artscapeレビュー

SYNKのレビュー/プレビュー

絵本づくりのマイスター3人展 西巻茅子・馬場のぼる・わかやまけん

会期:2014/07/04~2014/09/04

ギャラリーA4[東京都]

西巻茅子の『わたしのワンピース』、馬場のぼるの『11ぴきのねこ』、わかやまけんの『こぐまちゃん』。本展に取り上げられている三つの絵本シリーズにはいくつかの共通点がある。いずれも1960年代から70年代にかけての第一次絵本ブームに誕生し、現在まで売れ続けているロングセラー絵本であること。いずれも作家が書いたお話に絵が添えられているのではなく、絵も物語もオリジナルな絵本としてつくられていること。そしていずれのシリーズも「こぐま社」から出版されていること。つまり、これらのこの絵本づくりの中心には、1966年にこぐま社を創設した編集者・佐藤英和氏がいる。タイトルには明示されていないが、この展覧会は絵本のつくり手を見出し、名作を生み出していった佐藤英和氏の仕事を紹介する企画であるといってよい。馬場のぼるの『11ぴきのねこ』の誕生に果たした佐藤氏の役割については以前に調べたことがあったが、「こぐまちゃん」シリーズが4人の人物──デザイナー・若山憲、劇作家・和田義臣、歌人・森比佐志、編集・佐藤英和──による「集団制作」であることは今回初めて知った。絵本づくりに編集者がはたしてきた役割はとても大きいにもかかわらず、絵本の展覧会は子ども(と、その親)向けの企画が多く、作家やその創作活動、原画の展示が中心になってしまい、編集者にまでスポットライトが当てられることは稀である。夏休み中に開催されたこの展覧会は子どもが楽しめる構成になっていながらも、編集者と画家・作家の絵本づくりにかけた情熱をも伝える優れた企画であった。[新川徳彦]

関連レビュー

11ぴきのねこと馬場のぼるの世界展:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2014/09/02(火)(SYNK)

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ノスタルジー&ファンタジー──現代美術の想像力とその源泉

会期:2014/05/27~2014/09/15

国立国際美術館[大阪府]

日本の現代美術家10組を「郷愁」と「空想」という二つのキーワードで紹介した展覧会。出品作家は、柄澤齊、北辻良央、小西紀行、小橋陽介、須藤由希子、棚田康司、橋爪彩、横尾忠則、山本桂輔、淀川テクニック。年代も違えばその作風もまったく異なる10人なので、「ファンタジー」はともかくとして「ノスタルジー」のキーワードでまとめられるのかと思いきや、過ぎ去った時間を懐かしむ気持ちという点で通覧すると、それぞれの個性がより際立ってくるから不思議だった。とりわけ魅入られたのは、木口木版画の第一人者としても知られる柄澤齊の非常に繊細で独特な世界・宇宙観を感じさせる作品群。そして橋爪彩による西洋絵画の古典的なモティーフを用いたスーパーリアルな現代女性のイメージ。アーティストたちがつくりだす迷宮に入り込んだように足を捉われ、惹きつけられた。[竹内有子]

2014/09/02(火)(SYNK)

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ジョージ・ネルソン展──建築家、ライター、デザイナー、教育者

会期:2014/07/15~2014/09/18

目黒区美術館[東京都]

アメリカのデザインディレクター・ジョージ・ネルソン(George Nelson, 1908-1986)の回顧展。ドイツのヴィトラ・デザイン・ミュージアムの企画による世界巡回展で、家具、プロダクト、模型、映像資料など約300点が出品されている。20世紀後半のアメリカデザイン史を知るうえで必見の展覧会。国内では目黒区美術館のみでの開催である。
 1931年にイェール大学で建築の学位をとったネルソンは、ローマ留学を経て帰国後にニューヨークに建築事務所を設立。また『アーキテクチュアル・フォーラム』誌などの建築雑誌の編集の仕事を行なっていた。建築家ヘンリー・ライトとの共著『明日の家』(Tomorrow's House, 1945)に壁面型の収納ストレージウォールを提案。これが『ライフ』誌に取り上げられたことで、家具製造会社ハーマンミラー社の社長D・J・ディプリーの目にとまり、1945年から1972年まで同社のデザインディレクターを務めることとなった。それではハーマンミラー社との仕事でネルソンはなにを成し遂げたのであろうか。いや、このような疑問は奇異に聞こえるかも知れない。家具会社と契約したのだから家具のデザインをしたのだろう、と。ところが実際のところ、かつてネルソンのデザインとされていた仕事のほとんどがネルソン・オフィスの他のデザイナーたちの仕事であり、しばしばそれらに目を通してもいなかったことが明らかになっているのだ。それならば、ネルソンはなにをしたのか。
 ネルソンの功績のひとつは、イームズ夫妻やイサム・ノグチ、アレキサンダー・ジラードらをハーマンミラー社に引き込み、その結果デザイン史に残る多数の名品を生み出させたことと言われる。1947年にネルソン・オフィスに加わったアーヴィング・ハーパーによれば、ネルソンはいわばデザイン界のセルゲイ・ディアギレフだったという★1。自らデザインしなくても優れた才能を見出し、人と人、人と企業を結びつけることで新しいものを生み出す。ネルソンは触媒的才能を持った人物だったのだ。もうひとつの功績は、ネルソン(あるいはネルソン・オフィス)が家具を個別にデザインするのではなく、そこにシステムという考えを持ち込んだことにある。「ベーシック・ストレージ・ユニット」や「アクション・オフィス」といったシステム家具を生み出したばかりではなく、家庭やオフィスインテリア全体のなかでそうしたデザインがどのように位置づけられるかを構想している。現在ではあたりまえとなった考え方であるが、ネルソン以前にこれを具現化した者はいなかったといわれる。さらにいえば、ネルソンはハーマンミラー社の製品だけではなく、ハーマンミラー社自体を「デザイン」した。同社のロゴや広報物をデザインしたばかりではない。伝統的な家具の製造からモダニズムへの転換はネルソンの前任者ギルバート・ロードによってすでに進められていたが、ネルソンはそのイメージをさらに強固なものにした。家具を配置した室内写真をふんだんに載せた高品質なカタログをつくり販売する。同社の顧客である建築家たちがそのような見せ方に興味を持つことを想定してのことだ。いわばCI、ブランドづくりとも言える仕事である。ネルソンがこのように幅広い視点から家具デザインを見ることができたのは、彼が多くの建築家たちの仕事に学んでいたからに違いない。1959年にモスクワで開催された「アメリカ博覧会」の展示デザインをネルソンが手がけることになったのも、高所からデザインを俯瞰する才能があってのことだろう。
 ジョージ・ネルソンは日本とも少なからぬ縁がある。1957年、ネルソンは産業工芸試験所の招きで来日し、デザイン講習会を開催している。その際には、アメリカ市場における日本製家具と北欧家具の位置づけの違いを指摘するなど、デザインとものづくりのあり方について現代にも通じるコメントを数多く残している★2。ハーマンミラー社の仕事を始めてから10年余が経過し、彼のデザインや批評の仕事は日本の工業デザイナーたちにも良く知られた存在であった。帰国後のネルソンは日本デザインの伝道者として日本での体験をアメリカの雑誌に寄稿したり、グラフィックデザイナー・岡秀行が企画した日本のグラフィックデザインと伝統的パッケージデザインの展覧会をニューヨークで開催。また岡の著書『5つの卵はいかにして包まれたか』英語版(Hideyuki Oka, How to Wrap Five More Eggs: Traditional Japanese Packaging, 1975)に序文を寄せている★3。目黒区美術館展では日本独自の企画として、これらの関連資料を展示するコーナーを設けている。
 プロダクト以上に思想において重要な仕事を残したジョージ・ネルソンだが、美術館での企画展であるからモノを中心とした展示になるのはやむを得ないだろう。彼が制作した映像作品は、その思想を理解する手掛かりとなる。ヴィトラ・デザイン・ミュージアムが制作した図録には図版の他に充実した論考が収められているが、残念なことに英語版とドイツ語版のみである。翻訳に手を上げる出版社はないものだろうか。
ポスター、チラシ、リーフレットのデザインは中野豪雄氏。チラシは8種類が用意され、並べるとポスターと同じデザインが現われるしかけだ。[新川徳彦]

★1──マイケル・ウェッブ『ジョージ・ネルソン』(フレックス・ファーム、2003)15頁。目黒区美術館の降旗千賀子学芸員は、同様の理由でネルソンと工業デザイナー秋岡芳夫の仕事の類似を指摘している。
★2──その様子は『工芸ニュース』26巻2号に掲載されている。https://unit.aist.go.jp/tohoku/techpaper/pdf/3859.pdf
★3──岡秀行が蒐集した日本の伝統パッケージは目黒区美術館が所蔵しており、同館では1988年と2011年に展覧会を開催している。


展示風景(上から2枚目の展示什器はヴィトラ・デザイン・ミュージアムの制作)

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2014/08/28(木)(SYNK)

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グラフィックトライアル2014──響。ひびき

会期:2014/06/07~2014/08/24

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

今年で9回目のグラフィックトライアル。解説によれば今年のテーマ「響」は「音や声が空気に乗って伝わること」「音が響くように作用が及ぶこと」だという。参加デザイナーは、浅葉克己、水野学、長嶋りかこ、南雲暁彦らの四氏。グラフィックデザイン界の重鎮・浅葉克己のトライアルは、NASAの探査機が高解像度カメラで撮影した火星の地表と自らの書を組み合わせたグラフィック。墨絵のようなモノクロームの写真と薄墨を滲ませたロゴ表現に銀を用いることで、階調豊かなモノトーンの表現を実現している。水野学は「平和の響き」を青い空と白い鳩とで表現。濁りのない透明感ある青空の表現を試行した結果、空は版を重ねるよりもシアン版1版のみを特色に変えて刷った表現が一番良かったという話は面白い。他にフィルムやデジタルで撮った写真の印刷再現性を試みている。長嶋りかこのトライアルは、黒の質感表現。鉛筆、絵の具、マーカー、ボールペンなど、素材によって異なる黒のマテリアル感を出すために、今回のトライアルのなかでは一番多くの版を重ねている。フォトグラファー南雲暁彦のトライアルは風景写真。ただしオリジナルのプリントを再現するのではなく、フォトグラファーが撮影現場で感じた色につくり込むことを目指す。プリンティング・ディレクターは現場を見ていないので、フォトグラファーの意図を解釈しながら、版を設計してゆくことになる。「響」という言葉は今回のトライアルのためのテーマである同時に、デザイナー、フォトグラファーの表現とプリンティング・ディレクターの技術との響き合いでもあるという印象を受けた。[新川徳彦]

2014/08/24(日)(SYNK)

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IMARI/伊万里──ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器

会期:2014/08/16~2014/11/30

大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]

大阪市立東洋陶磁美術館所蔵で今回初公開となるコレクションに、サントリー美術館、九州陶磁文化館の所蔵品を加え、1660年から1757年まで約100年にわたった輸出伊万里の歴史を辿る展覧会である。すでに最初の巡回先であるサントリー美術館での展示を見ているので、ここでは展示構成のおもな違いについて触れる。この時期の伊万里焼は、国内向けと輸出向けの製品で、種類や意匠も異なっていた。東洋陶磁美術館の伊万里焼コレクションはヨーロッパで蒐集されたいわゆる「里帰り品」であり、ヨーロッパ向けの製品。それをふまえてヨーロッパにおける受容のコンテクストをより強調する構成になっている。具体的には、おもにヨーロッパ向けに生産された大壺の数々が最初の展示室に集められていること。また展示デザインにはヨーロッパ人にとって奢侈品であった東洋磁器をイメージさせる工夫が施されている。エントランスから階段を登り展示室に入るまでの床には赤い絨毯が敷かれ、展示室の入口は重厚なカーテンで飾られている。入ってすぐの壁には、本展を担当した小林仁・東洋陶磁美術館学芸員が撮影した磁器の間のある宮殿・美術館の写真がデコラティブな金縁の額に入れられて展示されている。大壺の大部分は壁面のケースに展示されているが、裏側の意匠も見えるように背後に大きな鏡が設置されている。そしてその鏡もまた額縁付(美容院で用いられるものらしい)。こんな展示は初めて見た。展示ケースの壁面にはヨーロッパ調の濃い色彩の壁紙が貼られているが、その文様はオリジナルという凝りようである。とくに印象に残る作品は《染付高蒔絵牡丹唐獅子文大壺・広口大瓶》。伊万里の染付磁器に長崎で高蒔絵を施した大壺である。もうひとつは《染付蒔絵鳥籠装飾付広口大瓶》。やはり染付に高蒔絵を施し、さらに鳥籠状の装飾が付され、中には木製の鳥が2匹おかれている。明治期の宮川香山の作品を思い出させる奇妙な装飾であるが、マイセン窯でも本作の写しがつくられたということは、ヨーロッパ人好みの意匠だったのだろう。後者は展示室中央の独立ケースに展示されているが、ケースのガラスにカッティングシートで楕円形の窓があけられていて、そこから覗き込む。チラシや図録表紙のデザインを模しているのだ。撮影コーナーにもなっている最後の展示スペースには、ドイツ・シャルロッテンブルク宮殿の図面を背景に大壺3点の露出展示があり、またその隣では同宮殿の磁器の間の写真をバックに記念撮影ができるようになっている。現地に旅した気分になれるかといえば微妙だが、これまたデコラティブなソファに座って写真を撮るとなかなかいい雰囲気だ。それ以外の展示は他館の展示と同様に時系列となっているが、陶磁器専門の美術館の展示ケースと自然光を再現したLED照明の下では、作品はまた違って見える。ポスターやチラシ、展覧会図録、会場デザインはすべて上田英司氏(シルシ)。図録の作品写真撮影は三好和義氏(東洋陶磁美術館所蔵品のみ)。図録の大胆なレイアウトは一見の価値がある。[新川徳彦]


左=展示室入口
右=第一展示室


撮影コーナー


本展図録の一部

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2014/08/20(水)(SYNK)

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