artscapeレビュー
小吹隆文のレビュー/プレビュー
震災から20年 震災 記憶 美術
会期:2014/12/16~2015/03/08
BBプラザ美術館[兵庫県]
今年は1995年に起きた阪神・淡路大震災から20年という節目の年であり、兵庫県内の美術館、画廊、アートスペースなどで相次いで震災関連の企画が予定されている。本展もそのひとつであり、アーティストの目から見た震災を軸に13人と1組の作品が展示された。作品はどれも主観的だが、それゆえ強烈な表現が多く、突き刺さるような緊張感が館内にみなぎっていた。金月炤子のオブジェと栃原敏子の絵画&オブジェはその代表例である。一方、古巻和芳+あさうみまゆみ+夜間工房のインスタレーション(画像)は、室内を模した空間に置かれた瓦礫の山と時計が刻む音の対比が印象的で、幻想と鎮魂が入り混じった内省的表現が見られる。また、全壊した津高和一邸と津高家の猫を撮影した吉野晴朗、瓦礫となった神戸の街を描いたスケッチを大量出品した堀尾貞治からは、アーティストの性が色濃く感じられた。本展は規模こそ大きくはないが、作品の強度と密度の高さで観客に衝撃を与えるであろう。
2015/01/11(日)(小吹隆文)
東近江市ゆかりの芸術家シリーズ Vol.6 北山善夫 展 大声で笑い歌い、時には泣き
会期:2015/01/10~2015/01/30
東近江市立八日市文化芸術会館 展示室[滋賀県]
竹と木と紙などを複雑に組み上げたオブジェや、土偶の人型とそれをもとに描いた細密画の大作で知られる北山善夫。筆者はこれまでに何度も彼の作品を見てきたが、美術館の常設展示か画廊での新作展ばかりで、一度にまとまった数を見たことはなかった。本展では、絵画6点、彫刻1点、インスタレーション2点が展示され、彫刻が少なかったとはいえ彼の仕事を概観することができた。生、死、自我、宇宙、社会、歴史などのテーマが渦を巻いているかのような作品世界は圧巻で、一作家の全体像を示すことの大切さを改めて感じた次第。今後、美術館で本格的な回顧展が行なわれることを期待している。
2015/01/09(金)(小吹隆文)
プレビュー:ギャラリー・ソラリス オープニング企画写真展「アンセル・アダムス展」
会期:2015/01/13~2015/01/25
ギャラリー・ソラリス[大阪府]
大阪・南船場の写真ギャラリー「NADAR/OSAKA」が2014年末で閉廊し、その場を引き継ぐかたちで「ギャラリー・ソラリス」がオープンした。同画廊のディレクター橋本大和は写真家であり、NADAR/OSAKAのマネージャーを務めた人物。大阪の写真文化を担うキーパーソンとして今後の活躍が期待される。肝心のオープニング企画は、ヨセミテ渓谷やカリフォルニアの雄大な自然を撮影したモノクロ写真で知られる、風景写真の巨匠アンセル・アダムスの個展だ。展示作品14点はヨセミテ渓谷のシリーズで、アダムスのアシスタントだったアラン・ロスによるオリジナル・ネガからのゼラチンシルバープリント(8×10サイズ)である。銀塩写真の教室やワークショップを積極的に行なっていく同画廊にとって、これほどふさわしい人選はないだろう。新ギャラリーの門出を祝福すると同時に、多くの写真ファンに愛される画廊となることを期待する。
写真:
Photographed by Ansel Adams � 2015 by The
Trustees of the Ansel Adams Publishing
Rights Trust
2014/12/20(土)(小吹隆文)
フィオナ・タン──まなざしの詩学
会期:2014/12/20~2015/03/22
国立国際美術館[大阪府]
中国系インドネシア人の父とオーストラリア人の母のもと、インドネシアで生まれ、オーストラリアで育ち、その後ヨーロッパに移住して現在はオランダのアムステルダムを拠点に制作活動を行なうフィオナ・タン。本展は、彼女の初期から近年の映像作品14点を紹介する大規模展だ。彼女の作品は、初期作品では、坂道を転げ落ちる様子を捉えた《ロールI&II》(1997)や大量の風船で身体を浮かせる《リフト》(2000)など、運動や身体感覚にまつわるものと、《興味深い時代を生きますように》(1997)など、自らの複雑な出自をテーマにしたドキュメント調のものがあり、それが近年になると《ライズ・アンド・フォール》や《ディスオリエント》(ともに2009)など記憶をテーマにした作品へと移り、《プロヴナンス》(2008)、《インヴェントリー》(2012)では美術史への言及もテーマになっている。筆者自身は彼女の作品に不慣れなためか、テーマが見えやすい初期作品に共感を覚えた。ただ、彼女の作品は鑑賞に多大な時間を要するため、取材時は各作品を部分的に見るしかなかった。もう一度会場に赴き、たっぷりと時間を取って作品と向き合うつもりだ。そのとき、自分にとってのフィオナ・タン像が初めて明確になるだろう。そうした作品論とは別に、会場構成の巧みさも本展の見どころだ。映像作品では光漏れや音漏れをいかに回避するかが問題となる。本展では暗幕を使わず、展示室へのアプローチを長く取る、入口の壁を斜めにするなどして、洗練度の高い空間と作品の独立性を両立していた。この点は高く評価されるべきである。
2014/12/20(土)(小吹隆文)
山部泰司 展「溢れる風景画 2014」
会期:2014/12/16~2014/12/28
LADS GALLERY[大阪府]
山部泰司が近年手掛けている絵画作品が実に興味深い。それは、洪水に襲われた森林を描いたものだ。なぜ興味深いのか。洪水が東日本大震災の津波を連想させるからではない。作品に用いられている空間表現が非常にユニークだからだ。このシリーズでは一点透視などの西洋絵画的な遠近法ではなく、下から上に行くほど遠景となる積み上げ遠近法が採用されている(ように見える)。しかし、描かれた樹木の大きさはまちまちで、絵画空間の中にいくつもの遠近がランダムに存在している。まるで遠景と近景を無秩序にパッチワークして、全体としてなんとなく積み上げ遠近法らしくまとめたかのようだ。また、本作は最初の段階では複数の色彩による抽象的な線描から始まり、白地で塗りつぶしては描く行為を幾度も繰り返しながら徐々に構図が固まっていく。その過程がハーフトーンの白地を透かして垣間見えることにより、図柄の変遷や時間の堆積というもうひとつの奥行きも表現されているのだ。イメージはすべて赤茶か藍色系の線描で表現されており、西洋古典絵画の手稿を連想させる点も想像力を喚起させられる。本展では、200号×2の大作1点(画像)、200号の大作2点を含む36点が出品された。この精力的な作品点数も、いまの彼の充実ぶりを物語っている。
2014/12/20(土)(小吹隆文)