artscapeレビュー
SYNKのレビュー/プレビュー
プレビュー:イメージの力──国立民族学博物館コレクションにさぐる
会期:2014/09/11~2014/12/09
国立民族学博物館[大阪府]
みんぱくの常設展は世界各地から蒐集された人々の生活具、宗教的イメージなどのコレクションを基本的に地域で分けて展示している。それは、それぞれの地域の人々の暮らしと文化の結びつきをわかりやすく伝える方法のひとつである。他方で世界各地の文化の多くはそれぞれが独自に生まれたものではなく、民族の移動や交易などを通じて相互に交流し発達してきたものでもある。常設展では音楽と言語について、このような地理的な枠組みを超えた関係を解説している。それでは、視覚的イメージの異同についてはどうなのか。世界各地の人々がつくり出してきたイメージに、人類の普遍性というものを見出すことはできるのだろうか。「イメージの力」展は、みんぱくのコレクション約600点によってこの課題を考えるという企画。国立新美術館での展示(2014/2/19~6/9)では、天井の高いホワイトキューブに陳列されたさまざまな造形物に圧倒された。みんぱくの企画展示場は国立新美術館とは雰囲気が異なるので、その見せ方の違いも気になるところである。本展のポスターやチラシのデザインは非常にニュートラルで、おそらくそれはすべてのオブジェを等価に扱ったときに見えてくるものを企図していると思われるが、やや地味に過ぎるように思う。国立新美術館では実際に展示を見たときに、ポスターから受けた静的なイメージと展示品から発せられる熱気とのギャップに驚かされた覚えがある。[新川徳彦]
2014/08/19(火)(SYNK)
IMARI/伊万里──ヨーロッパの宮殿を飾った日本磁器
会期:2014/08/16~2014/11/30
大阪市立東洋陶磁美術館[大阪府]
17世紀初頭に佐賀県有田町で創始された日本最初の磁器「伊万里焼」は、オランダ連合東インド会社を通じた海外輸出により大きく発展する。本展は、西欧各地の裕福な人々のあいだで愛でられた「輸出用伊万里」を中心として、中国・景徳鎮で伊万里焼を模倣した「チャイニーズ・イマリ」、オランダのデルフトで伊万里に倣って制作された焼物等、約190点を見ることができる。なんといっても圧巻なのは冒頭に展示されている、王侯貴族の壮麗な宮殿を飾るにふさわしい、高さが90センチもある大型の壺や大瓶。日本の風俗・風景・花鳥を描いた模様図、金襴手の豪華な様式、入念な凝った装飾には、目を瞠らされる。出品作の大壺には、染付に蒔絵(この部分は釉薬をかけずに焼成)を組み合わせて構成し、蓋のつまみ部分には木製の獅子が置かれる、といったように非常に豪華絢爛な美術工芸品がいくつもある。ヨーロッパの人々の熱狂的な伊万里の愛好と、その需要に創意で応えようとした日本の陶工の奮闘努力に思いを馳せ、深く感じ入った。[竹内有子]
2014/08/19(火)(SYNK)
うるしの近代──京都、「工芸」前夜から
会期:2014/07/19~2014/08/24
京都国立近代美術館[京都府]
明治初期から昭和初期の京都の漆工に生じた変化を、社会環境や教育制度の変化、漆工家、図案家たちの活動の軌跡とともに辿る展覧会。器、屏風、棚など300点に上る作品と資料による充実した内容。
江戸末期から明治のはじめ、西洋からさまざまな技術や知識が流入し、工芸にも影響を与えた。西陣の織物にはフランスからジャガード織機が導入され、より複雑な織物が効率よくつくれるようになった。陶芸には西洋の化学的知識が導入され、釉薬や窯が変化した。しかしヨーロッパに存在しない天然の漆を使った工芸は、素材や技術、製造工程のほとんどが変化しなかった。もっとも、なにも変化がなかったわけではない。明治維新を迎えて工芸家たちの多くが国内のパトロンを失った一方で、明治政府の殖産興業・輸出政策により海外あるいは日本を訪れる外国人向けの工芸品需要が高まる。優れた技術が高く評価されると同時に、マーケットの変化は、結果的に漆工の図案、意匠の変化をもたらすことになった。明治8年から18年まで、内務省には製品画図掛という部署が設置され、全国の工芸家に図案を貸与したり、工芸家が提出した図案を修正するという事業が行なわれた。図案の重要性が高まると、図案を創出する人材の育成も急務になる。京都においてその任にあたったのが、京都府画学校で教諭を務めた神坂雪佳や、京都高等工芸学校に赴任した浅井忠であり、彼らが図案を創作するなかで繰り返し参照されたのが琳派の作品であったことが示される。図案のほかに漆器商の果たした役割に言及されている点も重要である。工程毎に分業が徹底されていた漆工では図案の選択から職人の取りまとめまで、漆器商が果たしたプロデューサーとしての役割が大きい。近代工芸においては作家性が強調されるあまり、そのような商人、問屋の存在は忘れられがちなのである。他方で、市場の変化についてもう少し具体的な考察があればと感じた。図案教育が成果を出し始める明治後期には政府の政策は工芸から工業へとシフトする。そのような環境の変化に京都の工芸はどのように対応したのか。漆製品の新しい図案はどのような顧客・市場に受容されたのだろうか(史料が乏しく実証は難しいというが)。
ポスター、チラシ、図録などのデザインは西岡勉氏。さまざまな器から意匠をトリミングして構成したデザインは美術展の広報物としてはとても大胆。中尾優衣・京都国立近代美術館研究員によれば、所蔵者の許可も得て、本展の企画にふさわしく「図案」を強調したデザインになったという。黒、金、朱で構成された美しいチラシ(A4判横開き4頁)に惹かれて京都まで足を延ばしてしまったが、展覧会自体もすばらしかった。期間が短く、また他館に巡回しないのが残念である。[新川徳彦]
2014/08/17(日)(SYNK)
山内陸平『20世紀の椅子たち──椅子をめぐる近代デザイン史』
60年代半ばの米国・イリノイ工科大学大学院でデザインを学び、ジョージ・ネルソン事務所に入所、ハーマンミラー社のプロジェクトに関わった著者による、近現代を代表する椅子を解説した書。本書は、20世紀の椅子の辞書としても構想され、デザイン史上/デザイン思潮上に意義をもつ椅子、シェーカーの椅子からフィリップ・スタルク、ロン・アラッドの椅子まで99点が選択されている。取り上げられる椅子の概説と理解を助ける多数の図版、その後にエッセイが付された二段構成で、読者を飽きさせない。おりしもミッド・センチュリーブームの最中であるが、ネルソンやチャールズ・イームズらが活躍したその時代に、当地でデザイン実践を経験した著者ならではの椅子に対する熱い情熱と知識が随所に感じられる。印象に残るのは、次の一節。「ミッドセンチュリーという時期に、アメリカの公共用家具にどうしてこれほどモダンなものが誕生したのかについて、多くの識者は個々の「デザイン力」を挙げてきた。が違う。(…中略…)ハーマンミラーとノールの両社は製品企画から製造、販売促進など広告からショールームの運営など企業経営の多くのレベルで、デザインを最大の経営資源として生かした見事な「デザインマネジメント」を展開した結果である」。山内自身の経験に裏打ちされた記述には、強い説得力がある。目を見開かされる一冊。[竹内有子]
2014/08/14(木)(SYNK)
いま、台湾──台灣美術院の作家たち
会期:2014/08/09~2014/09/21
松濤美術館[東京都]
台湾美術の振興と国際交流を図ることを目的として2010年に設立された台灣美術院に所属する現代作家たちの作品を紹介する展覧会。所属作家は国立台灣師範大学出身者あるいはその関係者が中心。台湾では戦前から美術教育を担っていたのは師範学校であり、戦後も長らく現・国立台北教育大学(1896年設立)と現・国立台灣師範大学(1946年設立)とが台湾美術界の人材を育成してきたという歴史的経緯があるという。すなわち、現在作家として実力があり、また後進の育成にも努める立場にある人物の多くがいずれかの大学の出身なのだ。出展作には油彩画あり、水墨画あり、具象画あり、抽象画あり、またデザインの仕事もある。台湾は歴史的にさまざまな国々の支配を受け、また山地原住民と漢人とがともに暮らす混合文化の社会であり、芸術もまた諸外国の影響を受けた混合芸術である。国内にあって海外からの影響を受ける一方で、積極的に海外に出て活躍している作家たちも多い。各作家数点ずつの出品なので、気になった作家を見つけてその作品を調べてみるのがよいのだろう。特別出品として鄭善禧の書、ジュディ・オング倩玉の木版画を見ることができる。[新川徳彦]
2014/08/08(金)(SYNK)