKKO」だ。これは音楽家と1対1でステージに立ち、互いに即興で作品をつくり上げていくものである。本展では、過去2年間に行なってきた「KAKIAIKKO」から絵画6作品と、ドローイングと版画の小品を展示した。生成りのキャンバスに激しいタッチと色彩のせめぎあいを刻み込んだ作品は、ライブの余韻を生々しく伝えており、独立した絵画としても十分魅力的だ。ただ、ライブ時の音楽やノイズ込みで見せることができれば、さらに迫力が増すだろう。山口自身、そうした展開や、過去作品すべてを網羅する展覧会を計画しており、現在多方面にプレゼンを行なっている。彼の理想の展覧会が、一日も早く実現することを期待している。なお、本展は3人の美術家の作品を連続個展形式で紹介する展覧会プログラム「TRACES」の第3弾として行なわれたものだ。

2014/11/25(火)(小吹隆文)

吉川舞 展

会期:2014/11/24~2014/11/29

ギャラリー白3[大阪府]

本展は、新進陶芸家・吉川舞の初個展だ。作品は、量産の素焼きの皿の上に、絵付けの図柄の転写シールと、ファッション雑誌などから抜き出した写真画像をコラージュして配したもの。手わざの対極にあるような作品だが、レイアウトのセンスがよく、ポップでお洒落な世界をつくり出すことに成功している。影響を受けた作家はグレイソン・ペリーと聞き、なるほどと思った次第だ。彼女はまた、新人なので、作風を云々するのはまだ早い。いまのフレッシュな感覚を忘れずに制作に邁進してほしい。

2014/11/24(月)(小吹隆文)