artscapeレビュー
柏木博『デザインの教科書』
2011年12月01日号
デザイン評論家・柏木博の「デザインについて、制作者の視点からではなく、使い手つまり受け手の側から見ることをテーマにしている」最新刊。著者によるこれまでの論述の総論的内容の「教科書」でありながら、今日的な新しい観点も加味されている。はじめに、「デザイン」を考えるためのいくつかの視点──「心地良さという要因」「環境そして道具や装置を手なずける」「趣味と美意識」「地域・社会」──が提示され、これらのキーワードが各章に敷衍されている。なかでももっとも興味深いのが、第4章「シリアスな生活環境のためのデザイン」および第5章「デザインによる環境問題への処方」であろう。「ソーシャル・デザイン」「環境デザイン」「コミュニティ・デザイン」などの言葉がますます注目される現在、とりわけ3.11を経験した私たちにあっては、この領域に関するより具体的な記述を今後期待したいところだ。本書では、互いの章や各記述が連関しあって「デザイン」の歴史的展開やその重層的な意味が浮かび上がるという形式はとられてはいない(例えば、最後の第8章はデザイン・ミュージアムの事例について記述されている)。雑誌連載の著述に加筆されたため、著者の関心事に応じて構成されているからだ。とはいえ、本書に述べられている通り、「もう少し柔らかく、デザインをどういう視点から見ればいいか」を知りたい読者には最適の書である。[竹内有子]
2011/11/13(日)(SYNK)