artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
服部しほりの日本画─か弱き蒼氓ども─
会期:2014/11/08~2014/11/22
蔵丘洞画廊[京都府]
筆者が服部しほりの作品を初めて見たのは、確か2011年の京都市立芸術大学の卒業制作である。その圧倒的な運筆力と、鼻や耳に特徴がある個性的な人物表現、一種異様な世界観に、大層驚かされたものだ。その後何度か作品を見ているが、今回の個展を見ると、彼女の画力はますます充実している。特に腕や足の筋肉の描写が素晴らしい。聞くところによると、相撲部屋の稽古を見学させてもらい、制作に生かしているらしい。また、金屏風に描いた大作が1点あったが、この経験も今後の糧になるだろう。あとは作品の世界観にどれだけ普遍性を持たせられるかだ。今までの作品は確かにユニークだが、そうであるがゆえにひとり語りの印象が強い。たとえば主題や登場人物を美術史とリンクさせるなど、第三者の理解につながる糸口を設けてみてはどうだろうか。
2014/11/11(火)(小吹隆文)
Akinori UENO Miki eco echo ego
会期:2014/11/04~2014/11/16
GALERIE H2O[京都府]
壁面に2点の絵画がある。1点は植物を描き、もう1点は都市風景を真上から描いたものだ。やがてCG映像とピアノ音楽が始まり、絵画と混ざってファンタジックな世界をつくり上げる。植物には木漏れ日が差し込み、都市風景には無数の光の粒が浮遊する。画面からビルが立ち上がり、光りの雲に覆われたかと思うと、赤い光線が高速で動き回り、2点の絵画を包み込む。やがて壁面全体が光の粒に包まれ、草木がなびく草原へと変化し、再び光の雲に覆われたかと思うと、色鉛筆のような質感の無数の直線が走り、最後は水滴に覆われた画面が崩落して、静寂と共にもとの状態に戻るのだ。絵画と映像と音楽がこの上なくマッチした、4分45秒の小トリップであった。
2014/11/11(火)(小吹隆文)
奈良・町家の芸術祭はならぁと(「こあ」部門)
会期:2014/11/07~2014/11/16
郡山城下町、奈良きたまち、生駒宝山寺参道[奈良県]
2014/11/02付の当レビューで、「木津川アート」について論評したが、この「はならぁと」も奈良県内各地で行なわれている地域アート・イベントだ。エリアが県内に広がっている分、運営は格段に複雑である。今回からアート・ディレクターに就任した山中俊広は、イベントをキュレーターによる企画展の「こあ」部門と、一般参加の「ぷらす」部門に分離し、「こあ」部門を、生駒宝山寺参道、奈良きたまち、郡山城下町の3会場に設定した。大風呂敷を広げるのではなく、集中と選択をはっきりさせ、限られた予算を効果的に使う方向にシフトしたのだ。筆者は「こあ」部門しか見ていないが、現時点の感想を言うと、「3会場とも一定水準以上の展覧会を実現していた。しかし、全体としてやや華やぎに欠ける」。これは筆者の取材日が平日の雨天だったことが影響したのかもしれない。とにもかくにも、新体制の「はならぁと」は船出した。来年のさらなる発展を期待している。なお、今年から始まったバスツアーはいいアイデアだと思う。公式ガイドブック(有料)の出来もよかった。
2014/11/09(日)(小吹隆文)
Open Storage 2014─見せる収蔵庫─
会期:2014/11/08~2014/11/24の金土日祝
MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)[大阪府]
大阪市のベイエリアに位置する住之江区の北加賀屋。この一帯は工業地帯だが、産業構造の変化に伴い、近年は工場・倉庫の空き家が増えている。そうした施設をアートで再生させたのが本展である。「オープン・ストレージ」とはミュージアムでは展示し切れない膨大なコレクションを、研究・鑑賞などの目的で限定的に公開する施設や鑑賞ツアーなどを指す言葉だ。欧米で始められたものだが、日本ではほぼ前例がないという。会場には、ヤノベケンジの《ジャイアント・トらやん》や《ラッキー・ドラゴン》をはじめとする巨大彫刻、やなぎみわの《「日輪の翼」上演のための移動舞台車》、久保田弘成の《大阪廻船》、宇治野宗輝の《THE BALLAD OF EXTENDBACKYARD》などの巨大メカ系作品が並び、金氏徹平は新作の公開制作を行なった。かつて日本の高度成長を支えた重厚長大産業の遺構が、時を経て芸術作品の発信地へと再生した事実が感慨深い。主催者のおおさか創造千島財団では、今後も同スペースをオープン・ストレージや大作の制作場として活用していく予定だという。近年停滞気味の大阪のアートシーンを活性化する意味でも、有意義な試みとして評価したい。
2014/11/07(金)(小吹隆文)
木津川アート2014 百年の邂逅
会期:2014/11/02~2014/11/15
木津川市の近鉄高の原駅、山田川駅、JR西木津駅周辺[京都府]
昨今は、いわゆる「地域アート」が隆盛しており、全国で無数の地域アート・イベントが開催されている。一方、文芸評論家の藤田直哉が『すばる』10月号で「前衛のゾンビたち─地域アートの諸問題」と題した論考を発表するなど、地域アートへの批判的見解も見受けられるようになってきた。筆者自身も現状は供給過剰だと思う。独善的な思い入れや安易な思惑だけで実施されているイベントは淘汰され、地域住民と確かな関係を結び、草の根レベルで共感を得ているイベントのみが生き残るだろう(行政の理解と長期的な支援も必要だが)。その点「木津川アート」は、年々地域住民の共感が増している良質な地域アートと言える。このイベントは毎年木津川市内の異なる地域で開催されているが、それゆえ各地域の市民が交流・融和する場として機能しているのが興味深い。今年の会場は私鉄沿線のニュータウンと、伝統的な集落という、隣接する対照的な地域であった。丘陵地帯を隔てて激変する環境を、美術作品がしっかり結んでいたと思う。決して大規模なイベントではないが、着実に育てて行けば、きっと木津川市の財産になるだろう。
2014/11/02(日)(小吹隆文)