artscapeレビュー
建築に関するレビュー/プレビュー
《久慈市文化会館アンバーホール》《田野畑中学校・寄宿舎》ほか
[岩手県]
4日間かけて、八戸から南下し、福島までを縦断。透明な円錐形のヴォリュームによってアブストラクト・シンボリズムを表現した黒川紀章の久慈市文化会館アンバーホールや野田を経由し、東日本大震災の津波を防いだことで有名になった普代村の巨大防潮堤を訪れた。田老地区のスーパー堤防に比べて、長さは全然ないが、確かにすさまじい高さである。上に登って見渡すと、空っぽになったダムの中の村というべき風景だ。田野畑村では、穂積研究室や古谷誠章らによる質の高い建築群を見る。中学校の寄宿舎は傑作だ。一方、建て替えになった中学校は、残念ながら道の駅スタイルに変わっている。続いて、田老、宮古、山田町、大槌を久しぶりに訪れる。あれだけあった瓦礫は消えた。が、前に瓦礫の街を見ていなければ、果たしてそのことを想像できただろうか。
写真:左上=黒川紀章《アンバーホール 久慈市文化会館》、右上=普代村、左下=早稲田大学穂積研究室+古谷誠章《田野畑民俗資料館》、右下=穂積信夫《田野畑中学校・寄宿舎》
2013/04/27(土)(五十嵐太郎)
市民公開講座「金沢学」第1回「建築文化からみた金沢の近代化」
会期:2013/04/13
北國新聞社 20階ホール[石川県]
北國新聞社にて「近代化支えた偉人学ぶ」市民公開講座「金沢学」の第一回として「建築文化からみた金沢の近代化」で基調講演を行ない、その後、水野一郎さん、川上光彦さん 、小倉正人さんらとパネル討議。実は筆者にとって金沢での講演はやりにくい。小中高と12年も暮らしながら、建築を学ぶ前で何も見ていなかった、ぼんくらの時代を思い出すからだ。いまなら初めての都市でも、どう見ればいいかすぐにわかるが、金沢は初見の関係になることを許してくれない。が、開き直って、講演ではいわば外国人として金沢を語ることにした。金沢生まれの谷口吉郎論をメインとしつつ、何にも似ていない尾山神社神門、明治時代につくられ、いまもよく残る近代の教育と軍関係の施設などを紹介する。また谷口吉郎と息子・吉生の共作、玉川図書館(これは近代と現代をつなぐリノベーションでもある)から、金沢に登場した吉生の鈴木大拙館、ニューヨークのMoMAの増改築へ、そしてSANAAの金沢21世紀美術館からルーブル美術館のランス別館へ、の二系統を提示し、世界水準の建築につながっていることを論じた。ちなみに、金沢出身では、市長にまでなった片岡安もいる。彼が都市計画や法規、実業界に影響をもったのに対し、谷口吉郎は機械(工場を研究したり、大学院では佐野利器に学ぶ)と美(記念碑、美術館、九谷焼の窯元出身、伊東忠太にも師事)の間を往復しつつ、いずれも純粋ゆえに魅せられ、法規ではなく、生活美の延長による街並みを唱えた。筆者の立場も後者側に近い。
写真:上=《尾山神社》、下=《玉川図書館》
2013/04/13(火)(五十嵐太郎)
目黒天空庭園
[東京都]
目黒区みどりと公園課の案内で、池尻大橋の天空公園を訪れる。ここは首都高の巨大ジャンクションだが、クルマが見えないようにコンクリートの壁でふさぎ、コロセウムのような外観をもつ。その中心の地上にスポーツ場、また屋上を弧を描きながら傾斜するダイナミックな公園にしたもの。さらに隣接する高層ビルやマンションと接続する。細部のデザイン、あるいはランドスケープは、高架の路線跡を緑道としたニューヨークのハイラインに比べて劣るものの、プログラムのユニークさが圧倒的。おそらく世界初だろう。徹底的にインフラを活用する超巨大版のメイド・イン・トーキョーとも言える。
2013/04/09(火)(五十嵐太郎)
渋谷
[東京都]
『カーサ・ブルータス』の編集部と、渋谷を撮り続ける佐藤豊さんに街の変遷についてお話しをうかがい、過去の写真をいろいろ見せていただく。オリンピックを契機に整備された公園通りは、かつて連れ込み宿が多く、いまとは全然違うイメージだったなど、歴史の生き証人だった。その後、パルコ40周年ということで、撮影に立ち会い、インタビューを受ける。個別の建築はそれほど変わったデザインではないが、坂道が多い地形のなか、ネットワーク的に連結する店舗群が渋谷という街と人の流れを確かに変えた。
2013/04/08(月)(五十嵐太郎)
《石川近代文学館》《石川県立歴史博物館》《金沢くらしの博物館》ほか
会期:2013/04/03
[石川県]
久しぶりに金沢の近代建築群をまわる。建築史の勉強を始めてすぐ見て、それ以来だから、20年ぶりくらいになるだろうか。空襲や地震などの被害を受けなかったこともあるが、石川近代文学館(旧制第四高等中学校本館)、石川県立歴史博物館、金沢くらしの博物館(旧制金沢第二中学校)、旧陸軍金沢偕行社、陸軍第九師団司令部庁舎など、改めて明治の建築がよく残り、しかもリノベーションされながら、活用されていることを確認した。かといって過去に囚われるのではなく、相変わらず美しい空間をつくる谷口吉生の鈴木大拙館、工藤和美の金沢海みらい図書館など、新しい現代建築も着実に増えている。こうしたまちの雰囲気は、どことなくヨーロッパの中規模都市を思い出させる。
写真:左上=《旧第四高等中学校本館(石川近代文学館)》、左中=《旧陸軍金沢偕行社》、左下=谷口吉生《鈴木大拙館》、右上=《石川県立歴史博物館》、右中=《旧陸軍金沢偕行社》、右下=堀場弘+工藤和美《金沢海みらい図書館》
2013/04/03(水)(五十嵐太郎)