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建築に関するレビュー/プレビュー

東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿2

会期:2014/03/10~2014/03/14

[中国・寧波市、杭州市、上海市]

寧波では、王 による《寧波博物館》と、隣接する公園に点在する5つのパヴィリオン、倉庫をリノベーションした寧波美術館のほか、馬清運による《寧波城市展覧館》と《天一広場》を見学した。王 は、スイスのピーター・ズントー、あるいはポルトガルのアルヴァロ・シザのように、地域に根づく建築家としてデザインを展開している。古材も活用するテクスチャーの感覚も素晴らしい。杭州は三度目の訪問だった。今回は、中国美術学院象山キャンパスの王 による一人万博状態と言うべき彼の建築群(ただし、隈研吾の美術館を建設中)、チッパーフィールドによる《良渚博物館》と《九樹村》、磯崎新の《中国湿地博物館》、六和塔、西湖をめぐる。王 の建築は、蘇州の庭園デザインを現代的に解釈し、立体化したかのようだ。むろん、かつてI. M. ペイもこれの引用を試みたが、ポストモダン的で記号的な操作感が強く、王の方がより手触りのある空間的な体験として展開している。中央の北京とは違う、江南の文化を意識した文人的な建築家の態度を感じられ興味深い。最後は上海に戻り、張永和が手がけたインテリアのあるレストランで食事をとる。

写真:上=寧波博物館(設計・王 )中=中国美術学院象山キャンパス(設計・王 )下=良渚博物館(設計・チッパーフィールド)

2014/03/10(月)~2014/03/14(金)(五十嵐太郎)

東北大学五十嵐研究室ゼミ合宿1

会期:2014/03/10~2014/03/14

[中国・寧波市、杭州市、上海市]

東北大学の五十嵐研のゼミ合宿で、中国を訪れた。上海は6回目の訪問になるが(最初は1991年頃)、留学生の辛夢揺と、清華大に留学中の市川紘司のコーディネートによって、まだ訪れていなかった最新の建築を効率的にまわることができた。とくに寧波と杭州で見学した、中国初のプリツカー賞受賞者でもある王 (ワンシュウ)の建築群、上海の屠殺場をリノベーションした1933老場坊、そしてneri&huによるおしゃれなリノベーションが印象に残る。ほかに上海では、磯崎新の《上海大証大ヒマラヤ芸術センター》、安藤忠雄の《震旦博物館》、隈研吾の《Z58》、青木淳の《尚嘉中心》など、日本人建築家の作品が増えていた。浦東一の高さとなる超高層ビルの上海センターは、もうだいぶ完成しており、すでにとても目立つランドマークになっている。

写真:上=《1933老場坊》、中上=neri&huによるリノベーション。中下=磯崎新《上海証大ヒマラヤ芸術センター》、下=《上海センター》

2014/03/10(月)~2014/03/14(金)(五十嵐太郎)

せんだいデザインリーグ2014 卒業設計日本一決定戦 公開審査

東北大学百周年記念会館川内萩ホール[宮城県]

仙台にて、卒計日本一決定戦の審査を担当した。午前は約3時間半かけて全作品を見る。昨年の日本一、高砂充希子の「工業の童話/パブリンとファクタロー」の影響が大きいことに驚く。すなわち、まわりの風景要素のサンプリング×搭状に積むタイプの作品が目立つ。そう言えば、大西麻貴の翌年にも同じ現象が起きていた。午後のファイナルの審査では、九州大学の岡田翔太郎による「でか山」で、日本一となる。アーキグラムのインスタントシティや神社建築の起源説のひとつを想起させる、七尾のプロジェクトだ。これは本当にできたら、是非行ってみたいと思わせる力があった。でか山は、この提案だからこそ、模型がデカ過ぎなのもありだと思ったが、来年以降、大きい模型だから評価されたと勘違いが起きないことを願う。今年の日本一決定の最後はでか山が突出し、バトルになりにくい流れだったが、ファイナリストでその可能性があったのは、東京理科大の安田大顕の「22世紀型ハイブリットハイパー管理社会」だった。22世紀管理社会は、ちゃんとした形態操作も伴うアイロニカルな社会批評なのだが、後者の細部があまり徹底されていないのが惜しかった。22世紀型の「理想」社会は、例えば、人口の半分が「犯罪者」とされ、いまの刑務所とは違うシステムだというところまで、フィクションのディテールがあれば推した。日本三は九州大学の市古慧の「界隈をたどるトンネル駅」である。リニアモーターカーの開通を見込み、名古屋駅の地下を巨大開発するというもの。地下街が発達した名古屋ならではの特性を活かし、名駅地下の着眼点はよいが、気になったのは、駅から納屋橋、錦三、円頓寺までずっとトンネル地下街が続くこと。これはさすがに相当な長さと規模になってしまう。今年は審査委員長が北山恒だったことから、全体として社会性が強く問われたと思う。

2014/03/09(日)(五十嵐太郎)

トウキョウ建築コレクション2014 全国修士論文展 公開審査

代官山ヒルサイドテラス、ヒルサイドプラザ[東京都]

トウキョウ建築コレクションの全国修士論文展では、パネルと実物、一部模型も展示されている。代官山のヒルサイドプラザの公開審査会に参加した。10名が発表し、質疑、そして全体の討議を行なう。予備審査では、学会や大学とは違う場なので、決まった枠組で精緻に調べたというよりも、論文を読んだ後、少し世界の見え方が変わるようなものを選ぶ。公開討論会を経ても、鬼頭貴大の『中世重層建築論』が突出しているという印象は変わらなかったため、五十嵐賞とした。日本建築史に垂直軸の意味論を導入しながら、古代の継承、大胆な仮説、二間論、具体的な設計論なども展開し、文章がちゃんとしており、読み物としても面白い。なにより自分の頭を使った論文である。

2014/03/07(金)(五十嵐太郎)

芳賀沼整、滑田崇志、滑田光、難波和彦(監修)《針生の箱》/手島浩之、武田幸司《サンカク、ヌケ、サンカク》(第7回 JIA東北住宅大賞2013)

[福島県、宮城県]

審査の三日目は、郡山から約2時間半をかけて、難波和彦の監修、芳賀沼整、滑田崇志、滑田光による《針生の箱》を見学する。山奥の雪に耐える自邸であり、まさに建築家の実験住宅だ。地産材を活用した縦ログ構法による木造プレハブで大きな空間をつくる。道路側は閉鎖的だが、4つの正方形を崩しながらつなぎ、庭側は気持ちのよい吹抜けと大きな開口を生む。今年はこれが東北住宅大賞に選ばれた。
仙台に移動し、手島浩之/武田幸司による《サンカク、ヌケ、サンカク》へ。郊外の新興住宅地において、斜めの切断線を敷地に挿入するシンプルな操作だ。が、これにより近接する両側の家に対して、2つの三角ヴォリュームでブロックしつつ、持ち上げた斜めのテラスが中庭として機能し、遠くの眺望を得る。巧みな配置と断面の微妙な操作は、さすが手島の持ち味だ。

写真:上=芳賀沼整、滑田崇志、滑田光、難波和彦(監修)《針生の箱》、下=手島浩之、武田幸司《サンカク、ヌケ、サンカク》

2014/03/03(月)(五十嵐太郎)