2021年09月15日号
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artscapeレビュー

木村恒介 展──光素(エーテル)の呼吸(「クリエイションの未来展」第1回:清水敏男監修)

2014年10月01日号

会期:2014/09/04~2014/11/24

LIXILギャラリー[東京都]

ひとつ目の展示室には、天井まで届く縦長の鏡が6枚並ぶ。鏡に正対して置かれたベンチに腰をかけ、鏡に映る自分を見る。やがて映る姿が陽炎を通して見ているように歪み、変化していることに気が付く。鏡が息をするようにゆっくりとふくらんだりへこんだりしているのだ。6枚の鏡の呼吸の速度は少しずつ異なっていて、それがまた見る者の心にさざ波を立てる。「開港都市にいがた 水と土の芸術祭」(2012)で、木村は美容院に同様の呼吸する鏡を設置した。美容院という人々になじみのある空間。鏡は美容院の椅子の前に収まっている。しかしその鏡が呼吸することで、鏡に映る背景とともに建物のなかの空気がゆっくりと掻き回され、透明なはずのその存在が私たちの意識に上る。これに対して今回の展示はギャラリー。呼吸する鏡をただ一列に並べてもそこに映るのは白い壁だけで、そのままでは掻き乱されるものは何もない。だから、3枚ずつ並べた鏡が二つ、縁を接して互いに映り込むように立てられている。鏡に面したベンチに座ることで、正面に映る私も、側面に映る私も、その場の空気とともに掻き乱されるのだ。もうひとつの展示室には朝、昼、夜と時間を変えて撮影した3枚の写真が展示されている。銀座和光の前で、交差点に向けて三脚に載せたカメラをゆっくりとパンさせて撮影したものだという。5秒間の露出で写し出されたのはさまざまな色彩の光の軌跡。ある場の一瞬を切り取る「写真」に対して、この作品は時間と空間、すなわちその場の空気を記録したものだ。木村の言葉によれば、風景のなかにある雰囲気や空気感、見えない何か。本展の監修者・清水敏男氏によれば、空間を満たす光素(エーテル)。木村の「鏡」と「写真」は、いずれも見えない何かが確実に存在していることを感じさせる仕掛けなのであろう。
 「クリエイションの未来展」は4人の監修者が順番に3カ月の期間でキュレーションする展覧会シリーズ。第1回目を担当する清水敏男氏は銀座・名古屋商工会館跡で開催される「THE MIRROR展」(2014/10/16~11/9)の総合プロデューサーでもあり、連動する企画として鏡を用いた作品を制作している木村恒介をフィーチャーしたとのことである。[新川徳彦]

2014/09/23(火)(SYNK)

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